第19話 戦雲漂う辺境伯領の領主館に招かれました

辺境伯領は、ケタリング伯爵領から8時間位のところにあった。

私はエイブさんに、周りに勘違いされるとまずいからと言われて、結局またハロルドの馬に乗せてもらうことになった。別に私はエイブさんだったら、問題ないと思うのだけれど、辺境伯領には、エイブさんの奥様も待っておられるとのことなので、それは勘違いされたらまずいだろうと納得した。


でも、ハロルドに対してはそういう事を考えなくて良いのだろうか?

考えたらハロルドに婚約者がいるのとか、付き合っている女がいるのかとか聞いたことはないが、これだけ容姿が整っているのだから絶対にいるはずだ。何でも話に聞くとハロルドは修行のためにロンド王国に滞在しているのだとか。私もあんまり近づかないほうが良いと思うのだけど。


「おい龍こう、お前飛べるんだろう。じゃあ、キャサリンにしがみつかなくてもいいだろうが」

私の後ろからハロルドが問いかけるが、龍ちゃんはプイッと顔をそらすのだ。

なんか、乗せてくれたのは良いのだけれど、ハロルドは私の胸にしがみついている龍ちゃんを目の敵にして色々文句つけてくるんだけど、なんとかして欲しい。


「お前な」

ハロルドがむっとするが、


「まあ、若、キャサリン様のペットに嫉妬しても仕方がないでしょう」

「嫉妬なんかしておらんわ」

ムッとしてハロルドが言うんだけど。


「何で俺がこんな女に嫉妬せねばならない」

「そうですか。じゃあ、部下にキャサリン様を乗せるのを代えましょうか」

「はい、俺やります」

エルマーさんが立候補してきた。


「何か言ったか」

その途端ハロルドが不機嫌オーラ全開で睨みつけるんだけど、そんな事したらエルマーさんに代わってもらえなくなるじゃない。何がしたいのよ!ハロルド!



バーミンガム辺境伯領はこのベルファスト王国の東方の守りの要だ。我がロンド王国とスノードニア王国と国境を接していた。

我がロンド王国とはしばらく戦はなかったが、隣のスノードニア王国とは小競り合いも多いと聞いていた。



辺境伯領に入った途端に、

「あっ、お館様のお帰りだ」

「お帰りなさいませ。お館様」

砦の兵士たちが声をかけてきた。

エイブさんが手を振っているが、


「お、お館様?」

私はびっくりした。


「エイブさんって辺境伯様だったのですね」

私は驚いてエイブさんに言った。


「言っておりませんでしたか」

エイブさんはとぼけてくれるんだけど。


「何だ。キャサリンは知らなかったのか。彼はエイブラハム・バーミンガム辺境伯だ」

ハロルドが言うんだけど、遅い。もっと早く教えて欲しかった。だって、私は隣国の辺境伯の馬に乗せてもらっていたのだ。辺境伯にそんな事してもらうなんて普通はとんでもないのに。



「父上!」

そこへ馬を飛ばして、一人の凛々しい騎士がかけてきた。後ろから10騎ばかりがついてくる。

父ということは辺境伯の息子だ。


「どうした。アーチボルド」

「これは若」

辺境伯といっしよにハロルドがいることに驚いて彼は馬を降りて礼をするんだけど。


「アーチボルド、止めてくれ。私は今は隣国のただの騎士だ」

慌ててハロルドが言うんだけど、辺境伯や、その息子に若って呼ばれるハロルドの正体は何なんだろう?


私は疑問しか残らないんだけど・・・・


「若が女連れとは珍しいですな」

「ロンド王国のシェフィールド公爵家のキャサリン嬢だ」

「えっ、若もついに結婚されるお相手を見つけられたのですか」

辺境伯の息子の言葉に私は真っ赤になった。


「そんな訳なかろう」

ハロルドが瞬時に否定している。


「しかし、若がいまだかつて、女性を馬に乗せているのを始めて見ましたが」

「こいつが乗れないから仕方なしにだ」

「別に無理に乗せてもらわなくても良いんですけど」

私がムッとして言う。


それを見てエイブさんが笑われた。


「キャサリン嬢、儂の嫡男でアーチボルトと申します」

「アーチボルトです」

「キャサリンです。公爵家は追い出された格好になっているので、この国で冒険者にでも成れたらなと思っているんです」

「はっ?」

私の言葉にアーチボルトが驚いているんだけど、やっぱりそんなに変だろうか?


「お前まだ、そんな夢物語を」

ハロルドがムッとして言うんだけど、そこまで言うか?


「まあまあ、続きは館で聞きましょう。それよりもアーチボルト何か急ぎの用があったのではないか」

「そうでした。ちょっとスノードニアの動きがきな臭いのです。攻めて来るやもしれません」

「なんじゃと」

「本当か」

辺境伯とハロルドが慌てだした。


「では、急いで館に行かねばなるまいて。若はキャサリン様とごゆるりと参られて下さい」

そう言うとエイブさんが馬を飛ばして駆け出した。


「いや、俺もすぐに行こう。キャサリン捕まっていろ」

「えっ、いや、ちょっと待って、それ困るって」

私の必死の叫びを無視してハロルドは馬を飛ばしだしたのだ。


私は舌を噛まないように、というか落とされないように必死にハロルドの腕に捕まっているので精一杯だった。


私は館に着いた時は私は半死半生の状態だった。


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