楊佺期2 西国不穏

殷仲堪いんちゅうかん桓玄かんげんがともに王恭おうきょう庾楷ゆかいの挙兵に応じたとき、殷仲堪には軍略がなかったため、そうした系統の任務はすべて楊佺期ようせんきら兄弟に一任していた。楊佺期には兵五千をあたえ前鋒とし、殷仲堪自身は桓玄とともにその後続として進んだ。しかし石頭城せきとうじょうに到着したところで王恭が死に、庾楷が敗れたことを知る。朝廷は桓玄たちがどう動くのかを図りあぐね、楊佺期には郗恢の代わりに都督ととく梁雍秦りょうようしん三州諸軍事さんしゅうしょぐんじ雍州刺史ようしゅうししの地位を与えた。殷仲堪や桓玄についても配置換えがなされると示された。この提示を受け楊佺期らはみな尋陽じんようにまで引き返し、盟を結び、ともにこの詔勅を退けることを誓った。間もなくして殷仲堪の官位は復帰となり、各人はもとの任地に帰還した。


これより先、桓玄がいまだ詔勅を受け入れていなかった頃、自身が雍州刺史となることを望み、郗恢ちかい廣州こうしゅうに追いやりたいと考えていた。郗恢は桓玄の襲来を恐れ、配下に意見を募る。すると配下らが口を揃えて言う。

「楊佺期が来たらとしたら、誰が抵抗に力を尽くさずにおりましょうか! しかし、もし桓玄が来たならば、抵抗をするのも難しかろうと思われます」


郗恢は楊佺期が自分の代わりとなることが決まったと知ると、南陽なんようを守る閭丘羨りょきゅうせんと力を合わせ、抵抗せんと試みた。楊佺期は雍州制圧が失敗することを恐れ、桓玄が軍を率いて漢水を遡上してきて、楊佺期がその前鋒としてやってきた、と喧伝。郗恢の配下らはその言葉を信じ込み、まともな抵抗を示そうともしなかった。郗恢の軍は解散して降伏。楊佺期は雍州府に入ると閭丘羨を殺し、郗恢は追放の上建康に帰還させた。現地では将士を慰撫し、民に施しを与え、城壁や堀を修繕し、武具や兵を選抜の上修繕・訓練し、大いに民心を得た。


楊佺期と殷仲堪は、もともと桓玄と不仲であった。楊佺期が桓玄を攻撃したいと言いつのり、殷仲堪がそれを止める、と言ったていである。桓玄は中央に自らの統治領分を拡張したい、と求める。朝廷もまたこの三者の離間工作を進めたいと考えていたため、桓玄の兄である桓偉かんい南蠻校尉なんばんこうい、つまり殷仲堪の属僚として派遣した。楊佺期は怒りと恐れを覚え、軍を編成し「洛陽の軍略を支援する」といった名目のもと、殷仲堪とともに桓玄を襲撃しようと考えた。殷仲堪は表向き楊佺期と結ぶそぶりをしたが、内心では疑惑の念を向けていた。そのため楊佺期のこの所業を懸命に押しとどめようとした。さらにいとこの殷遹を北塞に駐屯させ、その進軍ルートを塞がせる。独力で桓玄打倒が難しいと察した楊佺期も、兵を解散させた。




仲堪與恆玄舉眾應王恭、庾楷,仲堪素無戎略,軍旅之事一委佺期兄弟,以兵五千人為前鋒,與桓玄相次而下。至石頭,恭死,楷敗,朝廷未測玄軍,乃以佺期代郗恢為都督梁雍秦三州諸軍事、雍州刺史。仲堪、玄皆有遷換,於是俱還尋陽,結盟不奉詔。俄而朝廷復仲堪本職,乃各還鎮。

初,玄未奉詔,欲自為雍州,以郗恢為廣州。恢懼玄之來,問於眾,咸曰:「佺期來者,誰不戮力!若桓玄來,恐難與為敵。」既知佺期代己,乃謀于南陽太守閭丘羨,稱兵距守。佺期慮事不濟,乃聲言玄來入沔,而佺期為前驅。恢眾信之,無復固志。恢軍散請降,佺期入府斬閭丘羨,放恢還都,撫將士,恤百姓,繕修城池,簡練甲卒,甚得人情。

佺期、仲堪與桓玄素不穆,佺期屢欲相攻,仲堪每抑止之。玄以是告執政,求廣其所統。朝廷亦欲成其釁隙,故以桓偉為南蠻校尉。佺期內懷忿懼,勒兵建牙,聲雲援洛,欲與仲堪襲玄。仲堪雖外結佺期,內疑其心,苦止之,又遣從弟遹屯北塞以駐之。佺期勢不獨舉,乃解兵。


(晋書84-30)




庾氏とか郗氏の凋落ぶりがヤバい……庾氏はそれでも宋書に名前残ってたけど、郗氏ってほとんどいなかった気がする。どうだっけ。ここで滅ぶ郗恢、劉毅とともに処刑される郗僧施。それ以外で宋書に名前が出てくるのは郗敬叔ちけいしゅく郗景興ちけいこう郗顒ちぎょう。あと微妙に夫人として郗氏の名前が出る感じ。梁の武帝の皇后が郗氏なのは、少し立場が回復したのかな。いずれにせよ東晋での存在感が嘘みたいなありさまです。栄枯盛衰……。

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