080 終わったでござるでそうろう
「そこ! バケツに水汲んで来て!」
ドラさんの怒号が飛ぶので、僕は急いで水バケツを取り換える。
僕が役に立っていない作戦会議を終えて僕らは転送の魔法陣を使わずに王都まで戻って来た。
直ぐにドラさんの工房を三度ノックし出て来たドラさんは物凄い変な顔をしていた思う。
そりゃそうだろうな、コーネリート先生にサーリア、僕とリバーだ。
ドラさんを寝ないで働かせよう作戦を伝えた所、思いっきり反対された。
サーリアが後ろからドラさんを両手で押さえつけると、リバーがドラさんに、自称ポーションを飲ませた。
そのとたんにドラさんの目が充血して一気に仕事をしだしたのだ。
僕が井戸から水を変えるとドラさんが椅子に座り倒れ込んでいた。
「リカバーヒール!」
コーネリート先生の呪文が聞こえるとドラさんはゾンビの様に立ち上がる。
リバーが、ドラさんに『美味しいポーションです』と言って自称ポーションを飲ませる。
ドラさんの顔がみるみる元気になっていった。腕を曲げて力こぶしを作って見せてくれる。その腕にはリバーがぶら下がって遊びだした。
「なぁ……これ。副作用はないんだよね?」
「ナイデスよ」
「ナイわね」
二人の微妙な声にドラさんは眉をひそめるも、続きを叩く。と言って仕事をしだす。
カンカンカンカン、トントントントンと骨を削っては炉に入れたり削ったりしての作業だ。
僕達に出来る事はそれを見守る事だけ。
手伝いもしながら見守り続けて15日目の朝、工房の扉が大きくノックされた。
ドラさんもそのノックの音に気付いて外の方角を見た。
手には魔剣が出来上がっており最終調整で削っている所だ。
「ちっ! もうすぐ出来上がるっていうのに……あんたさ、悪いけど出てくれる? 変な客だったら刺していいから、最後の仕上げは集中したいんだ」
「そうもいかないかと……行ってきます」
中庭にを抜けて工房側から扉を開ける。
短い金髪の青年が、はにかむような笑顔を見せて来た。
「ス、スタン第二おおおもごごごごごご」
僕の口は金髪のスタン第二王子の手によって強制定期に閉じられる。
「おっと、今の僕は名無しの仮面と呼んでくれたまえ」
「いや、仮面かけてないし、どうみてもスタもごごごごごごご」
仮面と名乗っている仮面をかぶっていないスタン第二王子の手にやっぱり僕の口は閉ざされた。
「それにしても探したよラック君」
「もご?」
「ああ、ごめんごめん。手で塞いだままだったね」
「ええと、ス……」
「お?」
僕がスタン第二王子と呼ぼうとする、スの段階でスタン第二王子は大きな手を構えて来た。それ以上名前を言うならまた口を押える気だろう。
「ええっと、仮面……さんでいいんですか?」
「そうそうそうそう。今の僕は身分も何もない仮面の男さ」
そういう遊びなのだろうか?
「あの……ドラさんにご用なんですよね? 呼んできますけど」
「いや、用があるのはラック君のほうだよ、言わなかったかい? 探していた。と」
最初に言っていたきはする。
でも、なんだろう……僕の力は今は何もない、変な相談はされたくないしなぁ。
「な、なんのご用でしょうか……騎士団に入れなどはお断りを……」
「ん? 今はその話はしてないね」
うわ。何か機嫌を損ねるような事を言ったかもしれない。
スタン第二王子の顔は笑顔なんだけど、その笑顔が凄い怖いのだ。
「す、すみません!」
「まぁいいさ。はいこれ、探しているって聞いてね」
スタン第二王子は僕に白い布で包んだ何かを手渡してくれた。
「これは?」
「こっちで破壊しても良かったんだけど、ラック君が壊した方がいいと聞いてね。ある筋の人の話でいうとラック君でも折れるようになっているらしく、ぜひ目の前で折ってくれないか?」
折れといったって何かの棒? 大きさは短剣サイズの包みで、とりあえずスタン第二王子の目の前で白い包みを剥いでいく。
「え?」
包みからは魔剣の短剣が出て来た。
刀身は青白い色を発光しており、ごていねいに短剣の中央部分に黒い線が引かれている。
綺麗な字で『らっくちゃんここを折るのよ?』と書いてあって、これコーネリート先生の文字だよね?
