104 指名手配? もちろん知ってるから逃げるよ

「最初からそう言いたまえ。しかしまぁ……いざ服を着るのはこれもこれで面倒くさいねぇ。寒い国ならいざ知らず砂漠の国だよ? 布の一枚二枚着てなくてもいいと思わないかい? それにトイレも楽だと思うんだ」



 そう言うのは背後にいるサジュリ師匠で、僕がサジュリ師匠の願いを聞く代わりに服を着るという約束なはずなんだけど、今度は服を着たくないらしい。



「あの。後で怒られるのは僕なんです」

「でも君だって師匠の裸を見れて嬉しいだろ?」

「全然です」



 嬉しいより恥ずかしい。と言う気持ち。

 これがサーリアやコーネリート先生ならちょっと嬉しい。でもサジュリ師匠の場合は家族と言うのが強すぎて。

 君も私の弟子なんだから私の胸ぐらいで驚くな。と過去になんども鍛え上げられた結果かもしれない。



「ふーん……じゃぁ着るか、さてさっさと契約書を書いてくれた前。なに君はサインだけでいい、

「はい!」



 僕が返事をするとサジュリ師匠の動きが止まった気がした。

 振り向くか迷っていると不機嫌な声だけが帰ってくる。



「何が嬉しいんだ? 君はバ……頭がお花畑だねぇ。長所なのか短所なのか……」

「あの。怒られてるんですかね」

「ああ、当然褒めているよ。さて着替えたよもうこっちを向いて大丈夫さ」



 僕が振り返るとグレーの布のズボンに白いシャツを着ていた。すんごいラフな格好で、相変わらず偉い人にはみえない。


 というか。

 コーネリート先生もサジュリ師匠もそんなに偉い人なのを知ったのはここ数年前だし、僕の認識としては郊外に住む無茶苦茶な二人で、生きるために色々教えてくれたけど、とても変な人だ。



「サジュリ師匠、僕の名前を書きました……ええっと後名前は他の人の前で何て呼べば」

「ああ、もういいよ。バレたからねぇ」



 自分でばらしていたような。



「君が私の名前をとっさに偽名で呼んでもらえれば、あの兵士にはバレなかったのに」

「兵士ってミリアさんですか?」

「そうそう、鈍足のミリア。そんな二つ名の――」

「えっ! ど、鈍足!? いやいやいやいや」

「おや違ったかい?」



 鈍足! 瞬足だったような、しかし鈍足……。



「あのミリアさんが鈍足!! ふっふふふあはは」

「ラックずいぶん楽しそうだね」

「だってあのミリアさんが鈍足ですよ鈍足、ねぇ師匠! …………」



 おかしい。

 僕は師匠のほうを向いていたのに、僕に問いかけるのは僕の後ろから聞こえてる。

 

