108.5(第三者視点・ミリア)リバーと合流後のラック行方不明事件の話
しかし。またか……。
思わず愚痴を
私は黙って首を振って笑いかけた。
別にリバーのせいじゃない。
宿場についた私は予定通りに酒場でリバー達と合流するもラックが行方不明になっていた。
そこで思わずついた独り言だ。
本来は直ぐに探しに行かなければならないが、小さい宿場には冒険者ギルドもなく人の出入りも多い、闇雲に動くよりはまずはリバーの話を聞いてからじゃないと動きようもない。
それに、リバーが座っているという事はもしかして重要じゃないのかも。と希望的観測があるからだ。
「すまない。別に怒っているわけではないんだ。ラックは実力はあるのに、どうしてああも不幸なのか。と、考えていた所だ」
「そりゃラック様ですし」
「たしかに」
私は運ばれてきた麦酒を一口飲んでテーブルに置いた。
「…………納得しそうになってしまったが、ラックと合流出来ないとなると。私としては一番困る、一応は第八部隊の隊長で、私が副隊長になっている。以前のように、ただの友人であれば行方不明になろうが、隣国に行こうか、魔界でも地底でも言ってくれて構わないが、ラックは腐っても王国の騎士だ」
「あっそれでしたら、ラック様の騎士団隊長のタグ、リバーが預かっています」
リバーは命の次に大事なタグを私に返してきた。
「なっ! …………これはラックがリバーに手渡したのか?」
「はい。ラック様がミリア様から失くさないように言われたのでリバー持っておいてくれる? と。冒険者カードは再発行出来るけど、これは再発行できないだろうし。と、まで」
命の次に大事だから絶対に無くさないように。と言ったが、手放してどうする。
隊長クラスが証明書であるタグを手放す。と言う事は命令違反をする場合などだ。本来であれば騎士団の規約に乗っ取ればギロチンだってある。
「あのー」
「なにかな?」
「ミリア様はラック様をどうしたいんですか?」
言葉だけで言えば何気ない普段の会話。
にもかかわらず、私はリバーの瞳に吸い込まれそうな感覚におちいった。
子供メイド。にもかかわらず、知識、行動、潜在能力など底が見えない。
最近で言えば錬金術をかじっているのも確認した。
ラックになついており、生涯ラック様のメイドです! と言う姿は可愛いメイドであるが、たまに私の本能が危険だ。と知らせてくれる。
「どうにも。前にも言ったがラックは不幸すぎる、あれほどの実力があれば本人、そして周りも幸せに出来るだろう。その助けをしたい…………もっとも、リバーには都合よく言った所で本心は見抜かれていよう。私が出来なかった事をラックに託したい。かな」
「リバー難しい事はわかりません、子供メイドですから♪」
リバーの気配が何時もの無邪気な気配に変わった。私とてリバーとはこれまでも、これからも仲良くはしたい。
本来は報告義務がある魔族のナイと同じく仲間と思っているからだ。
「あのー……道に迷いましてーちょっと遅刻しました」
突然声をかけられて振り向くと、メイド服姿の黒髪の女性が私達を見ていた。
年齢はリバーより上にみえるが私よりは当然下に見える、リバーと同じようなメイド服であるが細部が少し違うな。
「リバー、メイドの知り合いか?」
「むむむむ、新しいメイドとは、私のメイドアビリティを真似するとはどこのメイドでしょうか?」
そんなアビリティは聞いた事がない。
そもそもアビリティとは潜在能力の事だったきがする。そんなのはメイド服を脱げば消えるのでは……。
「アヤメです。この宿場にメイド服を着て待ってろ。と言われたアヤメです。貴族様に仕えるのは初めてですが、一生懸命がんばります」
アヤメと名乗ったメイド少女は私達に頭を下げ始めた。
「どういう事?」
「え? 違うんですか? メイドを集めている人がいるって……その良くない噂は聞きますけど前金も貰ってますし、たった10日ほど遅刻しただけですよ?」
10日はもう遅刻とは言わない。
リバーに確認すると、考えるポーズをしては首を振る。
私とリバーは少しの間押し黙った。
考えたくない事が頭によぎった。
「全くもって……あっでもラック様が着ていたメイド服と似てますね。まさかラック様がアヤメ様と間違われてどこか行ったとか、そんな事は起きませんよね?」
「そうだな、そんな事は起きないだろう」
私とリバーがそれぞれ飲み物を飲むと、ナイが小さく口を動かした。
言葉には出ていないが、ある。とだけ読み取れる。
「ええっと、人違いなら他に行くね。まいったなぁ今さらお金返せって言われても使った後だし……見つかったら逃げるしかないのかなぁ」
アヤメと名乗った女性が離れようとしているので、私は呼び止める。少し事情を聴きたい。
「良かったら、話を聞かせて貰えないか? これでも王国騎士団第八部隊副隊長ミリアだ、何か力になれるかもしれない、私が力になれなくても冒険者ギルドの繋ぎぐらいはできる」
「えっ王国のっ! しかも騎士団!? いや……誰にも言うなって言われてるし……でも前金はもう無いし……なぁ」
言いよどんでいるアヤメの手をナイが掴むと、リバーが椅子を引いて無理やり座らせた。
「まぁまぁまぁ、アヤメ様ここは本職のメイドであるリバー達に任せるのです。きっとミリア様が解決してくれます。お近づきのしるしにここの食べ物は全部ミリア様が払ってくれます♪」
「えっいやまだ話すとも」
「…………まぁいいだろう。それぐらいで良ければ出せるし、私達の隊長が絡んでいるかもしれないからな」
どれ、私はこの間に料理でも頼んでおこう、繋がっていなくても彼女の話を聞くべきだ。料理を食べれば打ち解けてくれるかもしれない。
――
――――
「ミリア様。そう怒ってはいけません。世の中都合のいい話はよくある事なんですよ」
「そうそうミリアっち顔が険しいよ? ナイっちみたいに笑顔じゃないと」
…………打ち解けた。というか打ち解けすぎだろう。アヤメは私は他の人を愛称で呼び始める。
「別に怒ってはいないし、良くある話といえば、少なからず相談も上がっている」
アヤメの話した話を整理すると、中年男性が若い女性を集めている。メイド服を着て指定された場所に行くと貴族の家に派遣してもらえる。との事だ。
本当に割とよくある話で、本物もあれば偽物もある。
でも偽物の率が高く行方不明になった娘や息子を探してくれと、騎士団のほうでもたびたび依頼がくるのが現状だ。
偽物のほうに買い取られた人々が最後にどうなるかといえば、食事中なので答えるのを控えよう。
「騎士団としても、一般市民が不幸になるような事は排除している。所でどこの貴族だろうか? 私が間に立って話をしてみよう」
「それがね、ミリアっち聞いて知りません! うわ、ミリアっちが怒った」
「怒ってはいない」
参ったかな。
時間さえかければアヤメを誘った人間を特定は出来ようが……これも証拠を残さないようにした事だろう。
「リバー何か手はないかな?」
「むむむ、困りましたねぇ……今回はラック様には目印つけてませんし……仕方がありません。ナイっ準備は出来ますかっ!? プランえっくすです」
「…………むふー!」
普段は目印を付けているのか……いや話はそこではなく、リバーがナイに確認するとナイは鼻息荒く親指を立て始めた。
なんだろう……とても嫌な予感がする。
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