110 それはとても柔らかいものむにゅむにゅ

 目が覚めた……と思いたい。


 と、言うのは周りの状況を見ての話があったりする。

 なんと、ちゃんとベッドの上にいるから僕の頭の中は大混乱だ。



 なんで?



『もしかして……』



 自分の声が自分じゃないみたいな感じで夢のような感じ。

 ………………念のために頬をつねってみたら、うん痛くない。


 夢だ。


 この世界が夢で出来ているならもう少し僕の思い通りになってもいいんじゃないなか……って思っていたら僕の目の前に皆がいた。


 皆とは、甲冑姿のミリアさん。

 冒険者スタイルのサーリア。

 布の服のクアッツル。

 ミリアさんと同じ鎧のユーリーさんとセシリアさん。

 メイド姿のナイ。

 後なぜか上半身裸のザックさんがマッスルポーズを決めている。



 怖いので後ろ向いてくれないかな……と口にだしたら全員が後ろを向く。

 前を向いてほしい。と口に出せば前を向く。


 …………なんて都合のよい夢だ。

 僕はおそるおそる手を前に出す、うん。僕も男の子だからね。

 しょうがないよね、誰の胸を触ろうか迷って、いやさわれるわけないよね。

 現実では絶対無理な事なんだけど、だからといって顔見知りの女性の胸を触ると事は出来ないし。


 僕がそう思っているとベットのふちに手をかけているリバーと目が合った。



『ラック様夢の中でしか触れないとは可愛そうですね、あっそういえば昨夜双子を抱き寄せるのにお尻触ってましたね』

「僕は触ってないからね!!」



 飛び起きた、気が付くと上半身を起こしていて、その様子を近くで見てくるメイド服姿の3人。


 カタゴトと揺れており、鉄格子つきの馬車の中にいるのを確認できた、前回と違って中は明るく3人の顔が見渡せる。



 誰だっけ。


 あっそうか、僕は今とある事情でメイド服の恰好をしていたらメイドを集めていた人の馬車に捕まったんだっけ。


 で、この人は「ええっと……サーニャさん?」だったはず。


「…………おはようござます、ラックさま」

「え。ああ、うん、おはようございます」



 物凄い丁寧に挨拶をされた。

 あれ? サーニャさんってこんな性格だっけ? 確か僕を怒鳴っていたような記憶があるんだけど。



「ほら、2人とも挨拶」

「「おはようございますらっくさま」」

「ええっとルシにシルだよね」



 僕の問いかけに双子の子は小さく頷く。

 物凄い他人扱いというか、まるで腫物を扱うみたいで。



「どういう事……」

「安心してください。ラックさま趣味はそれぞれありますので」



 何が!?

 不思議に思っているとサーニャさんが軽蔑の眼差しで見てきているようだ。



「で、す、か、ら。女装が趣味なんですよね?」

「違うよ!」

「違うの!?」

「僕がメイド服を着ているのは、パトラさんから逃げるための作戦でそれが終わったら脱ぐよ、ああっ! パトラさんっていうのは……」



 サーニャさんが黙って手を前に差し出しもう喋らなくていい。と、言う合図を見せてくる。



「し、子細はしりませんけど。よかった、ただの変態A級冒険者じゃない、あっええっと、き、気にしないで下さい! いえ、気にしないで貰ってもいいでしょうか!」



 変に丁寧に喋ろうとして変な言葉になっているようだ。



「普通に喋っていいよ、A級っても偶然にA級になっただけで中身は――」

「そうなの!? いえ、そうなんですか!?」



 中身はD級だよ。って言おうとして最後まで言えなかった。



「ごほん。じゃぁお言葉に甘えて、あの助けて欲しいの」

「うん。わかった、ええっとマナオールアップ、マナオールアップ」



 僕は魔力を練って自分の身体能力を数回あげた。


 鉄格子の扉の部分を無理やり力をこめて鍵を破壊する。

 これで、いつでもこの馬車から逃げ出せるはずだ。


 僕はサーニャさんに扉の前のスペースを譲った。



「さぁどうぞ。って顔されてますけど……昨日もいわなかったっけ? 双子は知らないけど、私は私の考えてメイドになったんだし逃げないわよ。ってか、信じられない、えっ普通に壊せる物じゃないわよね。

