109 僕を挟んで言い争う2人、あの僕は本当に部外者なんです

「大変申し訳ございませんでした。ラック様、殺さないで下さい!!」



 突然中年男性が僕に土下座をしていて、驚いで一歩引いてしまう。その音で顔を上げた中年男性は、すぐに土下座を再開した。



「殺さないで下さい。殺さないで下さい。殺さないで下さい。殺さない――」

「ま、まず落ち着いて!! 僕は誰も殺しません」

「本当?」



 おじさんが泣き止んで僕を真顔で見て来た。


 かなり怖い。


 一度深呼吸するとおじさんもビクっと体を震わせたのが見えた。



「いや、あの……まずは殺しません……よ」

「後で殺すんじゃ? 冒険者は直ぐに嘘をつく」

「それはまぁ、嘘を言う人もいますけど……こればっかりは信じてもらうしか」



 正直な話、冒険者は直ぐに嘘をつく。

 そういう噂もあるし、僕もそう言う人を見た事はあるけど、別に全員がそういうわけじゃない。


 後はこれも一般の人に良く誤解されるんだけど冒険者だから全員人殺しってのは無いし。僕の場合はサーリアがいたので相手が怪我をしたり僕が怪我をしても回復していたし……。



「戻ってこないから見に来たら何をするき? ゲルトと新米の子よね。ゲルトさぁ味見する気なら通報するよ」



 声のする方を向くと、僕に色々注意をしていた女性が睨みつけている。

 手には空になったお皿があって、片づけていたのだろう。



「サーニャ!」



 なるほど、サーニャさんって言うのか。



「ええっと、サーニャさん? もうすぐ

「まてサーニャ! 挑発をするなラック様を怒らせるな」

「ラックさ……ま……?」



 サーニャが僕とおじさん、もといゲルトさんを見ては眉をひそめる。



「ラック様はA級冒険者だ。俺も若い時は冒険者をしていたからわかるが、カードは本物だ……恐らくドキフ様の実験場に関して俺達を殺しに来たのだろう」



 何の話!?



「実験場って、私は弟に会いたいだけよ! ゲルト、あんたに買われれば連れていくって言うから!」

「俺だって死にたくねえ!」



 サーニャと呼ばれた女の子の手から食器が落ちる。

 ゲルトさんは立ち上がって「俺だってしにたくねえ!」 と、怒鳴りだした。



 よくわからないけど、僕は殺さないし、調査もしないし、そもそも実験って何?



「あのっ」

「黙って!」



 あっはい。

 サーニャさんに怒られた。




「じゃぁ殺される前に早く案内してよ! あんたが闇奴隷商人なのは知ってるんだから!」

「闇とはなんだ闇とは! 許可取ってないだけで闇なわけあるか!」



 それは闇というんじゃ。

 僕を挟んでサーニャさんとおじさんが言い争っている。

 サーニャさんの言い分としては、何か弟さんの所に連れて行ってくれる約束だったとか。


 で、おじさんは闇商人でメイドを売って生計を立てているとか。

 どんな仕事でも立派にやりどける姿は僕も見習いたい。



「あの!」

「「何!?」」


 2人が同時に僕に振り向いた。



「難しい話は僕はわかりませんが……帰りたいんですけど」

「ラック様! あなたが帰られて通報されたら俺の商売は上がったりだ」

「A級だがB級だが知らないけど、通報するのは後にして! 私は絶対に館に行くんだから」

「あっはい…………」



 僕が返事をすると、また二人で言い争いが始まった。そっとたき火のほうへ戻ると小さい二人の子が眠そうだ。


 たき火に当たって首を縦に動かしている。僕に気づいたのだろう2人が顔を上げて僕を見始めた。



「ええっと……名前は? 僕はラック」

「……ルシ」「シル!」

「双子なのかな?」

「……うん」「うん!」



 こういう時は何か気の利いた言葉をかけた方がいいんだろうな……ええっと、グィンの女にもてる10の教えを思い出そう。

 『いいかラック。女性の名前を聞き出せたら名前を褒めよう』と、言っていたきがする。



「いい名前だね」

「「…………そうなの?」」

「そうだよ」



 …………

 ……………………



 たき火の音がばちばちと聞こえる。


 あれ? 会話が終わった。


 しまった。

 褒めた後に何を言えばいいのかは聞いていない。


 僕が困っていると、シルのほうが欠伸をしだした。時間は分からないけど夜だしなぁ……馬車のむこうを見るとまだ二人は言い争いをしているみたいだし。



「よし。寝よう」

「ねていいの?」

「いいんじゃない? 難しい話は分からないけどまだ続くみたいだし、僕には帰るなって言うし、そもそも僕だってこんな夜に帰りたくはないよ。朝になったら進展あるでしょ」



 シルのほうが「ねむい」と言って僕に抱きつく。

 シルがどうしたの? と言うように僕を下から見上げてくる。



「マナオールアップっと」



 自分の心臓部分に手をあてて僕の身体能力を上げる。これで二人を持ち運べるだろう、シルを左腕に抱きよせシルを右腕に抱き寄せる。

 幌馬車に乗り込み毛布をかぶり双子と一緒に目を閉じた。

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