江績   奏劾無所屈撓


江逌こうゆう、字は道載どうさい陳留郡ちんりゅうぐん圉県ごけんの人だ。曾祖父は江蕤こうずい譙郡しょうぐん太守たいしゅであった。祖父は江允こういん蕪湖令ぶこれい。父は江濟こうさい安東參軍あんとうさんぐんであった。江逌は幼い頃に父を失い、いとこの江灌こうかんと同居し、友人のごとく睦び合ったことから人々より讃えられていた。58 歳で死亡した。


その、いとこである江灌。字は道群どうぐん。父は江瞢こうぼう尚書郎しょうしょろうとなった。江灌もまた幼い頃より名が知られ、その才覚、知識はむしろ江逌をも上回っていた。桓溫が死亡すると尚書しょうしょ中護軍ちゅうごぐんに任じられ、後には吳郡太守ごぐんたいしゅ、秩中二千石に任じられることとなったが、着任よりも前に死亡した。子の江績こうせきが継いだ。



江績、字は仲元ちゅうげん。優れた志を抱いており、秘書郎ひしょろうとなった。父と謝氏しゃしが不仲であったため謝安しゃあんが大権を握っている時代に招聘を受けても応じることがなかった。論者らはこの振る舞いを讃えた。謝安が死亡すると、はじめて司馬道子しばどうし驃騎主簿ひょうきしゅぼとなり、多くの諫言をなした。諮議參軍しぎさんぐんに昇格して後、南郡相なんぐんしょうに出鎮となった。このとき荊州刺史けいしゅうししであった殷仲堪いんちゅうかん王恭おうきょうとともに挙兵を目論み、江績には南蠻校尉なんばんこうい殷顗いんぎとともに従軍して欲しい、との要請がもたらされた。しかし両名とも突っぱねた。


その後も殷仲堪らはしばしば江績に嫌がらせじみた話を振ってきたりもしたのだが、江績は結局屈しなかった。その頑なさゆえに江績に禍が及ぶのではないかと心配した殷顗は、場を設けて殷仲堪と和解させようとした。


しかし江績は言う。

「大丈夫たるもの、死をちらつかせられたところで何ほどのことぞ! この江仲元、年六十になんなんとするも、いまだ死すべきタイミングを知らぬだけのことぞ!」

座中の者たちは縮こまり上がった。


殷仲堪は江績のその直剛さを憚り、江績を解任、楊佺期ようせんきをその代任とさせた。一方で朝廷はこうした経緯を聞いて江績を中央に召喚、御史中丞ぎょしちゅうじょう、すなわち大臣官吏の手落ちを糾弾する職務に就けた。江績から挙がる糾弾の上奏には高位者へのおもねりが一切なかった。


司馬道子の息子司馬元顕しばげんけんが専断をなし、夜中に建康けんこう城の六箇所の門を開け放ちたい、だなどと言い出す。そこで江績は司馬道子にこうした無法を上奏し糾弾すべきであると申し出るが、司馬道子は聞き入れない。


ここで車胤しゃいんもまた言う。

「司馬元顯の驕縱ぶりは掣肘すべきです」

司馬道子は黙り込んでしまった。


司馬元顯はこれらの話を聞き、人々を前に、言う。

「江績と車胤は我らが親子を離間させようとしておるのだ!」

そして人を遣り、密かになじった。間もなくして江績が死亡、朝野の者はみなその死を悼んだ。




江逌,字道載,陳留圉人也。曾祖蕤,譙郡太守。祖允,蕪湖令。父濟,安東參軍。逌少孤,與從弟灌共居,甚相友悌,由是獲當時之譽。病卒,時年五十八。

灌字道群。父瞢,尚書郎。灌少知名,才識亞於逌。會溫薨,遷尚書、中護軍,復出為吳郡太守,加秩中二千石,未拜,卒。子績。

績字仲元,有志氣,除秘書郎。以父與謝氏不穆,故謝安之世辟召無所從,論者多之。安薨,始為會稽王道子驃騎主簿,多所規諫。歷諮議參軍,出為南郡相。會荊州刺史殷仲堪舉兵以應王恭,仲堪要績與南蠻校尉殷顗同行,並不從。仲堪等屢以為言,績終不為之屈。顗慮績及禍,乃于仲堪坐和解之。績曰:「大丈夫何至以死相脅!江仲元行年六十,但未知獲死所耳。」一坐為之懼。仲堪憚其堅正,以楊佺期代之。朝廷聞而征績為御史中丞,奏劾無所屈撓。會稽世子元顯專政,夜開六門,績密啟會稽王道子,欲以奏聞,道子不許。車胤亦曰:「元顯驕縱,宜禁制之。」道子默然。元顯聞而謂衆曰:「江績、車胤間我父子。」遣人密讓之。俄而績卒,朝野悼之。


(晋書83-3)




■斠注


俄而績卒、

『晉書校文』四では「車胤傳:元顯逼令自裁,俄而胤卒。然則績之卒,蓋亦元顯所迫也。」とあります。

次がその車胤伝なんですが、そこで車胤が自害を強要されています。なら江績も自殺を迫られたんじゃないの、と疑われています。

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