第34話 ハロルド視点3 王位に望みなどありませんが、周りがきな臭くなってきた

山賊の残りの数人を斬り捨てると、流石に山賊共は逃げて行った。


その場で逃げていく山賊を追って全員殺してしまえば良かったのだが、気絶したキャサリンを残して馬で駆けるわけにもいかなかったのだ。



しばらくしたら生き残った3人の騎士達が集まってきた。


できればこのまま夜通し馬車を駆けさせたかったが、また、別の山賊のアジトも近いと言うので、とりあえず、野宿することにした。

それが間違いだったのだが・・・・




ハッと気づくと、誰もいなかった。


眠り薬でも入れられたらしい。痛恨のミスだった。1時間位熟睡していたらしい。


やばい。俺は慌てて、攫われたキャサリンの跡を追うことにした。


幸い馬の足跡が残っていて、それを付けて行くと。洞窟にたどり着いたのだ。


見張りを人質にして、中に案内させると、まさにキャサリンが男に襲われているところだった。


「そこまでだ。全員武器を捨てろ」

慌てた俺は思わずそう言ってしまっていた。キャサリンの一大事たと思って慌てたのだ。


でも、そんなので山賊共が聞くわけはなかった。逆にキャサリンを盾に取られてしまった。


キャサリンの顔が馬鹿めと怒っていた。


呆然とする俺の前で、キャサリンは山賊の頭に貧乳と言われて、激怒、障壁を発動させたのだ。


俺が裏切り者の騎士を3人処分する間に、キャサリンは山賊を殲滅、洞窟を崩落させていた。


その障壁の力は驚くものがあった。


使った後は相変わらず、気絶していたが・・・・。



翌朝気付いたキャサリンは、金が下敷きになったとか、大騒ぎして叫んでいたが、それは仕方がないだろう。


馬もキャサリンが洞窟の下敷きにしたので、歩いて国境の町まで行くしかなかった。



しかし、キャサリンにそこまでの体力があるわけはなく、こいつ、本当に冒険者になるつもりがあるのか? 思わずガン見してしまった。仕方がないので背負ってやると気持ちよさそうに俺の背中で寝やがるし、どうしようもない。

まあ、寝顔は可愛かったが・・・・。


街についたと起こして、人の背で寝やがってと文句をいうと、何故かこいつがいきなり泣き出したのだ。


鋼鉄の心臓をもつ、悪役令嬢が泣いている? 俺はもうびっくりした。


そこに俺の育ての親の辺境伯がいたことも驚いたが、辺境伯にも女を泣かすなんて最低だと叱られるし、最悪だった。



挙句の果てには辺境伯についてダンジョンに潜るなんてわがままなこと言い出すし、必死に止めようとしたが、何故か辺境伯も連れて行くと言うし、仕方なしに行くことにした。


その夜辺境伯と話した。辺境伯のところにも国王から俺を連れて一度顔を出すように、矢のような催促が来ているという。


「この度は若も活躍されましたな」

エイブが喜んでいう。


「俺は何もしていない。キャサリンが勝手にそうしただけだ」

俺がぶすっとして言うが、


「左様でございますか。ロンド王国では氷の騎士と言われたハロルド様が殺されそうになった婚約破棄された公爵令嬢を、王子の魔の手から守ったと大変な人気になっているとか。辺境伯領まで、その噂が流れてきて、領民一同とても喜んでおります」

エイブは我が事のように喜んでくれる。


「今回の件で陛下のお心も若に傾いたようで」

「その件は断る。王太子は弟で良いであろうが」

エイブの不吉な一言に俺は即座に否定した。


「左様でございますか? そのシェフィールド公爵家から、我が家にもぜひとも若の嫁にその令嬢を娶るようにご説得していただきたいと使者が参りましたが」

誂うようにエイブが言ってきた。


「公爵は俺の身分を知っているのか」

「さあ、良くは判りませんが、元々、ハロルド様の身元保証人は私ですからの。ただ、公爵家の人脈を使えば、調べられるかも知れません」

俺は頭を抱えたくなった。この分では釣り書が父の元にもいっている可能性がある。


隣国の婚約破棄された可哀想な令嬢をその破棄した王太子から守ってやった自国の王子と結婚させる。派手好きな国王が喜びそうなことだ。


でも、そうなると俺は隣国と大きなパイプが出来る。シェフィールド公爵家は豊かな領地を持ち、ロンド王国内のみならず、この国にも大きなパイプを持っているのだ。ロンド国王としても、自国の家臣の娘が隣国の王妃になれば、プラスになると判断するはずだ。


「余計なことだ。俺は王位を継ぐつもりはない」

俺は首を振ったのだ。


俺は弟と違って野心など無いのだ。


しかし、周りがそれで許してはくれなかったのだ。

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