081 補助魔法士ラック、仲間と幼馴染から追放されてしまったので辺境でひっそり暮らしたい

「マナオールアップ」



 今にも死にそうな顔のグィンがベッドで寝ている。そのグィンに僕は補助魔法をかけまくる。



 ふう、これで連続10回目だ。



 コーネリート先生とサーリア、それとリバーが見守り、監視している。



「あの……まだ……」

「あたりまでしょ! グィンはまだ起きて無いんだから!」

「ラックちゃん、あと2回で成功しなかったら、もう船から彼を流しちゃいましょう」

「ちょっと! コーネリート先生!」



 サーリアがコーネリート先生に食って掛かるけど、僕としてもこれもう手遅れなんじゃないかなって思い始めている。

 力が戻った僕達はサーリアに報告して直ぐに船に戻って来た。

 

 先生は魔剣の事やスタン第二王子と知り合いだったのか。など一切言わないので、僕も一切聞かない。

 ただ魔力が戻りました。だけ伝えると、おめでとう。と迎え入れてくれたのだ。


 で、サーリアに引っ張られてすぐにグィンに蘇生……じゃない僕の魔力と血を流して、毒を中和させようとしているんだけど、これが一向に起きないんだ。


 さすがのコーネリート先生も、時間切れかなぁ、腐ってるし。っていうしサーリアは激怒するし、リバーはそのサーリアを煽るし……と僕はもう休みたい。



「ラック! もう1回だけ! わかるでしょ。グィンは大切な仲間よ! こんな所で諦めきれないじゃない」

「と、サーリア様は申されてますが、その大切な仲間から裏切られたラック様はどうお考えでしょうか」

「裏切ってないわよ!」



 え!?

 いや、僕も裏切られたとはあまり思っていないけど、じゃぁなんだろう。

 思わずサーリアのほうを向いてしまった。



「あれは……その。稼ぎが悪いラックが悪いのよ!」

「ご、ごめん」

「ふふふ、サーリアも先生の弟子なんですから、こまったら貸すのに、冒険者になった時に祝い金を二人にあげたのに100万ゴールドで足りなかったかしら」

「え。しら――――」

「その節はコーネリート先生にお世話になりました!!!」



 僕の声がサーリアの怒声で書き消えた。

 100万ゴールドって僕知らないんだけど……。



「ラック! 今は思い出にひたってる場合じゃないの! 早くグィンを」

「え。ああっそうだね……マナオールアップ!!!」



 自分にもかけてグィンにもかける。

 魔力の流れがみえるんだけど、グィンの魔力は全然動いてくれないのだ。


 サーリアをちらっとみると、サーリアの体は魔力が多く光っており、リバーの体もサーリアに負けないぐらい光ってる。

 それも凄いんだけど、その隣にいるコーネーリート先生は一切光ってなくて、そっちがのほうが怖い。

 あまりの怖さに魔力の流れの報告はしてない。



「マナオールアップ!!」



 12回目の補助魔法をかけると、グィンの体が激しく上下に動く。



「うわ!」

「あらやっと出たわね拒絶反応」

「グィン! 今助けるからね!」

「……助けるのはラック様ですけど」



 サーリアが、リバーにうるさい! と、どなって僕を突き飛ばした。



「とっとっとおお」

「はーい、ラックちゃんいらっしゃい」



 コーネリート先生が手を広げて倒れそうな僕を迎え入れてくれた。その柔らかい体に包まれて照れくさい。



「す、すみません!」

「あら、そんなに直ぐ離れなくてもいいのに」

「グィンは!?」



 振り向くと口から緑色の液体を吐き出しながらけいれんしているのが見えた。ゾンビ……手遅れだったのかも。



「変色した魔族の血よ? もうそろそろ意識がもどるんじゃないかしら、さすがサジェリが自分より凄い逸材さ。と、教え込んだだけある男ね」

「え。師匠が?」



 そんな話は聞いた事ない。

 師匠の教える事は適当で、僕は必死についていっただけなんだけど。



「う……ここは……」

「グィン!」

「ええっと、グィン良かった。久しぶり」



 僕もサーリアも上半身をベッドから起き上がったグィンに声をかけた。眩しいのか顔を手でおおって口元の魔族の血を手の甲で拭っている。



「サーリア……か? それにラック……だよな? ここはどこだ? ツヴァイはどこにいる」

「ツヴァイなら船上よ」

「戦場……? 何言っているんだ。だめだ……カオナシの塔言った後から記憶がない。サーリア老けたか? ラックも身長が伸びたようだ……」

「んあっ!?」

「えっ!?」



 僕は慌ててコーネリート先生をみる。



「コーネリート先生! グィンの言っているカオナシの塔って僕らが2年前に攻略した所で……」

「記憶を持っていかれたわね、まっ助かったのだし良かったんじゃない?」

「俺でもわかるぞ。そこのけばい魔女はどこのどいつだ」



 グィンがコーネリート先生に悪態をついた瞬間。グィンはベッドから吹っ飛んで窓の外。すなわち海へと落とされた。


 え!