 しかもミリアさんの声だ。

 絶対に振り向きたくない。



「ラック後で話がある。さてサジュリ様」



 ミリアさんがサジュリ師匠を呼んでいる。その距離は数歩。




「これはミリア様、この私に何の用かな? それと一般市民の私に様はいらないよ。気軽にサジュリちゃん。と呼んでくれ」



 サジュリ師匠はミリアさんに片膝をついてお辞儀をしだす。ミリアさんが小さく、と、言ったのは僕は聞こえたし、あっサジュリ師匠も聞こえてる口元笑っているし。


 会えたのは嬉しいけど早くどこかいってくれないかなぁー、もう用はないし。



「サジュリちゃん。一度目はラックの手前見逃しましたが、第二王子から捕縛命令がかかって――」

オールマナブースト全体魔力アップ――」



 すぐ横でミリアさんの舌打ちが聞こえた。

 ミリアさんがその足をつかいサジュリ師匠に一気に距離を詰めていく。

 右腕が構えられておりその気迫はまるで獲物を狩る先陣の狼のように。


 でも、サジュリ師匠の補助魔法もすでに完成されていて。ってかあれ師匠が自分自身に魔法を唱えているのを見るのは初めてだ……出来たんだ。



 そりゃそうか。



 僕の師匠なんだし、ってかそれだったら補助魔法の有効性をもっと早く教えてくれても良かったんじゃ? え。5 


 自分自身にかけたら強くなれるよー。って一言あってもいいと思うんだ。


 そうすればパーティーから追放されることも無かった。


 もしかしたら今頃はサーリア……じゃなくてももっと別な女の子と結婚していた可能性も。


 窓ガラスが割れる音で考えを中断させた、サジュリ師匠が窓から飛んでいったのがみえた『はっはっはっは鈍足だったねえはっはっはっは』と叫び声を残して。


 窓の前まで追ったミリアさんが舌打ちをしてすぐに僕を見る。怖い。



「ラック! なんでアレを止めなかった!!」

「あががががががががぐあんぐあん」



 ミリアさんがその瞬足で前にくると避ける間もなく僕の胸ぐらをつかんで前後に動かす。天井や景色がグルグル回って吐きそうだ。



「うっぷっ」

「…………すまない」



 少しだけ吐いたら、ミリアさんが放してくれた。口に残った分を無理やり押し込むと、ミリアさんが意外そうな顔をしてみて来た、なんだろ?



「ええっと……?」

「いや。ラックの事だから全部吐くかとおもったが、わりと根性あるんだな。と」

「師匠が僕のゲロを見て今日の夕食は練り物を食べよう。とか言うので……」

「そうか……じゃなくてだ! なんでアレ、サジュリちゃんを外に逃がした」



 なんで。って言われてもそんな話は知らないし今聞いた。

 その事をミリアさんに伝えると頭を抱えている。



「兵隊長には王国から指名手配された人物を取り押さえる事も平常任務である」

「初めてききました……」

「普通は兵士になった時に勉強をするのだが……」



 それは無理だよ。

 僕は突然兵士じゃなくて隊長にされたわけだし。それを決めたのはミリアさんと、スタン第二王子だ。

 文句の一言もいいたいけど、ミリアさんに文句を言うと後が怖いので何も言わない。



「ごめんなさい」

「…………いや。伝えてない私も悪かった。中央に戻ったら勉強させ、したほうがいいな」

「え、嫌……それに師匠に逃げられましたし」



 思わず即答するとミリアさんの口元が引きつってる。

 あっやばい。



「何がやばそうな空気ですけどリバーかまわず入ります。というか入ってます」



 扉からリバーがひょこっと入ってくる。

 ナイも一緒だ。

 ミリアさんがため息をだすと怒りはどこがにいってくれたようだ。



「リバー待ってたよ!」

「こんなにもリバーを待たれたラック様ははじめてですね。どうなさました♪」

「いや……ええっとどうもしないけど待ってた」



 よくわからないですねー。と言うとパトラ様がお待ちですよ。と教えてくれる。

 公務も終えて今は私室にいるから皆で来てください。との事らしい。



「ミリアさん、女王様を待たせるわけにはいかないよね!?」

「そう……仕方がない」



 ミリアさんが先頭で部屋をでる。僕も最後に部屋を出ようとしたらリバーに手を握られた、思わず止まるとリバーがニコニコと笑って上機嫌なようで僕も嬉しい。


 と、いうかリバーっていつも笑って――。



「ラック様ラック様」

「なにかな……? ええっと欲しい物があれば極力頑張るよ」

「ラック様は貢癖が治らないですねぇ。その話ではなく先ほどはミリア様に何かキレられていたような?」



 その話か。

 僕はかいつまんでリバーに教えるとリバーはなるほどなるほど。と頷き始める。



「ではリバーが一番いい解決方法をお教えしましょう」




 そういうとリバーが僕に解決方法を教えてくれた…………僕がこの解決方法を使う場面が来ない事を祈るばかりだ。

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