074 最強のパーティー(一人意外)

 三大国中立エリア禁止区域地域。通称魔の穴。

 僕らはそのダンジョンの入り口に立っている。


 普通の人間が入れないように結界が何重にも張ってあり思わず唾をのんだ。



「パパ緊張して――――……ル?」



 冒険者スタイルのナイは片方だけ角をつけていて、ちょっとだけ知能が低下中だ。

 ダンジョンに入る時には両方つけるらしい。



「そりゃ緊張もするよ。それよりも……あの……なんで皆くるんです?」



 ミリアさんは道案内でともかく、セシリアさんと当然の様にリバーも付いてきている。

 3人の手が止まって僕を信じられない! というような顔で見てきた。



「ここまで約10日ほど一緒に移動して、今更その質問をいうラックに驚きだ……]



 いや、そうなんだけど。

 ついてくるだけで、もしかしたらダンジョン前に来たら何人か帰るかもしれない。と……。

 本当に少しだけ思って言い出せなかっただけで。



「まぁいいラック1人じゃは入れないだろう? それに心配だからな」

「はーいミリア大隊長に頼まれたからー!」

「そりゃラック様が遠征に行くんですしリバーはついていきますよ?」

「パパが置いてい……ク……カラ」



 心配と言われて胸の奥がジーンとなった。



「そもそも、このダンジョンは危険だしな。幸い私とセシリアは入った事があるし、強さもある。さらにセシリアの口利きが無いと禁止区域にもこっそりと入れないだろう。

 戦力としてはナイも当然に欠かせない。

 リバーはメイドであるが細かい所に気がづくし…………ラックは…………」



 ラックは?