 


「せ、先生……」

「あら。突風かしら? サーリア、彼が探しているツヴァイ君を呼んで引き上げないと、彼おぼれ死ぬわよ」

「まぁ今のはグィンが悪いわよね」



 そこまで悪いのかな。

 リバーまでも、グィン様が悪いですね。って言っているので、この場で女性陣に文句を言える立場はない。



 サーリアがツヴァイの名前を大声で叫びながら部屋から出ていくと、僕は近くの椅子に座って床を見る。

 疲れたのだ。



「ラック様燃え尽きましたか?」

「多少ね。とにかく無事に生き返って? よかったよ」

「さて。先生も弟子のお願いが終わったので仕事にもどるわね。ラックちゃん寂しくなったらいつでもいうのよ? 先生の寝室に入れる簡易魔法陣の紙はその子に預けたから」

「えっは、はい。お疲れ様です」



 手を降って部屋を出ていく。

 リバーを思わず見るとリバーは何も言わないで僕をみてくる。

 あの、なんでコーネリート先生に会える魔法陣はいいとして寝室なのか。



「さ、ラック様! 次の冒険はどうするんですか!? リバー期待の眼差しです」



 期待の眼差しで見られてもなぁ。



「辺境にもどるよ。クアッツルにいって家の購入を完了させて……のんびり暮らす予定。

 だからリバーも無理に僕についてこなくてザックさんに働き口を……いや、別にザックさんの所に戻れってわけじゃなくてね」

「ふむふむふむ」



 何度も言うけど、僕は別に争いはすきじゃないし、サーリアがいたから冒険者になっただけだし。



 僕が部屋から出ようとすると外から誰が入って来て僕は部屋の内側にふっとんだ。

 尻もちをついて見上げると懐かしい顔が見えた。



「ラック……!? お前なんでここに」

「ええっとアルトさんですよね?」

「ラック様、アルト様じゃありません。姫を寝取られた軟弱のが抜けています」

「相変わらずクソのようなメイドを連れているんだな。それよりも、ここは偉大なる賢者の船と聞いたが賢者はどこだ! 先ほど会った亜人の仲間からこの部屋と聞いた」



 アルトさんはきょろきょろとあたりを見回す。



「賢者というかコーネリート先生ならさっき出て言ったけど」

「なん……だと……」



 現実でその言葉を聞くとは思わなかった。



「どうなされたんでしょう?」

「さぁ……取り合えず上に行こうか」

「まて! このさいお前でもいい! いまサーキュアーの国は王国に滅ぼされようとしている、王国の新部隊、第八部隊が襲ってくると情報を得た。確か辺境の貴族と仲がよかったはずだし、あの王国騎士団の隊長ともお前は仲がよかったよな。助けてくれ!」



 えええ……いや。え? ちょっとまって情報量が多くて混乱する。



 扉が突然開く。


 扉の前に立っていたアルトさんはその衝撃でふっとび尻餅をついた。

 白銀の髪のミリアさんが僕を見てほほ笑んでくる。



「ここにいたかラック」

「え。はい」

「よろこべ。第八部隊隊長にラックが選ばれた。副隊長は力不足かもしれないが私が勤めよう」



 ん??



「いやちょっとまって」

「………………そうか、私が副隊長じゃ不満か。確かに年齢はもうおばさんと呼ばれてもしょうがない。しかし知識のほうではまだ負けないつもりだったか。仕方がないだろ新設した部隊だったんだ」

「いやそうじゃなくて……」



 僕が困惑していると、アルトさんが剣を抜いて来た。



「お前が第八部隊だったか……パトラ女王ならず祖国すらじゅうりんしようと。ここで殺す!」



 アルトさんが本気でくるので、思わず腰の短剣でその攻撃を受けた。

 まさにバターのようにというようにアルトさんの剣をキレイに切ってしまった。



「ぬあ! パトラ女王からもらった剣があああああ」

「あっごめん、これ魔剣で……」

「ラックその魔剣って壊さなかったのか?」



 事情をしらないミリアさんが質問してくるけど、どれから手をつけていいか混乱する。

 ばっさばっさと羽ばたく音がすると窓の外からツヴァイとグィンが部屋に入ってくる。助けは間に合ったみたいだ。



「ふ。ラック困っているようだな。仲間として俺が手助けしよう」

「ラック! 儲け話なら私も混ぜなさい!」



 いや。儲け話も何もね。

 記憶が飛んで性格が優しくなったようなグィンと儲け話が好きなサーリアが部屋に乱入してくる。ツヴァイはため息をついて上へ飛んでいった。当然後からグィンに合流するだろう。



「僕はその辺境でゆっくり暮らしたいだけで」



 僕の意見をガン無視して全員が僕の名前を呼んで来た。






 第二部完 夜にでも完結ボタンおしますなのです。お付き合い本当にありがとうございました。

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