 それ以前に動いている馬車から飛び降りろって無理な話だし、鍵だってどうやって弁償するのよ」

「えっ違うの!?」



 僕が困惑していると御者台のほうの幕が開きゲルトさんが顔をだして馬車を急停止させた。


 慌ててしがみ付くと馬車を降りたゲルトさんが外側から壊れた鍵を見て手に触っていく。



「馬鹿な……オークすら破壊できないって聞いた鍵だぞ……俺の3ヶ月分の稼ぎだったのに、いくらA級冒険者ってもやっていい事と悪い事があるんじゃねえ……そりゃ俺だっていい奴ではないけどよ……」



 ゲルトさんは怒鳴る事をしなく、僕をちらちらみては文句を言ってくる。



「ご、ごめんなさい!」

「い、いや! A級冒険者様に謝ってもらいたいわけじゃ……その……弁償を……して、いやその俺だってきつくは……」



 どうしよう。

 僕の手持ちは今は何もない。

 自慢じゃないけど、ここ最近は全部リバーが買い物などをしてくれるし、いない時はミリアさんがやってくれる。

 食べ物の代金から日用品の買い出しまで、何度か僕が出すよ。と言った所、大所帯だしまとめて買った方がいいですよ、それにラック様じゃ騙されたら大変ですし。と言われ毎日オヤツ代です。と金貨3枚ほど持たされる。


使わなかったら3枚のままで足りなくなったら翌日に渡してくれるとの事。



「とりあえず……金貨3枚でたりま……」

「そりゃねえよ。これ作るのに金貨3枚とかよ――」

「帰ったらミリアさんに相談してみます」

「誰でもいいから頼むよ本当によー」



 サーニャさんが、悪徳奴隷商人なくせに。と言っているのが聞こえてくる。



「俺は悪徳じゃねえよ? お前だって買ってくれって頼み込んで仕方がなく俺が買ったんじゃねえか、そこの双子だってなっ」

「いいからドキフの所に送って」



 ドキフ? ああ、確かこのメイドさんを買った人だっけ。3人も買うだなんて随分お金持ちな人だ、恐らくは貴族の人に違いない。


 そんなにお金に困っているなら、ザックさんを紹介して働き場所を――あっ駄目だザックさんは今一般人だし、なんでもかんでも人に頼るのは駄目だよね。

 と、なると僕がどうにかした方がいいんだろうけど。



「あっ!」

「「何!?」」



 僕の出した声にサーニャさんとゲルトさんが振り向く。



「そういえば僕は家がないなぁって思いまして」

「今それを言うのが必要な事?」

「A級冒険者であれば選び放題でしょうに」



 怒られてしまった。

 帰る所は大事だよ? ちょっと前までは家なんて冒険者には不都合だから。と話になって持っていなかったけど、落ち着ける場所がほしいのが再燃してきた。


 クアッツルにもう一度辺境の家がどうなったか確認しないと。



「だからっ一緒に乗り込んで! …………乗り込んでください、お願いします」

「うあっ!?」



 サーニャさんが僕の手を掴むと胸の上に押し付けた。夢で見たような事が現実に起きて思わず自分のほほをつねると痛い。



「私にはこれぐらいしか払えるのないし」



 うわー見た目は小さいかな思っていたけど柔らかい。

 手を動かしたら怒るかな……え、頼み事聞くだけで胸って、手を離した方がいいよね僕が力をいれればすぐに振りほどけるけど、これは僕から手を離したら拒絶してるように見えるし、うわー感動するけど、なんだろ自分の二の腕とあんまり変わらないような。



「おい! サーニャ勝手な事は」

「迷惑はかけないわよ! ちょっとドキフの屋敷を調べるだけに協力してもらうだけ、ラックさまお願い。引き受けてくれれば、もっと凄い事するから」



 力入れたらどこまで指が食い込むんだろう。これがコーネリート先生みたいな爆乳とよばれる胸だったら指というか腕が吸い込まれるかもしれない。



「――ま聞いてる?」

「え、はい」

「ありがとう」



 何の話? ゲルトさんがマジかよ。と、呟いているし双子のルシとシルは顔を両手で隠しているけど隙間から目が見えてるからね?

 え、いや本当何の話……胸に気を取られて聞いてないって言ったら怒るかな。


 うん、怒るよね。

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