086 管狐(唐突の術物、気になる人は調べてね
とりあえず辺境までは馬車で移動となった。少し壊れかけの馬車で一般的なホロ馬車だ。御者台にはミリアさんがいて、無口なナイがその技術を教えて貰っている。
乗り込む時にラックも騎士団長になったのなら馬ぐらいは乗れるようにならないとな。と笑顔で言われたけど……。
僕だって過去に練習はした。でも乗れないのだ。
正確に言うと乗って動かす事が出来ない、だから誰かの背中に乗る事はできるけど、自分一人では無理と言う話だ。
馬に乗れない騎士団長がいたって別にいいじゃないか。というか僕は今回の事が解決したらすぐに辞めるつもりだし、いいよね? 辞めても……?
ミリアさんが凄い怒りそうなんだけど……いっつ! 突然髪を引っ張られてブチブチと僕の髪が引きちぎられた音が聞こえた。
「ケイオース!」
「やっとこっちをむいたカ」
妖精サイズのケイオースの手には僕の髪の毛が数本握られていた。
「はげるからやめて……」
「ニンゲンは、はえるんだロ? はえないノカ?」
生えるとは思うけど、生えなかったらつらい。
「ラック様ご安心を、いい植毛知ってます」
縫物をしているリバーが助け舟をいれてくれて、また作業に戻っていく。
「……その時はお願い。でケイオース用は?」
「そうヒマダ」
…………僕にどうしろと。
「トランプでも……」
「ことわル。オヌシよわいシ」
お手上げだ。
ちらっとリバーを見ると、僕の視線にきづいたのか足を崩してスカートをゆっくりとあげていく。
「どうぞ。安心してください声は出さない様にがんばります」
「…………多分違うよ……」
「あら、これは失礼しました……では、こっちですね。ラック様に迷惑をかける虫は退治しましょう」
「ギャ!」
ナイはポケット? から鍋つかみを装着すると、ケイオースが小さい悲鳴と共に僕の服の中に作った内ポケットへと消えていく。
以前潰された事がトラウマになったのかな……。
服の中を覗くと先ほどよりも小さくなり震えている。
「そんな冗談を言っている間に出来ました!」
リバーの声で正面を向くと縫い仕事が終わったらしい。
「何が出来たの?」
「これを見てください」
僕に見せてくるのは小さい筒だ。
木材? 出来ているようにみせて綺麗な模様が入っている。手渡されて確認すると大きさは右手のひらにのるぐらい、謎の金属でできていて黒光りしていた、上部には紐を通す場所があり首や腰に、衣服やカバンにもつけれますよ。と、教えてくれた。
ぱっとみ薬入れ。にしか見えない。
「ええっと立派な薬いれだね」
さっきまで縫物をしていて、なんで金属なのかはこの際頭から消す事にする。
「ケイオース様のお家です!」
「なヌ!」
僕の首元からケイオースの頭だけが出てくる、興味があったのだろう。
「一応説明お願い」
「もちろんです。中は5LDK、冷暖房完備、食事付きという――」
「いや、そこじゃなくて。ええっと使い方というか」
「はて……? なるほど。先端の部分にラック様の血を垂らすと、中にケイオース様をとじこめ……もとい! ラック様の命令で出入り自由な家になります。精霊であるケイオース様が何時までもラック様のお腹を独占はいけないと思いまして」
「嬉しいけどケイオースが外で生きるのに僕から離れると魔力がなくなってダメらしいから……」
ミリアさん達と合流したあと、試しに離れる実験をしたら僕から離れるたびに小さくなって形も崩れて来た。
そこで切れたケイオースは暴れたがリバーがその間をうまく取り持ってくれたのだ。
「もちろん。そうなのです! でも血の効果で魔力問題もOKですよ」
これを見てくださいとリバーは力説するので、ケイオースも興味津々っぽい顔で聞いている。
この箱、ってもリバーが言っているだけで筒にみえるんだけど、その中にケイオースが入れる設計らしい。で必要な時に呼び出し魔法が打てる。という話だ。
「おイ! メ……メイド!」
ケイオースの声が若干震えているのは相手がリバーだからかもしれない。
「なんでしょう?」
「う……こっちをみるナ! そのなかでエイキュウにヒマはいやだゾ……」
「その点でしたら大丈夫です!」
窓はもちろん、中にはこのようにと。近くにあった本を手に取ると箱の中に吸い込まれていった。リバーが背負っていたリュックから黄金色のリンゴを出すとそれも箱の中へと吸い込ませる。
「このようになっております。街についたら本をいれてもいいですし、魔力の帯びた食べ物や中には黄金リンゴの苗木もありますし」
「で……でも。おたカイんだろ……?」
「今なら無料! お試し期間で5年以内なら契約解除も出来ます!」
「カッタ! オヌシ。かってくれ!」
ケイオースは上目使いで僕を覗き込んでくる。
別に買うのはいいけど。
「ケイオースに害はない?」
「………………お買い得です!」
「いや。だからケイオースに害は……」
「ラック様。今後一生ケイオース様を服に住まわせるんですか?」
それは困る。
今でさえトイレいくのに袋の中にケイオースを縛ってから行くのだ。お風呂も同じように袋にいれて入る感じだ。
「わかった使うよ!」
この際多少の事は目をつぶる。
ケイオースを探すと僕の服の中にはいない。
「ケイオース様でしたら、もう家にかえりましたよ?」
「あっ本当?」
「よかったですね。これでケイオース様はラック様が呼ぶまで出てきません」
「え?」
「元々ケイオース様の分霊でしょうし、たとえ1匹死んでも元が沢山いますで平気ですよ? 東方の術師が使うクダキツネというアイテムと一緒ですね。一応黒光りした入れ物が光るとケイオース様が何か言いたい時なので――」
リバーから紐をもらってそれを腰につけた。なるほど……? この会話を聞いているはずのケイオースからの反応もないし大丈夫だよね。
バサっと音と共に御者台からミリアさんの顔が覗き込んで来た。
「話は済んだようだな」
「すみません、うるさかったですか?」
「狭い馬車だ小さい声でも聞こえるさ、それよりも雲行きが怪しい」
僕は馬車の背後から空模様をみる。
確かに雨が降りそうな黒い雲が見え隠れしてきた。
「少し速度をあげよう、なにザック様の所に行く頃には晴れているだろう」
「フラグですねリバーわかります」
「ふ、心配するな。こう見えても私は運がいいんだ」
ミリアさんが御者台のほうへ戻っていくと馬車のスピードが速くなってきた。
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