第3話 碧海
夏休みに私と羽美と綾乃の三人で海に行く予定を立てた。
そこは、海が綺麗と有名な所だった。三人ともとても楽しみにしていた。
当日、綾乃が体調不良で来られなくなってしまったのだ。
すでにホテルを予約していることもあって、私と羽美の二人だけで行くことになった。
こんなことを思ったらいけないことは分かっていたが、それでも私は羽美と二人きりなことがとても嬉しかった。綾乃のことが嫌いな訳ではないのに……。その時は、私は私が分からなかった。
そして、お昼ごろに海に着いた。
水着に着替えて、めいっぱい海で遊んだ。夕暮れになるまで。
服に着替え、砂浜を歩いた。そこで見た景色、話した内容を十年たった今でも鮮明に覚えている。
夕暮れによって碧に光る海。それはまるで宝石のようだった。そして、あの子そのものだった。私から見たあの子はこんな風に輝いている。これはきっといつまでも色褪せない青春だ。
二人で幻想的な海を砂浜に座り静かに眺めているなか、羽美が突然こう言った。
「ねえ、奈々。綾乃来られなくて残念だったね。三人だったらもっと楽しかっただろうに。」
その言葉に私はズキンときた。何故だろう?私も三人で来られたら楽しかったと思う。だけど、今回、羽美と二人きりで来られて、羽美を独り占め出来て本当に嬉しかったんだ。
認めよう。私は羽美に恋してる。女子同士なのにとか関係ない。だって、羽美のことが好きだから。友達としてもそうだけど、付き合いたいって心の底から思っている。
羽美は友達思いで誰にでも優しくて、天然で可愛くて、すぐに笑っちゃうお茶目で、だけど習字で書く字がとてもカッコよくて、でも普段の字は可愛らしくてそんなギャップな一面のあるところに私は好きになったんだ。
愛おしくてたまらない。羽美のことを考えると幸せになれる。
私は、羽美に誰よりも幸せになって欲しい。
だから。だから、私のこの想いは伝えない。私じゃ羽美を幸せにできない。
女子同士とか関係ないとか思っておきながら、やっぱり普通じゃないことだから。
この世界は普通が一番幸せだと思うから。
なんてね。ただ怖いだけなんだ。羽美に拒絶されることが。友達ですらいられなくなることが。
「でも、奈々と二人きりなんてなんだか照れくさいや。二人で遊んだの絶対に忘れないから!またここに来ようね。」
羽美がふとそう言った。
その言葉だけで私は幸せなんだ。
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