 ミリアさんが口を開けたまま数秒言葉を止める。



「さていくか」

「ええっ!?」

「べ、べつに思いつかなったわじゃないぞ。私より強い。と言おうと思ったが今は最初の時に出会ったような弱さだし。そのな。まぁ依頼人。そう依頼人だ」



 依頼人。

 そういう扱いであればそれも納得できる。



「わかりました。あの全財産の半分出しますんで……」

「そこまで出す事もないが、無事にアイテムを手に入れるさ」



 さていくぞ。

 と、ミリアさんが仕切っていく。

 頼もしい。


 結界が何重にも張られている出入口には手を付けないでミリアさんは獣道を歩いていく。すぐ横の岩をどけると入口が見えた。



「…………あの、さっきの結界で守られた入口は?」

「偽物だよ。大抵の冒険者はここまでこれてもアレを見て帰る」



 ミリアさんがさっさと入るので僕も周りを確認しながら入った。

 リバー、セシリア、最後にナイが内側から偽の岩を動かして出口を封じる。



「か、帰れないのでは……入口の切れ目もないですし。手触りも岩そのもの……魔法では崩れないと思いますが」

「流石後衛だな。帰路の確認を」



 それぐらいしか出来ないから、仕方がない。

 空気が重い。

 空気というか魔力かもしれない。



「早速来たか……」

「え?」




 ミリアさんがラック、リバー下がっていろ。と、言うと前から大きめの巨大コウモリが何体も飛んでくる。

 普通の吸血コウモリよりも体が大きくその口は僕の頭ならかじられて終わりだ。



「せっちゃん! いっきまーす!」

「…………グルグルパン…………?」



 セシリアさんとナイが同時に動く、セシリアさんは巨大コウモリの腹を蹴飛ばして撃退し。

 ナイは飛んでいる巨大コウモリの頭を掴むと、そのまま潰した。


 ぐろ……。


 僕も冒険者なのである程度は耐性はあるからいいけど、リバーはちょっと変わったメイドだ。

 大丈夫かな……ちらっと横を見るとリバーがいない。



「あれ?」

「ラック様。この目玉焼いて食べます?」

「…………食べない。あまり突かないように」



 この二匹の魔物を境に、十数匹が襲ってくる。

 それを僕らの前に一匹も寄せ付けない二人が凄い。



「ミリアたいちょー! せんめつしたよー!」

「…………ん」

「周りの残った魔物に気をつけて。リバーは後方も確認。ラックは……死なない様に茶でも飲んでくれ」



 僕にだけ扱いが酷いきがする。

 出来る事が無いから仕方がない。


 順番としては、セシリアさんナイの二人組が前。その次にミリアさん。僕がいて最後にリバーという陣形で進んでいく。


 大きな道を歩くと左右にあるろうそく台に青白い炎が灯っていく。凄いギミックだ。




「キレイな火ですね……」

「このダンジョンで死んだ魂と言われている。気を抜くな」

「あっはい……」



 怒られた。




「まぁまぁミリア様。このような状況でも平然としてられるのがラック様ですし」

「…………そうだな。悪かったなラック」

「い、いえ」



 褒められているのかけなされているのか。

 ピクニックではなく危険なダンジョンなため皆口数が少ない。

 喋っていて注意力を分散し危険に陥っても困る。


 僕は壁に自分だけが分かる印をつけていく。

 考える事は皆おんなじで、そうでもしないと印が被るからだ。

 その後も魔物の群れ。


 口から魔法を打ってくるイノシシサイズのネズミや、赤や黄色の火の玉が襲ってくる。

 まぁ、襲ってくると言っても全部セシリアさんとナイ。あとミリアさんが処理してくれるんだけど。


 ちょっとした広間に来るとミリアさんが大きく息を吐く。



「トイレですか? ええっと物影は……」

「違う。休憩だ、地下四層部分はここで終わりだな。まだ真横に道はあるが目的の物を手に入れるのはここから更に地下へと降りる。

 縄張りでもあるのか、下の階から魔物は上がってこない」



 へえ。



「今さらですけど、本当にありがとうございます」

「ん? どうした?」

「いや……話を聞く限り凄い強い魔物の材料なんですよね。それをグィンのために」

「ラックのため」

「そうですよ、ラック様。あんなザック様の弟だからって死んでもいいようなグィン様を助ける事なんてないんですよ」



 いや、グィンだから死んでいい。とは思わなくて。

 ん?



「あれ、リバー……?」



 リバーは突然横を向きだした。

 ランタンと小さいたき火をして休憩をしているんだけど、横を向いたまま一切喋らなくなった。


 いやちょっとまって。

 グィンは貴族ってのは僕は知っていて、ザックさんの弟さんがいて、その弟さんは勘当されるほどの犯罪をしたとかなんとか……あれ??



「ええっと……ミリアさん?」



 僕はミリアさんを見るとミリアさんも僕と視線を合わせずに口が真横になった。



「ミリアたいちょーくちなくなっちゃったー」



 セシリアさんがミリアさんの頬をぐにぐにと力技でひっぱるも悲鳴すらあげない。逆に怖いよ。



「ナイはなにか聞いてナイよね?」




 ダジャレっぽくなったけど、別にダジャレではないからね。

 そんな目で見ないで……。



 そんな目で見て来たナイは天井を指さして床を指さす。

 どんな意味が……って、あれかな? 貴族がよく言う言葉で『貴族は天上人で奴隷は下』意味は貴族以外の人間は奴隷だからいちいち天上人である貴族の事に口を出すな。だったようなきがする。



「ミリア様! ラック様! 床が崩れます!」



 リバーの言葉で現実に戻された。

 近くの天井が落ちてくると床へとぶつかる、その重みで崩れているのだ。


 亀裂が走って僕らの場所まで床が崩れてきた。

 足場が一気になくなって僕は空中に放り出される。


 あ、これ死ぬ奴だ。


 崩れていない場所にいたナイが僕の方へ文字通り飛んでくると、僕の体を掴んで放り投げた。



「ナイ!?」



 振り向くと親指を立てたナイが暗闇へと落ちていく、姿が小さくなっていって僕はナイの名前を叫んだ!



「ラック! 捕まれ!」



 ミリアさんも落ちそうになっていて、セシリアさんが両手でミリアさんの手を掴んでは踏ん張っている。

 そのセシリアを落ちない様にさらにリバーがセシリアさんの腰を掴んで踏ん張っていた。


 投げ出された僕はミリアさんの手をとるのに手を伸ばす。


 あと少しという所で手は空を切った。

 何かに捕まらないとと思ってミリアさんにしがみ付く。



「なっ!」



 頭の上からミリアさんの声が聞こえて、上を向くと何も見えない。

 いや、これミリアさんの胸だ。


 と、いう事は僕がしがみ付いているのは腰の部分で頭のいちにミリアさんのおへそがある感じになる。



「…………取り合えず離すなよ」

「は、はい。それよりもナイが……」

「いい方が悪いがラックの話を聞く限り刺されても死なないのだろ? 落ちる途中で横に飛んだのを見た、途中の階層で……あっ……ラック力をいれすぎるな!」



 入れすぎるなって。

 ちゅうぶらりんのミリアさんの腰部分にしがみ付く僕は必至だ。

 大人二人を必死に持ち上げようとしているセシリアさんも、くずれそうだから力だせないよー。と、悲鳴をあげている。



 僕の視界が頭二つ分下がった。



「ラック!」

「うえっ……」



 ミリアさんのズボンのベルトが切れ下がってきている。Tバックが見えて、うわあ……と思うと視界が少しかわった。


 ミリアさんが足を曲げて僕とズボンを落ちない様にしてくれたのだ。



「ラック。私の体を登れ、私一人ならセシリアも上げやすいはずだ」

「ミリアたいちょーはやく。はやく!」



 僕は必死にミリアさんの服を掴んで……そのまま落ちた。



「ラックーーーーーーーーー!」




 落ちながら右手を見る。



「あれ……」



 本来は上着をつかんでいたはずが、右手には間違えて掴んだTバックが握られているからだ。

 当然人一人何て支えられなく千切れたのだろう。



 あ、やっぱりこれ死ぬ奴だ。

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