105 一方通行な王位継承のお話
ミリアさんを先頭に僕達3人はパトラ女王に呼ばれた部屋へと行く。
ちょっとした王の間というか。広間がありその先に小さい階段とその先は腰ぐらいの高さがある。
部屋の中にはザックさん。クアッツル。ナイ。ナイの周りを浮遊しているケイオースが軽食をしているのが見えた。
「おお。ラックやっと起きたか……」
「人間にしてはお寝坊さんですわね」
ザックさんやクアッツルに挨拶をして僕も近くにあった食べ物をナイに取ってもらって食べる。クアッツルが大きな子供ですわね。と、言ってくるけど別に僕が頼んだわけじゃ……。
「英雄様おはようございます」
台の上からパトラ女王の声がした。
自然に声の方へ向くと大きな尻尾をペッタンペッタンと小さく鳴らしながらラフな格好をして本人が出て来た。
その横には護衛だろうアルトさんが僕を睨みつけてくる。
「此度は色々とお手数をおかけしましたわ」
「パトラ女王様! 何をいいますが元はといえば王国がしゃしゃり出る問題では――」
「アルト」
パトラ様の大きな尻尾が物凄い勢いで床を叩く。あれで床が割れてないんだから丈夫な床なんだろうなぁ。
怒られたアルトさんは一歩後ろに下がって黙った。
「サンドワーム退治。旅人の安全。冒険者の救出。どれも――」
「パトラ女王様! 親衛隊に命令して下さればどれもカンペ――」
パトラ女王はまた尻尾を大きく床にたたきつける。その度にアルトさんが一歩後ろに下がった。
「ともかく! ラック様お疲れさまでした。依頼した金額は既にザック様にお渡ししております。それとは別に――」
「フン! ラックお前はパトラ女王様を結果的に救った。結果は結果だ! その分も追加で渡したからもう金輪際この国に来るな!」
「アルト」
「申し訳ありません」
まったく心のこもっていない謝罪をしたアルトさんは僕に対して中指を立てて来た。
確か冒険者の中で侮辱に値する行為だったような……。
ザックさんを見ると僕に気づいたのだろう小さく笑うだけだ。
「ご安心くださいラック様。先ほどラック様を新王にする手続きをいたしました。今晩は常闇の日、初夜になりますがよろしくお願いいたします」
「は?」
パトラ女王は僕達にお辞儀をした後に一段高い場所から奥へと帰っていく。
僕もそうだけど、中指を立てていたアルトさんも固まった。
そのアルトさんが僕の所へ駆け寄ると胸ぐらをつかん前後に揺らしてくる。
「おいお前!! どういうことだ!」
「あがががががうげええ」
今食べたパンと飲み物が口からこぼれる。
汚いですわね。と、聞こえるけど補助魔法使っていない僕の実力はこんなものだよ。
し、死ぬ……と思ったら突然動きが止まった。
「ちっ!」
アルトさんの舌打ちで前を向くとナイがアルトさんの腕をつかんでいて、リバーがアルトさんのズボンをつかんでいる。
「それぐらいにして貰おう、アルト。これでも冒険者であるまえに第八騎士団の隊長なんだ。これ以上するのであれば私も参加しようか?」
「瞬足のミリア……」
ミリアさんがアルトさんの言葉を聞いて口元がひくついた。
僕は何となくわかるけど、その二つ名を今聞きたくないんじゃないかなぁ……。
「まず親衛隊長であるアルト。君が情報を集めてくるのが先だろう」
「当たり前だ! 俺は貴様が新王など認めないから!」
アルトさんが怒っている。
これ以上怒られたくはないし、怒らせない様にええっと……。
「……僕だっていきなりパトラ女王様と結婚は驚くよ」
「貴様! パトラ女王は美しいだろう! 何が不満なんだ!」
どっちにしろ怒られてしまった。
「それよりも貴方。トカゲの騎士というわりにソコもトカゲなんですね」
「っ!? なっおおおおおおぅぅおお」
リバーがアルトさんのズボン。じゃなくてパンツまで降ろしていた。リバーはやりました。とさわやかな笑顔で、それを見てのクアッツルの言葉が中々に凄い。
僕だったらもう生きていけないかもしれない。
直ぐにパンツとズボンを引き上げてベルトを締めなおしていく、少しは冷静になったのだろう。僕への攻撃は収まった。
「情報を集めてくる。いつもの人間好き好きなパトラ女王の冗談とは思うが、万が一もある、くれぐれも勝手な行動は起すな。ゆっくりと食事を終えたら第三客室を使ってくれ、場所はそこの角の亜人と瞬足のミリアが知っているだろう」
言うだけ言うとアルトさんは部屋から出ていった。さぁ食事を続けてどうぞ。といわれても今の話の後じゃ全く食欲もわかないよ。
「ラック。隊長たるもの食べれる時に食べる。だ」
「今度からラック様とお呼びした方がよろしいかしらね? ママ、こっちのスープがお勧めですわ」
うーん。皆他人事と思って……。
「安心してくださいラック様。こう身分が変わっても少なくともリバーはラック様の味方です」
「……ん」
「よかったナ。にんげン」
「いや、なるつもりないよ!?」
僕が否定すると、周りの空気が微妙だ。
ミリアさんを見ると、さっと顔を背けられた。ナイを見ると不思議に見つめて来るし、クアッツルは身分なんて人間の価値なんてきめかけますわね。と、いいそうだし。
最初と喋り方が変わったケイオースは興味なさそうな顔だ。
ちなみに何で喋り方が変わったのか聞いた所、メイドが怖い。と言っていたのでナイもしくはリバーのどちらが何かしたかもしれない。深くは聞かないでおいた。
「ラック。ぐうたら出来て亜人であるが綺麗なパトラ女王様もいる。パトラ女王様なら複数人の側室ぐらいゆるしてくれるかもしれない。サーキュアーの国の王は女王を支えるのが基本で何が不満なんだ? 亜人嫌いではないはずだが」
「僕が仮に王になったら後ろから刺されそう。って理由もあるけど……まぁ色々」
ここで言う事でもないような気がする。
「そうか……まぁそうだな。ラックは第八部隊の隊長だ、おいそれと任務途中に懐柔されてはこまるな」
かいじゅう? 聞きなれない言葉でリバーを向くと、わいろをもらった大臣みたいな者です。と、教えてくれる。
「さて、食え」
「食べた方がいいぞ」
「そうですわ、食べれば忘れる事が出来るのが人間のあさましい所でしょうに」
食べない派1人に対して食べろ派6人だ。
いつも通り反対多数で僕は賛成派の意見にまわる、それが一番問題が起きないから。
無理にでも胃の中に押し込む、げっふ……。ザックさんが僕の近くによって来た。
「所でミリア副隊長。報奨金はこれだけ出た、分配はどうする?」
僕ではなくミリアさんに相談するあたり僕の事をよくわかっていて嬉しい。ミリアさんが僕の顔を見てため息をついてからザックさんに向き直った。
「これとこの分はナイに。この割合でザックさんが貰ってくくれば……ラック。予定よりも6倍ぐらい多い、どうする?」
僕が驚いていると、僕がパトラ女王を救出し保護した分だ。と言う事でアルトさんが色を付けてくれた。と説明してくれた。
だったら僕の願いは一つだけだ。
グィンは嫌がるかもしれないけど、僕としては渡したい。
「グィン達に…………」
「わかった」
「あれ? 怒らない?」
「ラックは私を鬼か何かと思っているのか? あっちのパーティーの分は最初から考えてある、それを引いても3倍ほどあまるな」
うーん。どうしようかなぁ……。
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