第5話 隣国へ遊学にの途中で矢が馬車の中に突き刺さりました

「ルンルンルン」

私は馬車の中ではとても、ご機嫌だった。


断罪途中に王宮の大階段から死のダイブ中に、前世の記憶を取り戻して、自分が悪役令嬢に転生しているのを知ってから、やれるだけの事はやったのだ。あんな状況からよくここまで盛り返したと思う。私は本当に自分を褒めてやりたかった。


何もしなければ、私は聖女を突き落とそうとして王太子に邪魔されて失敗して断罪、国外追放の途中で破落戸共に襲われて傷物にされて娼館に叩き売られる未来だった。


でも、最後の私の作戦が当たって、大階段から再度王太子に突き落とされた現場を、大半の舞踏会参加者によって目撃されたのだ。王太子が自分は嵌められたんだという声は、私も嵌められたという私の声によって相殺。結局私はお咎めなしになったのだ。


王太子を罪に問う私の父の追求に陛下は改善案を提案し、父は不満たらたらながら応じたのだ。

王太子は隣国ウエル王国に3年間留学することが決まった。3年間静かに隣国で謹慎しろという話なのだ。

淫乱聖女は厳しいと言われる修道院で3年間修業をするという厳しい罰が下された。

まあ、当然だよね。婚約者のいる王太子と男女の仲になったのだから。淫乱聖女のあだ名も定着したし、ざまあみろっていう感じだった。


さすがの私もそのままこの国にいるわけにもいかず、3年間の隣国ベルファスト王国に遊学することが決まったのだ。隣国では我が公爵家の遠縁に当たるケタリング伯爵家に、滞在することに決まったのだ。王家からは婚約破棄の慰謝料やら諸々で金貨2千枚が下されることになったのだ。私はそのうち1千枚を持って遊学することにしたのだ。


