毛徳祖  隠れた名将

毛德祖もうとくそ毛璩もうきょの親族である。父や祖父はみな胡族勢力の中に没している。毛德祖と兄弟五人は皆で連れ立って南渡、それぞれで武幹を示した。荊州刺史けいしゅうしし劉道規りゅうどうきが毛德祖を建武將軍けんぶしょうぐん始平太守しへいたいしゅとして取り立てるも、間もなくして涪陵ふりょう太守に転任。412 年に盧循ろじゅんが攻め寄せてきた時には劉道規がふたたび參軍さんぐんとして取り立て、徐道覆じょどうふく始興しこうで討った。間もなくして母の死に遭遇した。


415 年、劉裕りゅうゆう司馬休之しばきゅうしの討伐に出ると、補太尉參軍ほたいいさんぐん義陽太守ぎようたいしゅとして取り立てられ、また遷陵縣侯せんりょうけんこうに封じられ、南陽太守なんようたいしゅに転じた。劉裕が姚泓ようおうの討伐に出ると、滎陽けいよう扶風ふふう南安なんあん馮翊ひょうよくといった各郡に攻撃を仕掛け、連戦連勝した。劉裕はその功績を祝福、龍驤將軍りゅうじょうしょうぐん秦州刺史しんしゅうししに任じた。


劉裕が劉穆之の死を受け長安ちょうあんより撤収、長安に次男の劉義真りゅうぎしん安西將軍あんざいしょうぐん雍州刺史ようしゅうししとして留めおくと、毛德祖をその中兵參軍ちゅうへいさんぐん、要は近衛隊長とし、あわせて天水太守てんすいたいしゅを兼務させ、劉義真とともに帰還した。劉裕は毛德祖をとく河東平陽かとうへいよう二郡軍事にぐんぐんじ輔國將軍ほこくしょうぐん河東太守かとうたいしゅとし、宗族の劉遵考りゅうじゅんこうに代わって蒲坂ほはんを守らせた。


赫連勃勃かくれんぼつぼつによる長安失陥においても、毛德祖は自軍の損傷もなく帰還を果たした。劉裕は関中かんちゅう洛陽らくようを奪還したいと考え、毛德祖をとく九郡軍事きゅうぐんぐんじ冠軍將軍かんぐんしょうぐん滎陽京兆けいようけいちょう太守たいしゅに任じ、さらにここまでの功績を踏まえて灌陽縣男かんようけんだんに封じられ、更にとく司雍并しようへい三州諸軍事さんしゅうしょぐんじ冠軍將軍かんぐんしょうぐん司州刺史ししゅうししとして虎牢ころうを守ったが、北魏ほくぎ軍に囚われた。


毛德祖の弟の毛嶷もうぎょうと、さらにその弟の毛辯もうべんは、ともにすぐれた忠節を示していた。しかし毛嶷は盧循の侵攻の折に戦死。毛辯は司馬休之の先鋒を務めた魯宗之ろそうしとの戦いにおいて戦死した。とは言えどちらも己の身をも顧みず奮戦したため、当時の人々に感嘆された。




德祖、璩宗人也。父祖並沒于賊中。德祖兄弟五人、相攜南渡、皆有武幹。荊州刺史劉道規以德祖為建武將軍・始平太守、又徙涪陵太守。盧循之役、道規又以為參軍、伐徐道覆於始興。尋遭母憂。

劉裕伐司馬休之、版補太尉參軍・義陽太守、賜爵遷陵縣侯、轉南陽太守。從劉裕伐姚泓、頻攻滎陽・扶風・南安・馮翊數郡、所在克捷。裕嘉之、以為龍驤將軍・秦州刺史。裕留第二子義真為安西將軍・雍州刺史。以德祖為中兵參軍、領天水太守、從義真還。裕以德祖督河東平陽二郡軍事・輔國將軍・河東太守、代劉遵考守蒲坂。及河北覆敗、德祖全軍而歸。裕方欲蕩平關洛、先以德祖督九郡軍事・冠軍將軍・滎陽京兆太守、以前後功、賜爵灌陽縣男、尋遷督司雍并三州諸軍事・冠軍將軍・司州刺史、戍武牢、為魏所沒。

德祖次弟嶷、嶷弟辯、並有志節。嶷死於盧循之難、辯沒於魯宗之役、並奮不顧命、為世所歎。


(晋書81-11)




宋書に立伝されず、索虜伝にこっそり立伝される名将、毛徳祖。

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054895306127/episodes/16816452219045404532

で、宋書における毛徳祖の姿が見えます。毛徳祖は明らかに同族の毛修之より際立った武勲をあげているにも関わらず、宋書の劈頭を飾る武辺者列伝に姿を表しません(王鎮悪おうちんあくの副官的ちょい役としては出る)。こういった立場の転倒がなぜ起こったかと言えば、劉裕の天命獲得を桓玄打倒に求めるしかなかった、ということなのでしょう。


なにせこの時代、武力を振るう大義名分は、原則として「皇帝が認めたもの」しか許されません。にもかかわらず劉裕、皇帝なんかいっさい関係無しで蜂起、途中で司馬遵しばじゅんとか言うお飾りのお頭を奉戴こそしますが、のちの詔勅でも「いや、お前らの蜂起なんてどこにも正当性ないんだけど、とは言え実際に功績示されちゃった以上認めざるを得ないんだよなぁ…」みたいな歯切れの悪すぎるお褒めの言葉を頂いてます。ともなれば、後世向けの史料では「野蛮な決起」に、頑張って正当性を負わせないといけないのですよね。そういう「野蛮な決起」に関与できなかった毛徳祖に、その辺のしわ寄せが思いっきりかぶさっている気がします。


いやほんと、毛修之ってあんな宋書の目立つところに立伝してもらえるほど重要な武勲挙げられたようには思えないんですよね。自分たちの掲げる名分論のためなら武将の功績なんぞ二の次三の次みたいなクソみてーなスタンスを貫くチーム宋書はマジでクソですし、一方で人間臭さを感じざるを得なかったりもしています。

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