085 ラックは騎士団の隊長になってしまった
授賞式。
それはとても大変な事で僕はガチガチに緊張する。
第一部隊から第七部隊の主だった隊長が王座の間で左右に分かれて並んでいる。
一部誰もいない空白があるけど、その中でも第二部隊隊長のゾルトンさんと第七部隊のセシリアと目があった。
二人とも小さく頷いて笑顔を見せてすぐに表情をもとに戻し始める。
僕は赤いじゅうたんの上を一歩、一歩と前に歩く、最後に玉座が見える段差の前で膝をついた。
空の玉座の横にいるスタン第二王子が一歩前に出て来た。
「第八部隊新設に伴いラック。君を隊長に推薦する、異議の有る者は前に!」
静かにそれに力強く喋るスタン第二王子の言葉に王座の間は誰一人声を発しない。
僕が隊長になりたくない! そう言うのであればここなんだけど。
僕が精霊のケイオースと精霊の涙を持ち帰ってミリアさんに見せた所「これでサーキュアーとの交渉に移れるな」と、言ったから。
どうも、僕がいかないと本気で戦争になるとかなんとか。
サーキュアーの国には僕の知っている人もいるし、この状況で断れない。
リバーが「そんな事ラック様には関係ないのですから断ればいいんですよ? それともラック様は知り合いを全部幸せにしないといけない義務があるんですか? ラック様だけが幸せならいいのでは♪」と、突っ込まれたけど。
確かにそうなんだけど。
できる事なら助けたいし、僕もやるだけやってダメなら諦めるよ。とここにいる。
「では。ラックこの腕輪を」
「は、はいっ!」
手首に挟まるぐらいの腕輪をスタン第二王子から受け取った。
これが証明書らしく、これで僕も冒険者と騎士団。二つの職業を持つ事になった。
「では授賞式は終わりだ。アルカルラ国のために!」
スタン第二王子が叫ぶと周りの人達が同じ言葉を復唱して幕は閉じた。僕は立ち上がり王座の間を出ていく。
背後で扉が閉まったとたんに崩れ落ちる体、待機していたミリアさんとユーリーさんが僕の体を支えてくれた。
「ご、ごめん」
「見事な有志っぷりだったぞ。涙が出そうだ」
「及第点って所っかしら。私は部隊は違うし言葉使いは前のままでいいかしら?」
右側で感動しているのはミリアさんで、左側を支えてくれているのはユーリーさんだ。
「もちろんです。急に師団長になっても……その何をすればいいのか、とにかく緊張で喉が。どこか休める所に」
「やっとオワタか?」
服の中からケイオースが顔を出して聞いてくる。
ユーリーさんが困った顔で、ケイオース様まだですよ? と注意する。僕から一定以上離れると消滅するらしいケイオースはバレない様に服の中で隠れていたのだ。
ケイオースは「つまらン」と言った後に服の中に作った内ポケットの中で丸くなって寝だした。
ミリアさんとユーリーはその様子を確認した後に休憩室まで肩を貸してくれ、その扉を開ける。中にはリバーと久々に出会えたナイが迎えてくれたのをみて、やっと緊張が解けて来た。
「お疲れさまでしたラック様」
「パパ……おかえり」
「久しぶりナイ」
コクンと小さく頷くのはハーフ魔族のナイ。長身で言葉が少ないナイで見た目も人間なのに、とんでもなく強い。
あちこち切られても刺されても平気な体で、なぜか僕の事をパパと呼ぶ。
サーリアに言わせれば、パパ活でもしてるの? 本気引くんだけど……別れて良かったわ。と言われてかなり落ち込んだ。
「じゃぁ、私はセシリア隊長を迎えにいくから、詳しい事はミリアに聞いて」
「何から何まですみません」
僕が礼をいうとユーリーさんは手を降って出ていった。
思わずその背中を見送ると、背後から咳払いが聞こえてくる。
「っと、ミリアさんすみません」
「それはいいのだが……ラック。ユーリーみたいな若い子が好みなのか?」
「えっ!?」
「ラック様も好きですねぇ♪」
「……パパあの子が好き?」
「待って待って、何でそんな話に!? 確かに嫌いじゃないよ。え、なんで?」
ユーリーさんは常識人で親近感があるからだ。
その事をミリアさん達に説明するとミリアさんがふてくされた。
「では、ラックは私は常識がない。と言っているんだな」
「いや、そういうわけでは……」
「そうですよ。常識あるのはリバーだけです♪」
「それもちょっと」
「常識……?」
ナイにいたっては常識という言葉を知らないのかもしれない。
「と、とりあえず。ミリアさん。僕はサーキュアーの国を助けたいです」
「…………そうだな。常識ある私が説明しよう」
「お、お願いします」
第八部隊新設で最初の任務はサーキュアーの国に行く事。女王に会い亜人の暴徒を止める事。これが出来なければ僕ら第八部隊が先陣にサーキュアーの国に攻め込む事になるらしい。
ミリアさんが言いにくそうな顔になった。なんだろう。
「他にも?」
「一応な……スタン第二王子からの個人的な伝言で、必ず伝えて欲しいと言われたのでそのまま伝える『裏切るなら裏切ってもいいよ。僕は強い者が大好きだ』と、の事だ」
「………………」
「………………」
僕もミリアさんもお互いに無言になる。
リバーが僕らの顔をみてはため息を出してきた。
「ラック様もミリア様もお顔が暗いです。わかりましたリバーご心配事を無くすようにちょっとスタン様を暗殺してきます♪」
「冗談に聞こえないからやめて……」
「ご命令ならばっ」
本当にやりそうで怖い。
「とにかく。サーキュアーの国にいこう……」
「そうだな、一度辺境経由で行った方がいいだろう。クアッツルにも相談したいからな」
「そうですね。暫く会っていないし……お土産買って行かないと」
最後に会ったのはいつだろう。僕が辺境から逃げ出した時だから数ヶ月にもなるはずだ。
「ミリアさん所で」
「なんだ?」
一つ心配事があったのを思い出す。
辺境に行くのもいい、お土産を買うのもいい。
でも、資金の問題がある。僕だって補助魔法を使っていれば元気だろう。と思われても、当然お腹だって減るのだ。
結構な金額をミリアさんにあずかってもらっていたけど、魔剣製作や道中の細かい食事など、この数ヶ月1回も働いていない。
となればだ。
僕の財布だって空に近い。
リバーの給料も払っていないし、ナイにも給料を払った方がいいだろうが、それも払っていない。
「旅の資金ってもうあまり無いんですよね? いくら預けてありましたっけ」
「ラック個人のお金を管理させてもらっているが残り20万ゴールドと思ってくれて構わない。そして第八部隊の運営費として年間予算が組まれている、ざっと800万ゴールドだ」
「はい? は、800万!?」
「これでも少ないほうだ。第七部隊でさえ200人はいた、その食事、移動費、武器の備え、馬など」
それを聞くと納得できる。
でも。
「僕の隊というか第八部隊の人数って……」
「ラックが隊長で私が副隊長。リバーとナイは協力者と言う形で部隊で雇った客人扱いと言う所だな。他に質問は?」
800万ゴールドってそれでも少ないって騎士団って大変なんだなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます