89 隻腕の辺境貴族再び

 ミリアさんの家で一晩過ごした。

 僕が目を覚めると右側にリバーが寝ていて、左側にナイが寝ている。床に引いた毛布に包まり寝た感じ。


 あれだけ離れて寝ていたにもかかわらず起きたらくっついていた。なぜに……僕が暑苦しくて起きた感じだ。


 ちらっとベッド組を見るとミリアさんがうなされていて、そのミリアさんにクアッツルが抱きついているのが見えた。

 クアッツルも床で寝ていたはずなのに。



「そうだ、朝の挨拶っと。ええっと……いでよケイオース!」



 筒を持って小さく唱えると、ポンっと音とともに水色の精霊が出て来た。手には枕を持っていて今まで寝ていたのがわかる。



「……なんジャ? ナニをけせばいイ」

「いや、おはようって思って」

「ん、ようがあるときによベ。きのうのごはんはうまかったゾ」



 しゅるしゅるっと筒の中に戻っていく。

 昨夜クアッツルにも喜ぶかと思って召喚して紹介した所、あまり喜ばなかったのは意外だった。精霊同士の派閥があるらしい。

 それでも精霊様には美味しい物を食べさせないとですわ。とクアッツルは筒の中に色々と食べ物をいれては楽しんでいた。



「ラック様おはようございます」



 リバーも起きたらしく僕の顔を見て挨拶してくれた。

 僕もそれに返事をすると、ナイも一緒に目を覚ました。



「パパおはようご…………ん」



 途中で角をつけたので言葉がとまるのは面白い。

 角の部分の穴はどうなっているのか毎回きになる。

 外はまだ雨で、晴れの日が待ち遠しい。

 後ろを見るとミリアさんがまだ唸っている、もうそろそろ起した方がいいだろうけど、起きたのか目を開けたクアッツルに睨まれたのでやめておく。


 もう少し寝かせておこう。



「ではリバーとナイは朝食の準備を。ラック様は……どうしましょう」

「僕も手伝うよ。これでも冒険者時代は雑用で色々したんだ」



 簡単なパンを焼いたり、スープを作ったり、薪を拾って火をつけたり、ツヴァイの煙草の買い出しや、ついでにサーリアに甘い物かったり、その度にグィンに無駄な金は使うな。って怒られたっけ、懐かしいなぁ。



「いえいえ、メイドの仕事ですからラック様はこう、どーん! と構えてくれればいいんです。なんせ部隊長ですよ? 魔物が来たらラック様だけが頼りなので」



 頼りにされたけど僕は周りを見る。

 ミリアさんの強さを筆頭に、クアッツルは精霊使い。ナイはハーフ魔族でべらぼうに強い。リバーにいたっては弱そうな感じなんだけど未知数。この中で一番弱いのは万年D級冒険者だった僕なんだけど。



「ラック様。別に強さは肉体的な事ではありませんよ?」



 リバーに心を読まれたようなきがする。



「慰めかな。ありがとう」

「いえいえいえラック様あってのリバーですから」

「…………ん」



 二人にお礼をいって顔を洗ってくることにした。

 僕が外から戻ってくるとミリアさんとクアッツルも起きてそれぞれ起きていた。ミリアさんは朝の軽い運動で、クアッツルはそれを眺めている。

 僕が挨拶をすると、二人も挨拶をしてくれてテーブルには朝から豪華な食事が並びだす。


 5人と精霊を交えて朝食をとると今日の予定を確認する。



「すぐにサーキュアーの国に行ってもいいんだけど、来たついでにザックさんに挨拶していこうかと」



 ザックさんというのは辺境貴族。

 由緒正しい辺境を守る貴族で過去の魔族との戦いでもこの地を守った英雄達の子孫だ。

 僕がいたパーティーリーダー。グィンの兄さんだったのも最近知った。



「辞めた方がいいと思いますわ」

「え? なんで」



 クアッツルが珍しく反対意見を出すと僕とミリアさんは顔を見合わせる。



「珍しいな、クアッツルが断言するだなんて。何かあったのか?」

「……サーキュアーの国に行けば解決する問題に辺境貴族に会う事もないかと思いまして」

「たしかに判断はラックに任せよう」

「僕が!? いや、そうなるのかな……うん。やっぱり会った方がいい」

「わかりました。ママがあなたの指示に従う。というのであれば秘密の抜け道を使いましょう」



 食事を終えて支度をする。

 今日まで乗って来た馬車はクアッツルが責任もって街に送ってくれるらしいのでここでお別れた。

 僕達は辺境の森にある秘密の抜け道へと足を運んだ。


 この森と街を結ぶ魔法の道。

 長くそれでいて短く思えるような不思議な道は何度とおっても不思議だ。としかいいようがない。

 ここを抜けるとザックさんの家にある牢屋にでてめでたく再会となるはずだ。


 光の穴がみえてきて僕の視界が急激に切り替わる。



「………………あれ?」



 目の前の光景が信じられなくてもう一度目を閉じて開けた。

 牢屋にでるはずなのに、いきなりの外だ。

 屋敷をみると木の板が張られている。



「ええっと……?」

「だから来ない方がいいと……」

「クアッツルどういうことだ?」

「グリファン家は王家に楯突いた。と言う事で取り潰しですわ」

「え。いや何で!」

「ラック叫ぶな、この距離だ普通に話していても聞こえるだろう? 上に立つ物は冷静にならないとな」



 ミリアさんに笑顔で怒られて僕は一度深呼吸をする。

 改めて静かにクアッツルに聞いてみた。



「そのままの意味ですけど、あなたのほうが詳しいんじゃないんですの?」

「詳しいって……」

「ラック!!」



 僕が考えるよりも僕の名前を叫ぶ声が聞こえた。

 振り向いたら片腕のシルエットでさわやかな声、見間違えるはずもない隻腕のザックさん。



「ザックさん!」

「いやー久しいな。王国からお前が……いやラック。これもだめかラック様が出発したと聞いて毎日見張りに来ていた…………すまない、見張りに来てました。お見苦しい姿を見せ申し訳ございません」



 ザックさんは僕に片膝をついてまるで召使いのようにふるまう。



「いやいや……それよりもこれは。え、貴族剥奪って」

「ラック様に詳しい話をしたいが、屋敷はこの通り立ち入り禁止だな。いや立ち入り禁止でございます」

「あの、普通に喋ってください。僕はザックさんを友人と思っています」



 少しの間があった後ザックさんはいつも通りの少し寂しそうなさわやかな顔をみせてくれた。



「そうか。では友人としてふるまおう。この度は愚弟が色々とすまなかった」



 改めて頭を下げてくるザックさん。

 ザックさんが愚弟というのはグィンの事に違いない、詳しい話を聞きたいけど雨に濡れてこのままでは風邪を引く。



「とりあえず移動しましょう。ザックさん今はどこに住んで」

「それもそうだな、冒険者ギルドの二階を借りてる」

「じゃぁそこに」

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