101 実は強いんです
背中に衝撃を受けた、吹き飛ばされた僕は壁に当たったに違いない。
それでも倒れない様に踏ん張ると、僕を吹き飛ばした相手の……パトラ様の金色の瞳、それが急に丸くなった。
「ラック様!」
「…………パトラ様だよね?」
「いやですわ。パトラと呼び捨てになさって未来の妻なんですから」
「つ、妻って!」
「サーキュアーの国に現れる救世主、これを運命と言わず何と言うのでしょう」
パトラ様はいかに僕がサーキュアーの国に必要なのかを熱弁してくれる。地底竜を討伐した男。パトラ様を守った男。誰よりも強い男。
あー……なんだ。
それって僕を男として見ていなく、僕が救世主だから必要って奴で、僕じゃなくてもいい奴だよね。
それに僕は、偶然補助魔法が使えるだけで使っているだけは強いかもしれないけど、弱い人間だよ?
「――――に、ラック様はわたくしの体を見てもおびえずに――」
「どうでもいいけど、その女王様がどうしてこのような場所に? 魔物が見せる幻影という可能性もあるわね」
パトラ様がまだ熱弁してるのにサーリアが喋りだす。
他人が喋っているのに……「人の話は最後まで聞かないと」
「ラック……声にでてるわよ」
慌てて口を押えるけどもう遅い……よね。
「ふふ、ラック様は正直ですね」
「胡散臭い話を最後まで聞いていたらお婆ちゃんになっちゃうわよ」
「あら。もう遅いみたいですね。ラック様を逃がしたサーリアさん」
「ちっ。逃がしたのではなく、最初から……ああもう! 変な言い争いはしたくない。ラック注意して魔物の可能性あるわよ」
サーリアが淡々としゃべると杖を向けて戦闘態勢だ。
このパトラ様は本物にしか見えないけど、サーリアの言う通り偽物かもしれない。
「パトラ様はどうしてここに……」
「時間の回廊の整備ですわ。以前ラック様も通りました道、サーキュアーの国。地脈とでもいいましょうか、その道の確認作業をこうして、これも女王の務めですので、すぐ帰るつもりでしたけど……」
「サーリア。やっぱりそのパトラ様は本物だよ」
どういう理屈で本物なのよ! と怒っているけど、一応だけど過去の話を知っているからだ。
サーキュアーの国にはパトラ様やアルトさんみたいな親衛隊しか知らない道が多数ある。
そこを通れば普通に歩くよりも短縮出来たりもして、クアッツルが教えてくれた辺境の森から辺境の町に行く秘密の抜け道と同じだろう。と、僕は思っている。
サーリアはその道をしらないし、その辺をどうやって説明しようかなと考えているとサーリアは杖を閉まってくれる。
「いいわ。どっちにしろ帰る道も無かったし、パトラ様に案内してもらいましょう」
「それがですね。サンドワームが暴れまわっていて帰り道がなくなりました」
全然困って無さそうなパトラ姫の発言に僕もサーリアも黙るとサーリアがはき捨てるように僕に言う。
「ラック。なんとかしなさい」
「出来ないよ……」
してよ。じゃなくて、しなさい。はサーリアらしい。
「男の子でしょ」
「かわいそうなラック様。冒険者なんてやめてサーキュアーの国の王になれば、こんなクソみたいな女は打ち首し放題ですよ」
「ラックがそんな事するわけないでしょ? ねぇラック」
サーリアが僕の右腕を取って腕を抱きしめてくる、サーリア胸が僕の腕にあたって……堅いけど。
パトラ様が左腕を引っ張ると同じようにだきしている、パトラ様の胸は柔らかいけど腕がヒンヤリするほど冷たい。トカゲの亜人だからかな?
僕が困っていると、二人が突然に僕の両腕を引っ張り後ろに吹き飛ばした。
壁から中型のサンドワームが襲ってくるのが見える、パトラ姫が尻尾を使ってサンドワームの攻撃を避け、そこ場所にサーリアが光球をぶつけると、サンドワームの体が溶けていく。
千切れた体のほうはまだ動いており二人を襲おうとしている。
「マナオールアップ!」
補助魔法をとなえ魔物の速度を追い抜くと僕はそのサンドワームの背中? に魔剣を突き刺す。
紙でも切るように切断し、地面へと着地した。
「…………上手く出来たかな?」
「はいはい、上手くできましたわねー。で、パトラ様どうやってここを出るわけ?」
「別の回廊を見つけるか、邪魔している者を排除になりますわ」
誰も僕の事をみていなくちょっとへこむ。
たまに活躍したんだからさ……そりゃ僕だって子供じゃないんだし、こんな事でいちいち落ち込む事はない。
それにサーリアだって幼馴染なだけであって恋人でもなんでもない。パトラ様だって国の女王という立場もあるんだろうけど、少しぐらい僕を見てたって……。
「「ラック」様」
「何でもないよ。ええっと何所かにいるボスを倒せばいいんだよね?」
「…………ミミズのボスって何だと思う?」
サーリアが僕に問いかけてくる。
「そんなのサンドワームだよね?」
「サンドワームはボスと言うよりは進化した奴かしら。今女王と話していたけどある程度殲滅しないとダメみたい」
「そうなの?」
「はい、予測ですが場所は見つけてあるのですけど魔力の塊というかですね」
仲悪そうだったけど大丈夫そうだ、これで即席パーティーの出来上がりだ。
正直嬉しい、こんな地下のダンジョンで一人でいると思ったら気が狂いそうになるし、帰り道も正直こまって……あれ? 僕って今とても不味い状況なのではないだろうか。
サーリアはグィンの彼女だ。
幼馴染だし、もちろん死なせるつもりはない、いざとなったら僕の全魔力を使っても地上に連れ出す! ぐらいの気持ちはあるんだけど腕の1本や2人の重傷を負う事もあるかもしれない。
サーリアだって冒険者だ、その覚悟だってあるだろう。でも、そうなると僕はグィンに一生恨まれるかもしれない。だって現在グィンを戦闘不能にしたのは僕だから。
次にパトラ様。
先ほどの戦いで僕を吹き飛ばすほどの力を見せたパトラ様だけど怪我の一つでもさせたら……怪我ならまだいい。仮に命を落としたら最悪は僕は打ち首。
僕だけならまだしも連れて行ったミリアさん、リバー、ナイ、ザックさんなど全員が死刑になりそう。そして王国との全面戦争に発展だ。
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