第3話 王太子に断罪されかかりましたが、大声で反論し、最後は王太子に突き落とされたことにしました

「その者を捕まえるのだ。今、我が最愛の聖女アデラを殺そうとしたのだ」

助かってホッとした私に、階段の上から悪魔な王太子の声が響いた。


ええええ! この糞王太子何考えているのよ。


今結果的に落ちたの私じゃない。あんた今私を殺そうとしたわよね。ピンク頭と一緒に。


それに何が最愛のアデラよ! あなたの婚約者は私よね!


私は絶対にこいつらだけは許さないと思った。



私と王太子の婚約は元々王家主導で結ばれたものだったのだ。私も見目麗しい王太子に恋もしていた。しかし、ここ6ヶ月の私に対する王太子の態度は何だ。それが婚約者に対する態度か?

それは確かに私も、ピンク頭の聖女にはいろんな事をした。

でも、それは全て、婚約者である私を蔑ろにした王太子のせいじゃない! 婚約者である私がピンク頭に、何故王太子の横にいるのって嫌味言っても問題ないよね!


何しろ私は王妃様からは王太子の婚約者なのだから男とは二人きりには一切なってはいけないと、くどいほど言われていたのだ。なのに、息子はピンク頭の異性と二人きりになり放題ってどういう事?


まあ、今はそれどころじゃない。どうやって生き残るかだ。

このまま王太子は私をピンク頭殺し未遂で断罪したいのだろう。

このままならね下手したら国外追放の途中で、ピンク頭の放った破落戸に襲われて傷物にされた挙げ句に、娼館行きが決定するのだ。


流石に私もそれだけは嫌だ。


ここは、誰を味方にしたら良いだろうか?


唖然としている父か? いやいやいやいや、娘大事のお父様だが、それこそ、王家と全面対決しても我が家は勝てない。まとめてお家断絶、下手したら反逆罪にされて全員処刑コース一直線だ。それだけは避けたい。


では、公明正大を売り物にする司法長官だろうか?


ダメダメ彼はもう王太子の犬だ。今回の件も王太子らと一緒になって仕組んだ可能性がある。私があのまま死んでいても、下手したらピンク頭殺人未遂をしくじって自殺したとして扱いかねなかったはずだ。


では、私を厳しく指導してくれた王妃様はどうだろう?


これもだめだ。息子可愛さのあまり、私をあっさり捨てること確実だ。


王子の声に騎士たちがワラワラとやってくるのが見えた。


あと残っているのは、私は必死に周りを見た。そして、やっと一人の男に目をつけたのだ。よし、彼にかけようと。


そして、私は息を吸い込むと

「キャーーーーー」

あらん限りの大声で悲鳴を上げたのだ。


皆唖然と私を見ていた。そんなのもう構ったものか。ここは言ったもの勝ちだ。


「そこの女たらしの王太子と淫乱聖女に大階段から突き落とされて殺されそうになりました」

「な、何だときさま・・・・」

王太子が何か言っているがそんなのもう無視だ。


「ありがとうございます。公明正大な騎士であらせられるハロルド・テルフォード様。あなた様が浮遊魔術を私にかけて頂けなければあの二人に殺されていたところでした」

そう言うと、私は王国最強の騎士ハロルドに縋り付いたのだ。女に迫られてもびくともしない氷の騎士として鳴らしたハロルドも、さすがに私にすがられて唖然としていた。まあ、こいつは落ちてきた私を救おうと思えば救えたのに、全く無視して見ていただけなのだから。それに私は鼻血で血まみれなのだ。そんな私に縋られて撥ね付けるわけにも行くまい。



「お前らも女たらしの王太子と淫乱聖女の手先として、私を亡き者にしようというのね」

私は迫ってきた騎士たちに金切り声を上げたのだ。


騎士たちも流石にギョッとして止まってしまった。私は自分の鼻血で血まみれの被害者のようにみえるのだ。そんな私に殺人の片棒担いでいると言われると騎士たちも流石に何も出来るはずはないのだ。


