95 サーリアはとても怒っているわよ
地下6層目。
いきなりの終盤だ。というのも床が崩れていてロープを使って降りたから。
僕が降りてリバーがスカートの中を僕に見せつけながら降りてくる。
サービスです♪ っていうけどそういうサービスはいらないよ。子供の下着みても……。
最後はザックさんで片腕しかないのに簡単に降りて来た。やっぱりすごい人だ。
「どうした」
「え、いえ片腕でも凄いな。と思いまして」
「人間なれればある程度の事はな……それよりも気を抜くな空気が濃い」
そういわれるとそんなようなきも。でも、万年D級だった僕には何も感じない。
「ラック様! マナオールアップですよ! 感覚を研ぎ澄ますのです。そこの角に腐った犬に巨大コウモリ。右のほうにはスライム! ですよね! ザック様」
「…………えーっと、そうだな。あーそうだろうな……たぶん」
「ザック様? 歯切れが」
ザックさんがしゃがむと、角に向かって石を投げた。その石に飛びつくように腐った犬が出て来て石をガリガリと食べ始める。巨大コウモリが羽ばたき威嚇してきた。
「ラック! 構えろ敵だ!」
突然にいわれて僕は構える。
両手を構えてのファイティングポーズだ。
「って……あれ」
僕が疑問の声を出している間にザックさんが片手剣で敵を薙ぎ払う。
魔物の液体が飛び散って二つに分かれた魔物だったものがピクピク動いて最後には物になる。
「ラック様?」
「ラック? 何かおかしい事があったか?」
「いえ。あの……構えろっていうので構えたんですけど。何で僕は丸腰なんでしょう」
「そういえばラック様、剣もってませんよね」
「冒険者なのにか……?」
うん。一応魔剣である短剣はもってはいるけど、それは補助武器だ。
それを抜いたら剣なんて持っていない。もちろん僕が格闘なんて出来るはずもなく。
「つまり役立たずですね♪」
「そう!」
「役立たず。と、いわれているのにずいぶんと明るい声だな」
ザックさんが呆れているけど、本来僕はそうなのだ。最近周りが僕に責任だけを押し付けてくるけど、帰り道ぐらいしか役に立たない僕は前衛向きじゃないし、後衛でいられる僕はこれほどうれしいと思ったのはここ最近では一番だ。
「役に立ちたいですけど、役に立たなくて嬉しいです!」
「ザック様どうしましょう、ラック様が壊れました」
「…………こまったな。まぁラックには劣るが俺が前衛を務めよう、ラックとメイドは後ろを頼む」
別に僕は壊れていないんだけど、久しぶりの後衛で嬉しい。
ザックさんの前から黒い影が動いたようにみえた。ザックさんが剣を抜くとの相手の剣が十字に打ち合う一瞬にして相手は影に隠れた。
「…………兄貴……か?」
「…………愚弟か」
暗がりから僕達のランタンに照らされたのはグィンだ。
「グィン!」
「おお! 久しぶりだなラック。元気にしていたか? お前が勝手に出て行ってから……いや俺達が追放? したらしいな。良かったらもう一度組まないか?」
思わず、うん! って返事しそうになった。思いとどまったのはグインの後ろから殺気を感じたからだ。
「久しぶりねラック……」
「サーリア! ええっと久しぶり……」
「二人とも暗いな。所でどうやってここに? 天井が崩れていたはずだ」
グインの口調が前よりも優しい。
どういうわけか……いや訳はちょっと知っているんだけどここ数年の記憶が飛んでると、グィンを治療してくれたコーネリート先生が教えてくれている。
すなわち、グィンの中では僕を追放もしていないし、サーリアが付き合っているのは僕で、グィンは付き合っていない。と思っていた。
思っていたというのは、その辺を説明して理解はしてくれたけど納得はしてくれていない。
サーリアと僕をくっつけようとするグィン。
サーリアは当然僕ではなくグィンが好き。
その辺の事情があって僕はグィンから再び別れたのが数ヶ月前。だって僕がいなければサーリアとグィンは再び付き合うと思ったから。
「どこかの誰かか崩した天井からロープを垂らしてきた。ここに冒険者がいるらしいが他には?」
グィンさんの口調が少し不機嫌だ。
僕は良く知らないけど兄弟の仲は悪いみたい。
「それは悪かった……まだ怒ってるのか? 俺が押し掛けた時の記憶が無いんだ、家だって兄貴が継げばそれでいいだろ」
「あっ」
「どうしたラック?」
どうしよう。
ザックさんの家が取り潰された話。まだ知らないみたいだ。
原因はグィンのせいと表向きはなっている。
ザックさんをちらっとみると、僕と視線があった。
「気にするな。誰のせいでもない、しいて言うなら俺自身の力が弱かっただけだ」
「何の話だ?」
「悪いが家は潰れた、いまはお前と同じ冒険者ザックとしてこの依頼を受けている」
「どういうことだ?」
グィンがザックさんの胸ぐらをつかむと、ザックさんは微動だにしなくグィンさんを上から見るだけ。
「なるほど。冒険者というのは口より手なんだな。お前みたいになれるように慣れるとしよう」
ザックさんがグィンの手を降りほどくと体を回転させて蹴りをしかけた。
グィンのほうもその一撃を後ろに下がってかわす。
「てめえ…………」
「二言目には兄貴からてめえか、ずいぶんと知恵が働く」
あわわあわわ。
えっとえっと。ど、どうしよう!
「ラック様もうそろそろ止めた方がいいですよアレ」
「僕が!?」
「リバーが止めていいのでしたら止めますけど」
リバーが止める。といったら爆弾を使っていても止めそうだ。
「アームマナアップ! アームマナアップ! アームマナアップ! アームマナアップ! レギンスマナアップ!! レギンスマナアップ!!! ぜえぜえ、レギンスマナアップ!!」
もう早口だ。
空気が見える。
空気というよりも魔力の流れ、その二つが渦を巻いていてその中心に僕は割って入る。
右手でザックさんの手を押さえて、左手でグィンの胸を押さえる。
「っ!?」「っ!!」
二人の驚きの顔に僕はほっと息を吐く。
「と、とりあえず喧嘩はよくないと……思うんだ」
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