111 ちょっとだけシリアスの雰囲気です、でもまだメイド服を着てるラック

 メイドの馬車に乗せられて7日ほどが立った。

 鉄格子つきの馬車から降りた僕の目の前には大きな湖があり、その中央に二階建ての屋敷が見える。



「とまぁラックの旦那あれがドキフ様の屋敷でさぁ」



 そう言うのはココまで運んでくれたゲルトさん。

 それは良いんだけどどうやってあの屋敷に行くのかと思えば向こうから無人の渡し船が流れ来た。



「誰も乗っていない!?」

「ああ、あれはギフト様の魔法の船って奴で、奴隷は…………自慢のメイド達を乗せて夢のような館に行くって事でぇ」

「ねぇラックさん湖の中に何かいない?」



 サーニャさんが湖を指さした、指した方向の水中に何か影が見えては消えていく。



「本当だ……ええっとゲルトさんアレって何かな?」

「ちっ細かい事きにする……じゃねえっすな。ラックの旦那には関係ない話でっ……て言いますよ、そんなにらみつけ無いでくだせえ」



 別ににらんではいないんだけど。



「ただの人食いワニ、いや人食いカバだったかな? まぁ屋敷にでるゴミを食う奴でさぁ」

「泳いでは逃げれないのね」



 サーニャさんの呟きをガン無視してゲルトさんは桟橋に止まった小舟に近づく。

 革袋を引きあげるとすぐに中身を確認しはじめた。


 ちらっと隙間から見えた所、金貨や宝石が入っているのが見える。



「これは俺のものでさ! 仕事には対価が必要と思いません!?」

「何も言っていないけど……ええっと、別れた後は」

「わかってますって。預かった手紙を出しときますので、それじゃ本当に騎士団などには通報だけはしないで下さいよ? 旦那であれば屋敷から出る事だってできるかもしれないし」

「約束を守ってくれればね」



 僕がゲルトさんとした約束だ。

 どうも冒険者を、正確にはA級冒険者である僕を恐れている感じで無許可の奴隷商人を通報しない代わりに僕の手紙を届けてくれる仕事を頼んだのだ。



「さて、あんまりここにいると怪しくみれるっちょっと手荒になりますが勘弁してくだせえよ」



 ゲルトさんはロープを取り出すとメイド姿の僕の体を縛り付ける。

 次にサーニャさんと、ルシとシルの体も簡単に縛った。

 これは小舟に乗せるための儀式だそうで僕らを小舟の前に歩かせるとその背中を蹴っていく。



「いった!」



 僕が最初に蹴落とされて空を見ながら小舟に倒れる、次にサーニャさんが蹴られて僕と目が合った。



「ちょっと、もう少し優しく蹴りなさいよって。ど、どいて!」

「無理だよ!」



 僕の上にサーニャさんが倒れ込むと顔が思いっきり近い。あと一押しあれば僕とサーニャさんはキスが出来るまでに顔が近いのだ。



「ふむラックの旦那。サービスでさぁ」



 何がサービス!? と聞く前にゲルトさんはルシとシルを軽く小舟に突き落とした。

 サーニャさんの背中に当たった双子の重みでサーニャさんの顔が僕とくっつく……ゴン! と頭に激痛が走った。



「いっ!?」



 キスより先に頭突きが飛んで来たっぽい。



「わ、わざとじゃないのよ!?」

「サーニャおねえちゃんごめんなさい」

「らっくおにい……おねえちゃんごめんなさい」



 ルシとシルが謝りながら体を動かす。

 2人が小舟の上で態勢をかえると、僕とサーニャさんも体を動かして離れる事が出来た。


 無人の小舟が動くのと同時に、ゲルトさんの馬車も動き始めたのが目で追えた。



「なんとか潜入に成功しそうかな」

「そうね。長かったええっとラックさん、本当にありがとう、期待しててね」

「まだ何もしてないよ」

「それでも、私のお願い……依頼を聞いてくれたし」



 お願いというのは、サーニャさんのやりたい事に関係していて、どうも家族を探してる事。


 その家族であり弟は数年前から行方不明になっており、わずかな手がかりでドキフさんという自称錬金術師の館に買われた。と言う所まで調べ上げた。


 このドキフさんと言うのはサーニャさんの話を聞く限り怪しい人で不定期に人を買っているそうな。


 でもって、人は買うのにそこの屋敷から出た人が極端に少ないとかなんとか、やっと奴隷商人を捕まえて潜入し、ドキフさんを問い詰める事が出来る。そしてその途中で僕に出会った。


