108 女装メイドラックはスカートをたくし上げた

 僕らを乗せた馬車は宿場からどんどん離れていく。せめて外の景色を見て場所を特定したい所なんだけど、外が見えないように僕が入って来た馬車の後ろ側は厚手の布で見えなくされている。


 馬車のホロの中身は完全に牢屋そのものだ。足枷あしかせなどは無いけどこれでは犯罪者。



「あのー!」



 とりあえず大声をあげてみる。

 誰も返事はしなく、暗い中にみえるのはメイド服の女性達数人。足を三角に折り曲げては顔を隠していた。



「聞こえなかったのかな……すみませんっ! 僕はひもごもごごごごご」



 突然に口をふさがれた。



「もぐっ」

「痛っ!」



 細い指が僕の口の中に入って来て思わず噛んでしまったのだ。



「ご、ごめん!」

「いいから静かにして」



 凄い小声で注意されてしまった。



「いやでも、人違いと思うんだ」

「メイド服なんて普段着で着ている人なんていないわよ。あなたもどうせいい暮らしが出来るからって誰かに売られたんでしょ、もしくは稼げるからって」



 まったくもって話の意味わからない。

 一つ分かった事は僕が誰かの間違いで捕まって、この顔の見えない女性は売られたのだろうか。


 そのなんだろう。

 僕だって冒険者だ、冒険者とはそのさまざまな理由の人で冒険者になる、何を考えているかまとまらないけど、お金が欲しい。魔物を討伐したい。最悪なのは人を殺したい。という人まで理由を聞いた事がある。


 もっとも僕が直接聞いた事ある人はいなくて、グィン経由であるけど。

 グィンはよく相談された女性達の話を一人夜遅くまで聞いては、解決した。と朝方に僕らに話してくれた事が数回あったからだ。

 人助けなのに、その度にサーリアが舌打ちしていたっけ、あれは何でだったのだろう。



「ええっと……助けたほうがいいかな? 話だけなら――」



 顔を伏せている女性に話しかけてみたら女性の顔が僕を見た。


 パン!!

 っ!???


 気持ちいい音と共に僕のほっぺに痛みが入った。ビンタだ!



「黙って、あなたがうるさいと全員の責任になるの!」

「はいっ!」



 僕が返事をすると、男性のうるせえ! と言う声が聞こえた。先ほどの中年男性かな? 馬車の中の空気が重苦しい。


 どうしよう。

 鉄格子を触ってみる、魔力が流れている感じはなく、僕が補助魔法を使えば折り曲げられるとは思う。

 でも、僕が逃げた事によって残った人達に迷惑がかかるのは避けたい。


 今頃はリバーやナイが僕の事を探しているに違いない。

 あっそうだ……いや。でも……うーん…………僕がこんなに悩むのは、、リバーの返事が返ってきそうなきがするからだ。


 それはそれで怖い。

 嬉しさを通り越して怖い。


 深呼吸を複数回する。



「リバー………………いる?」



 僕は小さい声で確かめてみた。

 1秒。2秒……と10秒待っても返事はない。



「よかった。いや、良くないけど……」

「少し静かにしてくれる? 皆寝てるのよ……」

「ご、ごめん」

「……へらへらしてきも」



 また怒られてしまった。

 少し離れた場所で座り込む、この間にも馬車はどこかに進んでいる。メイド服のポケットを確認しても役に立つようなアイテムもない。短剣の一つでも持ってくればよかったけど、こんな事になるとは思ってもいないし。


