第4話 聖女視点1 嵌め返されて、悪役令嬢は何があっても許さないと心に決めました

私は聖女アデラ・ヘセイ。この国の唯一の聖女でとても尊い存在だ。


そして、この小説『ロンドのピンクの薔薇』のヒロインでもある。



18歳の時に聖魔術を発動、その時に前世の記憶も全て思い出したわ。


そう、私はその小説の大ファンだった。ブラック企業勤めのアラサーだったけれど、その小説は時間を作って5回も読んだわ。聖女アデラは私みたいにひねくれていないし、私と違って本当に性格も容姿も何もかも天使だった。

その相手の王太子のエイベルは見目麗しく本当に格好良かった。何回も悪役令嬢のキャサリンの嫌がらせから助けてくれた。最後に、私が悪役令嬢のキャサリンに階段から突き落とされそうになった時も、私を庇ってくれて悪役令嬢を断罪してくれて本当に格好良かった。


そんな小説を読んでいる時に目の前の少女が、突っ込んできた車に撥ねられそうになったのを見た瞬間に、私としたことが何をとち狂ったのか、そのヒロインの聖女みたいに思わず助けてしまったのだ。


そして、天国で黒服に会えた時は本当に感動してしまった。物語の中に入れた気分だった。

でも、黒服は私の希望を聞くととても嫌そうな顔をしやがったのだ。


「なんだ、話と違うじゃん」

「当たり前でしょう。そんな話は私は知りません」

そう言う黒服をなだめすかして、なんとか希望を聞いてもらえた時はほっとした。胸の大きく開いた服を着ていたのもプラスだったかもしれない。黒服はいやらしそうな目つきで私を見ていたのだ。まあ、男なんて皆私の体をいやらしそうな顔で見るのだ。そんな男を繰るのなんてとても簡単だった。



そんな私も転生したことなんてすっかり忘れていたのだ。聖魔術を発動するまでは。


そして、教会に認められるとすぐにヘセイ男爵とかいうエロ豚親父がやってきて、私を養女にしてくれた。

親父はいやらしい目で私を見ていたが、私を大切な商売道具だと思っていたようで、私に手を出してくることはなかった。


もっとも私はその頃には村で三人の男に体を開いていたのだが。当然男爵の養女になった後はそんな男達のことは忘れてしまったが。


エイベルに会えたのは1年前だった。実物も物語と同じで本当に素敵だった。


そんな王太子と親しくなるのはすぐだった。


しなだれかかって「殿下は素晴らしいです」

胸の大きく開いたドレスで迫ったらイチコロだった。


あっという間に男女の関係になった。この王太子は相当遊んでいるみたいだった。


婚約者のキャサリンが口うるさいだの、身持ちが硬すぎるだの婚約者の愚痴も多いし、悪役令嬢を引きずり落とするのは簡単だろうと思ったのだ。


何しろキャサリンは単純なのだ。簡単に罠にかかってくれるし、すぐに私を皆の前で攻撃してくれるし、私はそれをうそ泣きして耐えているだけで、皆の好感度が上がるのが判った。

物語の中でもあそこまで単細胞だっけ? と私は肩透かし食らうほどに単純だったのだ。


そして、泣いている私をベッドの中でエイベルが慰めてくれた。


「あの女が威張っているのも今のうちだ。次の王宮舞踏会で、あの女を断罪する」

エイベルが宣言してくれた。


そう、ついにクライマックスの王宮舞踏会だ。


ここで、かの悪役令嬢は私を大階段から突き落とそうとして失敗、国外追放される途中で破落戸に襲われて傷物にされた挙げ句、娼館に叩き売られるのだ。


そのための手配も全てした。何しろこの国のヤクザ組織のトップは私の情夫なのだから。



エイベルは司法長官を抱き込んで多大階段の途中にいさせた。目撃者も5名以上、事前に配備して、私と階段の上でイチャイチャしたのだ。キャサリンがそばに隠れているのを知っていて。


頭にきた単細胞のキャサリンが飛びかかってくるのとエイベルが私を引き寄せてくれるのが同時だった。


でも、あの女、よっぽどドジなのか私にかすりもせずに、階段からダイブしたのだ。


ええええ! ここまで運動神経無かったの?


確か物語では私に体の一部が触れて落ちていくはずなのに、全くかすりもしなかったのだ。


エイベルが浮遊魔術で止めようとしたたのを、私は止めた。ここまで馬鹿だと自殺したと思わせたほうが良いのだはないかと思ったのだ。幸いにしてし一人で飛び出したのだし。


案の定キャサリンは地面に激突する寸前まで誰も助けなかった。


何故か死ななかったみたいだが。


カエルのように無様に地面にはいつくばっているのが見えた。


まあ、仕方があるまい、生きていたのなら断罪されるべきだう。その準備も万全なのだから


「その者を捕まえるのだ。今、我が最愛の聖女アデラを殺そうとしたのだ」

私は合図してエイベルに言わしめた。


そう、その時までは完璧だったのだ。



でもなぜか悪役令嬢はそれからが違った。

あろうことか大声でエイベルと私が悪役令嬢を突き落としたというのだ。


こいつは相変わらず、馬鹿だ。証人がこれだけいるのに、私を押そうとして飛び出したのは皆見ているのだ。

往生際の悪い悪役令嬢にエイベルが司法長官から説明させようとした時だ。


何故か悪役令嬢は自分という婚約者がいながら、エイベルと私が浮気していたのを何故見咎めなかったと司法長官を糾弾始めたのだ。


ええええ! そこを今言うか。それ関係ないよね。


思わずみんな対応出来なかった。


唖然としてしまったのだ。


そこに声高に私とエイベルがベッドを共にしていると言い出したのだ。


事実だが、流石にそんな事を大声で皆に言わせるのは良くない。


皆、そんな噂があるというのは次々に認めていくのだ。


おのれこの悪役令嬢め。未来の王妃の威厳が無くなるだろうが。


私も切れたのだ。当然、エイベルもキレた。


そして、エイベルが思わず悪役令嬢に触れてしまったのだ。その瞬間だ。


あろうことか、悪役令嬢はもう一度大階段からダイブしてくれたのだ。あたかもエイベルが突き落としたように。


そう、周りから見れば確実にエイベルが押したように見えたのだ。


ボケの悪役令嬢がこちらに向けた笑いは完全に私達を馬鹿にしていた。ざまあみろと言っていたのだ。


私は完全に図られたのが判った。この単細胞悪役令嬢に嵌められたのだ。まさか、この単細胞に嵌め返されるとは思っていなかったのだ。


「キィィィィィィィ」

私はハンカチを噛み締めて叫んでいた。

もう許さない! 私の夢にまで見た王太子妃生活が一瞬で吹っ飛んだ瞬間だった。


私はしばらく、戒律の厳しい修道院で修行させられることになったのだ。


その上、私はあのバカ悪役令嬢がさんざん叫んでくれた『淫乱聖女』のあだ名で呼ばれるようになったのだ。あの馬鹿だけは絶対に許せなかった。


私は直ちにやくざ者に命じたのだ。悪役令嬢を傷物にして娼館に叩き売れと。

あいつが二度とお天道様の下を顔を晒して歩けないように!

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