まあ、私としては、あんな最低の王太子のいるこの国なんかに帰って来る気はなかったのだ。



「何が嬉しいんだ」

そんな私を見て、馬車の私の前に座っていたハロルドがブスッとして聞いてきた。


あの大階段の二度目のダイブで、ハロルドは流石に目の前に飛んできた私を見捨てるわけにもいかず、浮遊魔術を使ってしっかりと受け止めてくれたのだ。


ゲスな王太子に比べて、ハロルドの人気はうなぎのぼりだった。


そんな彼に私は、隣国の伯爵家までの護衛をお願いしたのだった。


まあ、無理やり私の護衛と言うか見送り役として伯爵家まで私についていくことになった、ハロルドがご機嫌になれるわけはなかったが。


良いじゃない。私のお陰で人気倍増になったのだから。


殺されそうになった悲劇のヒロインを助けた騎士、ハロルド、公爵令嬢と新しいラブロマンスが生まれ・・・・。

「生まれるか。そんなの」

私の言葉が漏れていたようで、即座にハロルドに否定された。


うーん、ハロルドも冷たい。私は公爵令嬢だし、胸はピンク頭ほどないけど、顔は結構ましだと思うのだけど。


「ふんっ、無理やり、人を助けたことにしてくれて、こちらとしては迷惑だ」

ハロルドがムツとしていってくれた。


「すいません。テルフォード様にご迷惑をおかけして。私も命が惜しいので」

私が頭を下げると


「本当に襲ってくるのか」

「さあ、私が淫乱聖女ならハロルド様がいなくなってから襲うと思いますが。ハロルド様相手では勝てませんから」

「おいおい、相手は腐っても聖女だぞ。そこまではしないだろう」

「あのピンク頭ならやりますわよ。私にあれだけコケにされたのですから」

私は笑って言った。


「なら聖女をけなすのを途中で止めろよ」

呆れてハロルド様が言うが、


「私にも意地がありますわ。元々私は殿下の婚約者だったのです。その私をここまで蔑ろにしてくれた罰です」

私は胸を張って言った。


「そんなに殿下の婚約者が良かったのか」

「なわけないでしょう。あんな女たらし。別れられて清々しましたわ」

私がハロルドに反論すると


「ならもっと前に別れればよかったのに」

ハロルドに最もな事を言われた。


「そうなんです。本当に私は馬鹿でした」

私はハロルドの声に頷いたのだ。


「世間には私の目の前にいらっしゃるハロルド様みたいな良い人がいっぱいいらっしゃるのに、あんな最低な王太子しか見えていなかったなんて本当に馬鹿でした」

「褒めても何も出んぞ」

私の言葉にハロルド様が嫌そうに言うんだけど、別に何も欲しいとは思っていないし。


「でも、あんな騒ぎを起こした私なんて、嫁の行きてもないと思うんです」

「いや、そんな事は」

「じゃあ、ハロルド様がもらっていただけますか」

「いや、それは」

私の言葉にハロルドが躊躇した。


「でしょう。だから、もう、ベルファスト王国で生きていこうかなと」

「でも、この地でどうやって生きて行くのだ」

「まあねこの国ならば私の噂もあまり流れていないと思いますし、最悪平民として生きていこうかなと」

真面目な顔で言った。


「えっ、しかし、罪は不問になったんだろう」

「でも、次代があの女たらしの王太子ですよ。何か根に持ちそうだし、私がこの国にいればなんか因縁をつけてきそうですもの」

「まあねそれはそうだが」

お前騎士なのに、頷いて良いのかと私は思わないでもなかったが、

「しかし、キャサリン嬢、どうやって生きて行くつもりだ?」

心配そうに聞いてくれた。氷の騎士とか皆に言われているが優しいとこもあるみたいだ。



「私こう見えても平民のように家事一般はできるんです」

私は胸を張って言った。そう、前世では炊事洗濯はもとより家事全般全てのことを親に言われてやっていたのだ。裁縫も少しはできる。平民として生きていけるだろう。



「公爵令嬢がか」

呆れたようにハロルドは私を見た。


「でも、金貨をもらったと言っても生活の糧はどうするのだ。いつまでも金はあるわけではないぞ」

「私、障壁には自信があるんです」

「ああ、あの自らの命を救った障壁か」

ハロルドは私が障壁を張ったのを知っていた。


「はい。それで冒険者ギルドに登録して冒険者としてやっていこうかと」



「はあ?、何を言っているのだ。貴族令嬢が冒険者などやれるわけはないだろう」

馬鹿にしたようにハロルドは言ってくれた。


「そんなの、やってみないと判らないではないですか?」

「やる前から出来ないのは判っているわ」

私はハロルドの意見にプッツンと切れてしまったのだ。


「何でそんな事言うんですか。私、取り柄って障壁しかないし。障壁だけよくても騎士になれないでしょう。それに隣国の王宮で追放された私なんて、ベルファストの王宮でも雇ってくれるわけないし、冒険者なら後方の護衛役兼雑用係でやっていけると思ったんです」


「何言っているんだ。そんなの無理だろう。そもそも君のようなきれいな令嬢が冒険者たちの荒くれ者の中で生きていけるわけ無いだろうが。愛人兼雑用係になるのが関の山だろうが」

「あ、愛人ですって。そんな訳ありません」

「現実がそうだと言っているんだ」

ハロルドは容赦がなかった。


「酷いハロルド様、いくら私が婚約者を寝取られたからって今度は私に冒険者の愛人になるなんて」

「だから現実はそうだと言っているんだ」

「そんなのやってみないとわからないでしょう」

私達が言い合っていた時だ。


「危ない」

いきなりハロルドが私にのしかかってきたのだ。


えっ、いきなりここでハロルドに襲われるの!


私は完全にパニクってしまった。


グサ!


しかし、私のさっきまでいた壁に、天井を突き破った矢がぐさりと突き刺さったのだった。

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