087 真打登場ですわよ! お久しぶりですわ
誰も何も喋らない。
喋ってもいいんだけど周りの水音で声が聞き取りにくいから。
手足を使ってジェスチャーをしながら馬車から降りてあるいた。ここからは徒歩のほうがいいとの事。
というのも。大雨である。
全体未聞の大雨で辺境の森に行くまで降りっぱなし、元々ボロボロのホロ馬車であるけど荷台部分には水が溜まり、床に開いている穴から水がこぼれていく。
小さいプールの中にいるような馬車での移動で僕はもちろん、騎士団にいたミリアさんですら顔をゆがめた。
何も言わないのはリバーとナイの二人で、精霊のケイオースに関しては一度、管筒という精霊を閉じ込めた筒から呼んでみたけど雨を見ては引っ込んでいった。
誰かか雨何て降らないだろう。っていうから。
黙ってミリアさんをちらっとみると、眉をピクっとさせた。
まっすぐに地面を指さしてさっさと歩け。という指示だ。
うん。そうだね……ぬかるんだ道を歩き通してやっと懐かしい小屋が見えて来た。
辺境にある共同温泉施設。
僕が恋人――――と思っていたサーリアと、仲間――――と思っていたグィンに追放されて傷を癒しに来た場所だ。
ここで温泉に入って裸のミリアさんと出会った。
馬車と馬を小屋に移し4人で建物の中に入ると、やっと一息ついた感じだ。
「疲れた……」
「だな……」
「お疲れ様ですラック様にミリア様。久々の温泉施設ですね、今温かい物を作りましょう。ナイ手伝ってくださいですです」
「…………ん」
二人とも疲れているはずなのに僕よりも早く動く。そんな事しなくてもいいよ。と口に出したいけどついつい甘えてしまうのは僕の悪い癖だろう。
「二人とも疲れているのに無理はするな」
そういうのはミリアさんで、流石は元隊長だ、気配りが凄い。
最近は杖を無くても普通であれば生活出来るぐらいに回復している。
「やっときましたわね! クソ人間」
どこかで聞いた事のある甲高い声。
僕らが服を脱いでは玄関で絞っていると奥から声が聞こえたのだ。
「クアッツル!」
透き通る緑や金にみえる色の髪で、耳が長い。顔は綺麗すぎるほど整っている。身長はやや低く子供にみえるけどエルフなので年齢はわからない。
特に人間が嫌い……なのかな。僕に対しても当たりがつよく……。
「…………風の精霊ジンよかの者を地の果てまで吹き飛ばせ! ウインドバースト!!」
「えっ!?」
「っと、ラック様こっちです」
服を引っ張られ首が締まった。
強制的に僕の体が背後に引っ張られるとナイに向かって物凄い強風が飛ばされる。
ミリアさんは反対側に飛んでいた。
魔法を直撃したナイの髪がなびく、足元が地面にめり込んでいき、体全体は微動だにしない。
背後にあった玄関がふっとび空にあった雨雲が裂けて青空がみえた。
暴風が収まると、クアッツルが手を前にしたままに舌打ちして唾を吐いた。だから汚いよ……。
「………………ん」
「ママ! 何なんですかっ! この魔族野郎は! 神聖な森にこのような魔族を連れてくるとはママじゃなかったら打ち首です!」
「野郎ではなくラックの娘だ、それにしてもよく魔族とわかったな」
「角が生えてる人間なんていないですわ!」
確かに今のナイは角付きの魔族モードだ。最近は何があるかわからないからと角をつけている事が多い、外すと知能が増えるが人間並みに弱いとの事。
それよりもミリアさん!? その紹介はちょっと。
ナイも黙ってこっちを見る。
「パパ」
「いやあのね?」
「なるほど、また問題を持って来たのですね! やっぱり死ぬべきですわ! 風の精げっふ」
「クアッツル!?」
クアッツルが口から血を吐く。
病気なのかもしれないし、死にそうな顔だからだ。
僕とミリアさんが同時にかけよると、僕を見ては突き飛ばしてミリアさんに抱きついた。
「ママ……」
「クアッツル。今日は仮病ではないみたいだが、その胸を揉むのをやめてくれないか」
「わかりましたわ。普段より高位精霊の力を使ったので魔力欠乏です。数日は身動きができませんの……」
ミリアさんは僕を見る。
「ラック」
「ですよね」
僕はぶつけたお尻を叩き起き上がる。
クアッツルの背中に手をあてて補助魔法を唱えた。
マナオールアップ。
僕の体内にある魔力をイメージしクアッツルへと流し込む。
欠乏症であればこれでいいはずだ。
「ん……これは……んん!」
「変な声は上げないで」
「あ、あげてませんことよ! このゴミ人間」
「まぁまぁまぁここは一先ず場所を移しましょうです♪」
そういうのはリバーで、僕らがいまいる施設はクアッツルの魔法で8割は吹き飛んだ。
空の青空は既に雨雲にもどっており土砂降りが空から降って来た。天井も何もない僕達に容赦なく降って来たからだ。
「わかりましたわ、ここは一時休戦としますわ! この魔族」
「クアッツル……その僕が言う事でもないんだけど、魔族だからってその怒りようは。ほらナイはまだ何もしてないし」
「これからもしない保証は! …………いえ言い過ぎましたわ。あなたがママに何もしないのであれば目をつぶりましょう」
僕じゃないんだ。
相変わらずのクアッツルで少し落ち着く。
クアッツルは手をナイにだすと、ナイは手を見つめて舐めた。
まさに悪手だ。
「何をしてやがるんですの! そんな趣味はないですわよ!」
「ナイ。そこは握手です♪ まさに悪手!」
「そこのメイド! 何が面白んですの!? そんなくだらない事頭腐ってるんじゃないんですの!?」
よかった黙っていて。
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