第21話 辺境伯の館で変な動きを感じました

バーミンガム辺境伯の領主の館は要塞だった。

街の外れに立っているそれは小山の頂上に建っていた。


石造りの城壁で囲まれたそれは、おいそれとは堕とすのは大変そうだった。


「お館様だ」

「お館様が戻られたぞ」

屋敷にエイブさんが入った途端に、歓声が上がった。


そこには鎧を着た騎士達が多数揃っていたのだ。


その後ろからハロルドが入ってきて、また歓声が上がる。

「若だ」

「若が助けに来て頂けたぞ」

皆あっという間に私達の周りに寄ってきた。


でも、私は振り落とされないようにハロルドの腕に捕まるのに精一杯で、半死半生だった。もう涙目だ。


「若、ようこそいらっしゃいました」

少し貫禄のある年配の女性の方がこちらに歩いてきた。


「アデライン。また、少し、世話になる」

ハロルドが挨拶する。


「こちらの女性の方は」

戸惑い気味にアデラインと呼ばれた年配の女性が聞いてきた。


「ロンド王国の貴族の令嬢で、キャサリン嬢だ。面倒を見てやってほしい」

そう言うとハロルドが私を降ろしてくれた。


「キャサリンです」

私は礼をしたが、うまく出来ず、思わず地面にへたり込んでしまった。


「まあまあ、貴族の令嬢が馬に乗せられて来るなんて大変だったでしょう」

そう言いながら、アデラインが起こしてくれた。


後で聞いた話だが、この肝っ玉母さんが、辺境伯の奥さんだった。


私はアデライン様に部屋に案内された。


疲れ切った私はそのまま、あっという間に寝落ちして、翌朝まで起きなかったのだ。




翌朝は龍ちゃんの鳴き声で起こされた。


「ピーーーー、ピーーーーー」

煩いのだ。


「龍ちゃん」

私がベッドから起き上がると、


ドアのところでピーピー鳴いている。


「はいはい、お待たせ」

そこにアデライン様が、扉を開けて更に肉を持ってきてくれたのだ。


「ピーピー」

龍ちゃんはアデライン様の周りを喜び勇んで回っていた。


私は龍ちゃんはなんか簡単に食べ物でつられそうと思わず判ってしまった。



「キャサリンさんも、お腹が減ったでしょう。昨日の夜は食べられずに寝られたから。

食堂に用意してありますから、どうぞお越し下さい」

私はアデライン様のお言葉に甘えることにした。


食事をあっという間に終えた、龍ちゃんを連れて食堂に向かう。



「これはこれはきれいなお嬢さんだ」

「中をご案内しましょうか」

「なんでしたら、食事をお取りしますが」

バイキング会場に入った途端に騎士達に囲まれてしまった。


「おい、お前ら、一応、キャサリンはロンド王国からのお客様だ」

ハロルドが騎士達を退けてくれた。


「えっ、これは失礼しました」

「若のお相手でしたか」

「しかし、若が令嬢をお相手するなんて珍しいですな」

「初めて見ました」

騎士達がハロルドに言う。


「このキャサリン嬢とペットを怒らせないように注意しろよ。怒らせるとこの辺境伯の要塞も一瞬で崩壊するぞ」

ハロルドはとんでもない事を言うんだけど。何よそれ。


「えっ、そうなんですが」

「とてもおきれいな令嬢だと思うんですが」

「ペットも可愛いですし」

騎士達は不満そうに言う。


「人は見かけによらないんだよ」

「ハロルド、何よ、その言い方」

ハロルドの言い方に、私がムツとして言う。

「ピーーーー」

龍ちゃんも怒ってくれた。


「まあ、若の良い人ならば手は出しませんが」

騎士達はそう言うと慌てて離れていった。


「えっ、そんな事無いって」

私が必死に否定するが、誰も聞いてくれなかった。


「せっかく誰か冒険者のパートナーになってくれる人がいたかもしれないのに」

私がムッとしてハロルドに言うが、


「まだ、そんな事言っているのか」

ハロルドが呆れて言うんだけど、私はハロルドに負けないと決めているのだ。




その日は戦闘の準備に皆忙しいので、私は暇なハロルドにこの要塞を案内してもらった。


この要塞はここ100年間スノードニアとの戦いで占領されたことはないとのことだった。流石に重装な造りの要塞の前には空堀があり、1万人まで収容できる要塞は盤石だった。


要塞の城壁に登らせてもらうと、目の前には林が広がっていた。

そして、はるか先に敵の要塞が見える。


そこには旗が林立していた。


「ウーーーーーウーーーーー」

何か不吉なものを感じたのか、それに向かって龍ちゃんが必死に鳴くので、私達はあまり周りの兵士たちを邪魔するのもあれだと思ったので、慌てて下に降りた。


いつもは静かな龍ちゃんがどうしたんだろう?


下に降りたらいつもの龍ちゃんに戻ったんだけど。





その日はオフロに入ってゆっくり休んだのだった。


でも、真夜中に私は


「ウーーーー、ウーーーー」

鳴く龍ちゃんに叩き起こされたのだ。

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