084 リバーとケイオース

 ダンジョンの出入り口がみえてきた。

 外は明るく小さい出口からでると、お茶会の準備が出来ていた。

 当然と言えば当然の恰好、メイド服のリバーが丁度紅茶をいれている。


 なんで?



「おい、あのオンナはなんだ?」



 肩にいるケイオースが小声で聞いて来た。



「え。ああ、リバーと言って――」

「一応僕のメイド」

「なんと! オヌシはエライニンゲンかっ」



 リバーとは僕専属のメイドで、辺境の貴族ザックさんから頂いた物。僕としては人間を物として扱いたくないけど貴族の間ではそういう習慣もあるらしい。


 なんどが僕の元から離れるように説得したんだけど、僕としてもいた方が助かるしちょっと暴走するし、でも優秀で思いやりのある子……と信じたい。

 でもリバーの事を思うならいい働き口を探してあげないといけないんだろうなぁ。




「難しい顔をしてますね……お帰りなさいラック様。はい正真正銘のリバーです!」

「…………ただいま? っていうのは変なきがするけど。その言い方でいうとリバーの偽物がいるみたいなんだけど」

「はい。沢山います! 見つけ次第駆除してるんですけど中々消えなくて」



 いるんだ……これ以上聞いてはいけないような気がして話題を変える。

 本気か冗談なのか聞くのも怖い。



「とりあえず、ごめんね。休憩中に帰って来て」

「何をおっしゃるんです。これはラック様の分」

「そうなの!?」



 はい! と返事したリバーは僕の目の前に入れたての紅茶を差し出された。お礼を言って一口飲むと、かなり熱い。

 でも物凄く甘く。ほのかにリンゴの味がする。



「次もラック様の分です」

「い?」



 リバーは次のティーカップに紅茶を注ぐと僕に突き出してくる。僕の前には先ほどの紅茶がまだ残ったままだ。

 紅茶を左手に持ち替えて、右手で新しい紅茶を貰う。

 リバーはティーポットから新しい紅茶を入れだした。



「一応聞くけど」

「はい、これもラック様の分です」

「いや、そんなに飲めないから……猫舌でもないけどこう続けては……」

「なるほど。ではリバーが飲みますか」



 それにしても、僕の肩付近で飛んでいるケイオースの事を一言も触れないリバーが逆に怖い。

 ケイオースは僕が飲んだ紅茶にストローを刺してズズと吸いこんでいる。




「ではラック様。紅茶には焼きたてのクッキーです」



 ミトン耐火手袋をしたリバーが鉄板をもってくると僕の前にあった台に置いていく。

 リバーの背後を見ると簡易的であるけど小さいカマドが見えた。



「ありが……」

「とういう事でっ」

「ギャギャ!」



 リバーはミトンのまま僕の近くを飛んでいたケイオースを叩き潰した。熱かったミトンに水滴が蒸発するジューっと音が聞こえすぐに消えていった。



「えっ! ええ!?」

「害虫は退治しましたので熱々をどうぞ」



 何も無かったように微笑むリバーが少し怖い。



「いやあの……虫とかじゃなくてさっきのは精霊様らしくて……え。ど。どうしよう……」

「おや、でも精霊の涙を取ってこいといわれましたけど、精霊を持って来たのですか……?」

「ああ。それだったらここに」



 僕は精霊の涙を入れた小瓶をリバーに手渡した。リバーは頷きながら小瓶を返してくれる。



「では! きっと大丈夫です! 何も問題はありませんね。ラック様の魔力がちょーっと減っているようなきがしましたので、補充の紅茶です。それに」

「それに?」

「精霊様が精霊でしたらどんどんわきますし、殆どの精霊は消えないんですよ」



 背後の洞窟から、獣の唸り声のような低音が響くと僕の肩にケイオースが戻って来た。

 


「なにさらすんジャ!」

「はや!」

「これは大変失礼しました。ラック様からご紹介が無かったので新手の魔物かと。お近づきの印に魔力回復の入った紅茶をどうそ、精霊といえば魔力です! その疲れた体に大変ききますっ!」



 リバーは何事もなかったかのようにケイオースへ微笑むと、少し大きめの紅茶をケイオースに差し出す。飲みにくいでしょうからとテーブルの上へと置き始めた。



「…………わ、わかれバいいンジャ」



 毒下を抜かれたケイオースはテーブルにあぐらをかくとストローで飲み始める。扱いが旨い。



「美味しいですか? 黄金卿のリンゴを使っているんですよ」

「うまイ!」



 とても高そうな物が入ってるらしい。いつも思うけど僕にここまでしてる価値はないんだけどなぁ……。思いきって聞いてみよう。



「リバー!」

「はい。リバーです、ラック様食事の後は性欲ですね。では早速いたしますか? 丁度ベッドを作っておきました」

「丁度も何もいつの間に!? いや、そうじゃなくて……僕は騎士団隊長に別になりたく無いんだ。で……何かいい案はないかな」



 言ってしまった。

 いや、散々なりたくない。とは言っているんだけど、毎回流されるからきちんと伝えてみた。



「でもラック様。別に凄く断る理由もないって感じですよね?」

「そうなノカ?」

「いや、まぁ……」



 それもそうなんだけど。




「わかりました! ラック様が騎士団隊長になりたくない。そう本気で願うならリバーが何とか考えます」

「なんとかって……」

「んーラック様が聞けばドン引きしそうなので言わないで起きます♪」



 それだけでもドン引きだ。



「辞めて……やっぱり自分でいうよ。うん、それがいい」

「そうですか? リバーに任せてくれれば騎士団問題は解決なんですけど」

「例えば?」

「そうですねラック様が王様になればいいんです!」

「はい?」

「であれば、騎士団になりません」



 うーん。理屈はあってる。

 いやまって、王様になるって事は今の王様はどうなるんだろう。



「リバー?」

「はい、リバーです」

「今の王様やスタン第二王子様はどうなるのかな……」

「死にます♪」

「それはイイカンガエじゃな」

「却下却下却下!」



 いい案なんですけど却下されました。と、リバーが落ち込みはじめる。普通なら冗談でおわるけどリバーだったらやりかねない。



「とりあえず、戻ろうか……別に騎士団に入ってもいいんだよ。でも僕は一般人だよ? 周りに迷惑がかかる」

「ラック様それ本気で言ってます?」



 リバーが真顔になって聞いて来た。



「本気も何も事実なんだけど……」

「これはこれは失礼しました♪ じゃぁ帰りましょう♪」

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