 サーニャさんん言わせるとドキフは悪人なんだから、A級冒険者の僕が出合い頭にぼっこぼこにしてほしい。と頼まれた。


 さすがの僕もそれは断った。



「一応は様子みてからね、偶然かもしれないし、よいしょっと」



 上半身を起き上がらせて周りを確認する。

 小舟はゆっくりと動いており当然小舟の周りは水面しか見えない。



「何見てるの?」

「うんと退路を。人食いの奴は小舟には寄ってこないみたい」

「さすがはA級冒険者ね」

「級は関係ないよ」



 じゃないと生き残れないし。



「ふーん。じゃぁそんなに私とえっちな事したいんだ」

「ふえっ!? い、いやそういう事じゃなくてね!」



 サーニャさんとのえっちな事というのは、サーニャさんから提案された報酬の事だ。

 どうにも冒険者は金でしか動かない。と思っているらしく。


 ………………実際殆どはそうなんだけど。


 現在サーニャさんにはお金がない。

 で、サーニャさんが提案した報酬は『サーニャさんを1晩好き放題出来る権利』



 僕だって男だ。

 興味がないわけじゃない。でも、知り合ったばっかりの子を好き放題出来る。といわれてもだ。


 心の中で天使の僕と悪魔の僕が戦った結果、天使が勝ってその提案を断った。


 でもサーニャさん本人が無償で動く冒険者ほど信用できない。と言い出して。


 それを言われると、僕も無償で動く冒険者が手伝ってあげる。と寄って来たら、それは若干信用できない。と思ってしまったし。


 色々あったあげく結局僕はサーニャさんの提案を受ける事になった。

 とりあえずは、それは終わった後に考えよう。という先送りにしたのだ。



「冗談よ本当にお願い、たった一人の肉親なのよ……弟のでもいいのよ」



 思わず唾をのんだ。

 もしかしたらサーニャさんはもう弟さんが手遅れかも、と思っているのかもしれない。

 悲しいけどそういう現実はあるかもしれないし、僕も安易な気持ちでサーニャさんの言葉を否定は出来ない。



「ええっと、館につきそうだよ」



 小舟が館側の桟橋にたどり着く、船が地面の様に固まって動かなくった。

 両手の縄が自動的にはずれると館から『入りなさい』という簡単な声が聞こえてきた。

 立ち上がり館の扉に手をかけた。


 中には長身の髪の長い女性が僕らを見てほほ笑んでる。

 甘い香水の匂いが強く、少し興奮しそうなのを抑え込む。



「いらっしゃい。可愛いメイドさん達☆ ひーふーみー今回は4人ね。あまり小さい子は困るのにアレゲルトも仕方がない人ね」



 語尾に☆なんて見えるわけないのになぜか☆がついているように感じる。



「あらあら、緊張しちゃって☆」

「語尾に星が見える……?」



 思わず僕が口に出すと女性の顔が喜んだ顔になった。



「そうよ、錬金術師に魔力を込めているわ。いち早く気付くだなんて可愛い子。おねーさんチューしちゃう」

「えっ! ええ!?」



 長身の女性に顔をつかまれると突然にキスをされた。抵抗しようにも力が強く振りほどけない。


 だってマナオールアップ使ってないし。


 突然キレイな人にキスをされてドキドキしたのもつかのまで、僕の顔に女性のヒゲがちくちくと当たった。



「っぷはっ! えっひヒゲ!?」

「あらやだ、そり残しだったかしら☆ 改めてようこそ可愛い子猫ちゃん達、私の事はドギフ女王様、もしくはドキフお姉さま。と呼びなさい☆」



 えっええ!?

 いや女性に見えたのに。え、いやヒゲって事は男だよね!? 

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