 情報は欲しいけど、僕を怒ったメイドの女性などは横になっているようだ。馬車の中は暗くても目がなれるとうっすらと見えてくる。


 馬車の中には僕以外のメイド姿の女性が3人。

 手前に僕をビンタした女性が寝ていてスカートから見える足が見てはいけないと思いつつも目が行ってしまう。

 その奥には膝を立て顔を隠している子と、その子に抱きつくように顔を隠している子が見えた。



 仕方がない。どこに連れていかれるかは知らないけど、外に出たらさっきの中年男性に人違いだ。って事を伝えるしかない。

 それで近くの町でも行ってリバー達に手紙を出せばいいか、それしか方法がないだろうし。


 仕方がなく僕も馬車の中で体を横にする。

 馬車おスピードが落ちてきたように感じで目が覚めた、揺れがおさまると分厚い布が外され外の景色が見えたけど既に真っ暗。



「よーしおまえら。『命令だ!外に出ろ』」



 あっよかった、さっきの中年男性だ。


 場所はちょっとした森の中、で街道から少し離れた場所。


 僕が降りて、その後ろから他のメイドさん3人が降りる。御者をしていた中年男性はたき火を作っていて、座れ! と命令する。

 僕以外の3人はその周りに力なく座っていったのが見えた。



「…………座れ! ちっ聞こえねえのか! 黒髪のお前だお前!」

「え? 僕?」

「ボクだぁ? 女なのに変な言葉を使う奴だな……ああっそうかお前はまだ奴隷紋を結んでなかったな首を出せ!」

「ふえっ!?」



 強引に僕の手を引っ張られると首筋に何かを充てられた。中年男性が、よくわからない言葉を唱えると体全体が熱くなる。

 まずいまずいまずいまずい! これって絶対にヤバイ呪文だ。



「今さら慌ててもおせえな、奴隷魔法だ。と、いっても俺の権限はそこまでは無い、お間の首筋にある奴隷紋が光り輝け黒くなれば命令に従わねえ奴は死よりも恐ろしい痛みがくるって……あれ?」

「あれ?」



 僕と中年男性の言葉がかぶった。

 熱いと思っていた首筋の熱が無くなったし、触っても何も変わった所がない。

 その奴隷紋ってのがかかった感じが僕にはしなかった。



「ええっと、良くわかりませんけど僕に命令出来るんですよね?」

「お、おう……『命令だ! 服を脱げ』」

「あの、流石に人前で脱ぐのは……あっ! 違うんです。二人っきりなら脱ぐってのは無いんですけど。他の女性も見てますし」



 中年男性は僕を見た後にたき火に座っているメイド達を見た。



「ルシ。『命令だ! 火の回りを全力で100周回れ』」

「い、いや……あっ…………!」



 一番小さいメイドさんの顔が青ざめて、動きが遅い。

 全身がビクビクした後に、必死でたき火の周りを走り出した。



「壊れてはいないな……ルシ。『命令だ! 中止して飯の支度をしろ』。お前、動くなよ。もう一度やる!」

「はぁ……お願いします」



 僕は首筋を見せると、中年おじさんは僕にさっきの棒を力強く押し込んで来た。呪文よりも押し付けられるで痛い。

 あれ、でも……何で僕は奴隷の呪文を受けるのだろうか……。



「うっ!」

「ふう……今度こそ成功…………しないな、印がでねえ」

「体中が熱く感じた後に戻りました」

「おめえ、魔法使いか?」



 魔法使い。と言われるととても困る。

 補助魔法士は魔法使いとは別の系統だし、でも補助魔法は使う事は使う。



「多分違います」

「……ちっ。まぁいい飯の時間だ。いいか、逃げたり逆らったりするなよ? この辺は魔物も多い、それにお前が逃げると他の奴らが罰を受ける。いいか絶対だぞ!」

「はぁ」



 中年男性に座れと言われてたき火の前に座った。

 改めて座っている人達を見た。


 強面で鞭と短剣、それにさっきの棒を持った茶髪の中年男性が一人。顔を上げずにスープを食べているのは綺麗な金髪の女性で僕にビンタをした人だろう。

 よく見ると首筋に黒い印が見えた。


 その横に姉妹に見える子供のメイドが2人。どちらも薄い赤髪で一人はルシって子でもう一人は名前がわからない。その子たちにも同じ印がみえる。


 考えられるのはメイドさんの売っている人達なのかな?


 あまり美味しくもない食事を食べ終えて食器を片付ける。中年男性が僕達に片付けておけ! と命令すると馬車の前のほうに消えてしまった。


 僕は慌ててその後を追う。

 誤解は解いておきたい。草むらから出てきたって事はトイレだろう、振り向くと僕が立っていたいたので、驚いた顔をされた。



「うわ! な、なんだお前! 俺を殺そうっていうのか!? お前だってドキフ様に買われた奴隷だってのか自覚あるんだろ? だからあの宿場でメイド服を着ていた。それ以上近づくな! 金を受け取った両親達にも迷惑かかるだろ? そうだ受け取ったんだ黙って戻れ。俺だって商品は傷ものにしたくはない、それ以上寄るな!」



 剣と鞭を向けられて近づく事が出来ない。

 僕は周りを確認すると、たき火の場所からは馬車が壁になってこちらが見えないようになっているのを確認出来た。



「いやあの…………とりあえずドキフ様って誰でしょう……後あの、本当に人違いと思うんですけど……だってあの」



 僕は見せたくはないけど、スカートをまくる。下着は女性物なんだけど、僕の中身は男だ。つまりはそういう事なんだよね。



「は? ……え? いや…………は? まてまてまてまて、ドキフ様に限って女装メイドとか、ありっていえばアリだな……」

「無いからね!? 何度もいいますけど、僕は人違いです。これ冒険者カードです」



 一応見える位置に冒険者カードを見せつける。流石の僕でもこのカードは携帯してるよ。



「冒険者ランクA。ラック…………は? まてまてお前アヤメじゃないのか?」



 まったくもって知らない人だ。

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