首を振って周りを確認するも先生はいない。
先生は自分の番は終わったわ。と言って昨日帰った所だ。
「あの、先生と知り合い……?」
「誰の事はしらないな、ある筋からラック君が困っている。とだけ聞いている」
「でも、この文字先生の文字ですし……もしかして、先生って王族と」
「ん。誰の事かはしらないよ」
「わかりました!」
僕は大きく頷くと、スタン第二王子もとい仮面さんも大きく頷いて笑顔を見せてくれた。
「わかってくれたね」
「一度先生に聞いてみます」
いきなり貰っても僕としては困るし、相手は国の王子様だよ? ちょっと手を横にするだけで僕は死刑になる。
そんな人が突然短剣を持ってきてくれるのは逆に怖い。
僕の両肩が突然重くなった。
思わず短剣を地面に落としてしまった。
スタン第二王子の笑顔が近くなっていて、僕の両肩には第二王子の手が重くのしかかっている。
「ラック君。スタン第二王子が折れ! と言っているんだ」
「え。あの仮面さんと呼ぶんですよね?」
「いい加減に………………壊せよ」
「え!?」
僕は慌てて聞き返した。
スタン第二王子は、笑顔で何も言わない。
無言の圧力だ。
ゆっくりとしゃがんでも、僕の両肩にはスタン第二王の手が押さえつけられている。
怖いなぁ、せめてコーネーリート先生に相談してから壊したかった。
「うう……はい!」
パキっと短剣が折れた。
青白く発光していた刀身は白くなり黒くなっていき最後に砂の様に落ちた。
全身に力がみなぎってくる感じがする。
「ふう……やっと折ってくれたか。どうだいラック君」
「え? ああ、はい何となくですけど魔力が戻ったような」
「よかった。これからも兄のために頼むよ」
僕が返事をする前にスタン第二王子は離れていった、一度も振り返らずにそのまま人込みのほうへ消えていく。
なんだったんだ……いや、うん。
「マナアームアップ…………」
腕全体が熱くなり力がみなぎってくる。続けて心臓部分を触り別の部分を唱える。
「マナオールアップ……」
こちらも全身が熱くなりいつもより力が沸いてくる感じが広がる。え、本当に治ってるよこれ。
うん、嬉しいんだけど……ええっと今日までの――。
「あんたさぁっ。いつまでかかってる訳?」
「うわああああああああっ」
「な、なに!?」
声をかけられて驚いて振り向く。
もう半月は寝ていないドラさんが鞘に入った魔剣を握っていた。
「え、いや、あの……」
「まぁいいけどさ。何の押し売りだったわけ? 誰もいないなら戻って来てよ。ほらっあんたの願っていた魔剣。
師匠の偽物を作るのは凄い嫌だったけど、改めて師匠の凄さが判ったきがするよ………………なに、嬉しくないわけ?」
「えっ、う、嬉しいです!!!」
思わずいつもより大きな声で答えた。
もう必要ないけど……。
「うるさっ。まぁいいけどね、絶対に刃の部分を触るんじゃないよ? アタシはあのメイドの子が置いていった睡眠薬飲んだから、ちょっと眠くなっ……って……きて……」
「うああ」
ドラさんが突然僕に倒れて来た。
慌てて抑えるも人形のようにクタっとしている、大きな胸を押し付けられたり、首筋の汗などが見えて非常に困る。
見物人が出来る前に家のほうへと背負っていく、事前に補助魔法がかかってなければ無理だったなぁ。
勝手に工房の二階へいってドラさんのベッドへと寝かしつけた。
全く起きる気配がなく、少しドキドキして慌てて階段を降りた。
あぶないあぶない、変に触ったらそれこそ犯罪だ。
「あ、ラック様。リバーお使いから戻りました!」
「おかえり……」
「おや、ラック様。ドラ様の姿がお見えではなくそれでいて嬉しそうな顔ではない。ラック様が二階から降りたという事は、ドラ様の仕事は終わり、リバーの渡した薬を飲んだ後ですね、それでいてどうかなされましたか?」
「えーっと……」
相変わらず頭の回転が速くて凄いんだけど一気に言われると僕は何を言っていいか反応に困る。
「もしや、リバーがお邪魔でドラ様を襲えなかった。わかりましたリバーもう二時間ぐらい買い物に行きますのでその間に済ませておいてください、リバーの睡眠薬は何されてもおきませんのでご安心を」
「怖いって……何もしないし用は全部終わった。うん、終わったんだ」
「ラック様はそうろーですか」
「違う!」
どこでそんな言葉を……まさかザックさんの所だろうか。
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