後編。
「てめっ、言わせておけばっ……誰に向かって口を利いてんだっ!?」
「あら、だって、自分の不機嫌を周りに当たり散らして、周囲の人へ自分の機嫌を取ってもらわないと癇癪を起こすって、まるでお世話されている赤ちゃんではありませんか? その分だと、お付きの方やご家族の方も相当苦労なさっているんじゃないでしょうか? こんな、図体の大きな赤ちゃんの面倒を見ないといけないだなんて、幾らお役目や派閥関係で側に侍らざるを得ない方々でもお可哀想に……」
クスクス笑うと、真っ赤になって憤慨するクズ野郎。お、上げたその腕をわたしへ振るうか?
「ああ、ほら? そうやってすぐに暴力に訴えようとなさる。それこそ、お子ちゃまな証拠ですわねぇ。僕ちゃん? お腹が空いていらっしゃるのでしたら、ミルクでも如何かしら?」
プッ、と彼の取り巻きの方から吹き出すような音がした。
「っ!?!?!? だ、誰だ今笑った奴はっ!?」
「まあ! 犯人探しだなんてやめてあげてくださいな。公爵家の、爵位を継ぐ可能性も低い放蕩三男に取り入って来いとおうちの方に言われて渋々付き従っているだけで、学園卒業後には放蕩息子とつるんでいたということでいい縁談にも恵まれないで落ちぶれて行くという、転落まっしぐらな人生を歩む可哀想な方……かもしれませんもの」
「はあっ!?」
真っ赤になる彼とは対照的に、わたしの言葉に顔色を無くして行く取り巻きの一部。そして、
「す、すみません、急用を思い出したので失礼します!」
と、数名がダッシュで立ち去った。
おうちの人へ報告しに行くんだろうなぁ……まだ傷は浅いからどうにかなるかもねー。
さっさと見限るが吉だ。
「へ?」
呆気に取られる彼と、残った取り巻きの女の子二人。そして、侍従と思しき男子一人。
「あなた方、愛人になったところで大して甘い汁は吸えませんことよ? どうせ、この若さとそのお顔が何十年も続くワケでもなし。ご自分を大事になさった方がいいですわ」
「え? あ、あの……」
そこで丁度、お昼休み終了の鐘が鳴った。
「では、授業が始まるのでごめんあそばせ。さあ、行きますよ」
と、ぽかんとする妹の口を閉じさせ、涙目の僕ちゃんを放置して教室へ向かうことにした。
「お、お姉様っ!? ど、どうしちゃったのっ!?」
「そうね……可愛い妹に害虫が
「が、害虫とまでっ!?」
後ろからなんか驚愕という声がしたような気がしたが、気にしない。
「だ、大丈夫なのっ!?」
「大丈夫大丈夫。ここは学園。わたし達は生徒。女子生徒に絡んで来た男子生徒をちょ~っとキツめにやり込めただけよ」
ふっ・・・多分。大丈夫な筈!
なんだったら、成績優秀者に与えられるチャンスとして他国への留学という緊急避難措置を使うことも視野に入れようではないか。
わたしはヒロインの聡明な姉で、成績優秀。学年五位以内に与えられる留学チャンスもものにできるくらいの頭はある!
いざとなったら・・・家族連れて亡命だって視野に入れてやらぁ!
と、若干びくびくしながら過ごしていたら――――
とうとう公爵家から名指しで呼び出しを食らった。頭と、ちょっと胃が痛いぜ。
やべぇ! どうやってバックレようか・・・と、逃げる隙を窺ってみるものの、公爵家め迎えを寄越しやがったよ。護衛とかマジ要らんのに。
仕方なく、ドナドナな気分で迎えの馬車に揺られて公爵家へ。
すると、なぜか公爵夫妻に感謝された。
息子の目を覚まさせてくれてありがとう、と。
んで、心尽くしのおもてなしを受け、なぜか件の放蕩息子との縁談を勧められてしまった。
そんな不良物件要らんわっ!! と、直で言えるワケもなし。丁重にお断りしましたよ。うちは、わたしが嫡女だから嫁入りはできん、と角が立たないように言ってな。
至極残念そうな顔をされたが、断ることに成功。
しかし、放蕩息子と仲良くしてくれと頼まれてしまった。
仕方なく、社交辞令で頷いた。
すると――――
「姐御! 俺、姐御にガツンと言われて目が覚めたんです、ありがとうございましたっ!!」
なぜか慕われ? てしまった。
しかも、実は同い年だった! というのに姐御呼ばわり・・・
解せぬ。
まあ、更生したようでなにより。
そして、原作? よりも更生する時期が早かった為、本格的な悪いこともまだしていなかったようだ。公爵家も没落を免れるかもね。
それはいいんだけど・・・
「お、俺が姐御に相応しくないのはわかってます! で、でも、どうしても姐御を諦め切れなくてっ! だから、どうか婿として俺を貰ってくださいっ!?」
どうしてこうなった?
ちなみに妹は、うちの学園に留学して来た当て馬君と……この元俺様なわんことの三角関係にならずとも、当て馬君が一目見た瞬間に妹に惚れたと猛アタック。妹も熱烈なアプローチに絆されてラブラブに。学園卒業後には、彼の国にお嫁に行くことが決まっている。
可愛い妹が遠くへお嫁に行くのはちょっと寂しいけど。ハイスペック且つ、妹に一途な当て馬君なら妹を幸せにしてくれると、お姉ちゃんは安心して喜んでいるのだが・・・
とりあえず、この真っ赤になってぷるぷるしている返事待ちのわんこをどうしよ?
捨てるか、もっとビシバシ躾けるか・・・
悩みどころだな。
――おしまい――
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