「いや、確かにお前、先程聖女様を押そう・・・・、ギャッ」

余計なことを言いそうになったハロルドの足を思いっきり踏む。


「人を見殺しにしようとしたあなたは黙っていて」

私は一言でハロルドを黙らせた。

「お前、後で覚えていろよ」

ハロルドが何か言ったが、そんなの無視だ。ここを乗り切れないと後なんてないのだから。


「何をしている騎士共。その狂人の女は今、確かに目の前で、聖女を突き落とそうとしたのだ」

王太子が何か言ってくれた。


「いいえ、私は邪魔になった女たらしの婚約者と淫乱聖女に殺されそうになったのです」

私はきっとして王太子に言い返したのだ。血まみれの私に言われれればそれが嘘でも信憑性はあった。


「何を言う。司法長官、その方も確かに見ていたよな」

慌てた王太子は近くにいた司法長官に聞いた。


「はい。私は確かに見ておりました」

司法長官はっきりと頷いたのだ。


「なるほど、司法長官殿は、私という婚約者がありながら、女たらしの王太子殿下が婚約者でもない淫乱聖女とイチャイチャしているのを確かに見られたのですね」

「えっ」

私の言葉に司法長官が固まった。


「何を言うのだ。今はそんな事を言っているのではない」

王太子は否定するが、

「私はそこを問題にしているのです。私という婚約者がありながら、女たらしの王太子殿下と淫乱聖女は皆の前でイチャイチャしていたのです。ハロルド様もそれは見られましたよね」

「まあ」

仕方なしにハロルドは頷く


「そこのあなたも見ましたよね」

「はい」

「そこのあなたも」

「はい」

私は周りのものに聞くと皆頷いた。




「本来、司法長官としてはそこを注意されるべきではなかったのですか?」

私が高らかに宣言すると、


「いや、そこは確かにそうなのですが・・・・」

「そらみなさい。あなたもそのことは認めるのですね」

私は反論を許さなかったのだ。


「司法長官。あなたの職分は風紀を乱す者を取り締まることも含まれておられるはずではないのですか。その貴方様ともあろうものが、目の前で乱れている風紀を取締もせずにそこで何をしておられたのですか」

私は更に畳み込んだのだ。


「何を言う、キャサリン。私は執拗にアデラを付け回す・・・・」

「まあ、殿下ともあろうものが、私という婚約者がいるにもかかわらず、他の女の方を名前呼びするなどそんな事をして良いのですか」

私が素早く言うと。


「いや、聖女殿がキャサリン嬢に執拗に付け狙われているとおっしゃられるから私が守っていただけで」

「ほうううう! それで婚約者である私のエスコートもせずに、私に恥をかかしておられたのですね。私は周りから皆に言われていたのです。『婚約者が女たらしでは大変ですね。それも歩く淫乱と言われる聖女様と一緒なんて』

『そうですわ。キャサリン様。あのお二人絶対に男女の関係になっているに違いありませんわ』

と散々言われましててよ」

私はそう言いながら階段を登ったのだ。ゆっくりと。


「な、何を言うのだ」

「そうよ。私達そんな関係ではないわ」

王太子とピンク頭が反論する。


「何を言っているのです。そこの貴方。その噂を聞かれたことはありますわよね」

私は途中にいた若い子爵令嬢に聞く。


「はい。噂は」

その令嬢は頷いたのだ。


「そこのあなたも聞いたことはありますわよね」

「はい」

私はその横の男にも聞いた。


そして、私はいつの間にか王太子の傍まで来ていたのだ。


「このように皆様、王太子殿下は女たらしで、聖女は淫乱であると知っておられるのです。そんな二人が淫行に及んでいるという真実の噂も皆様知っておられるのです」


「何を言う。勝手なことばかり言うな」

怒り狂った王太子が私の腕を掴んでなじろうとした。私はその瞬間を待っていたのだ。


「キャーーーーーー」

私は大声で悲鳴をあげると王太子に突き落とされたように階段から再びダイブしたのだった。


これだけ皆が注目していたのだ。どう見ても皆は私を王太子が突き落としたと思ったに違いなかった。これで皇太子も同罪だ。ざまあーみろ! 


私の悲鳴が尾を引きながら私は一直線にハロルド目掛けて飛んで行ったのだった。


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