070 グラタンもシチューも白米もパスタも好きです
近くの酒場でミリアさんと食事をする事になった。
ついでに二階にある宿もここで取ってしまおう。
「で、補助魔法が使えないってどういう事……」
「いやーなんといいますか」
怒られているようで言いにくい。
だって両腕組んで睨んでいるんだよ? 喋りたくても喋れないよ。
「先にミリアさんは、どうしてここに」
「どうしてって手紙に書いたけど……ああ、読む前だったという話だったね。
セシリアとナイと共にこっちに戻って来て、私はいは孤児院で働いているよ。ナイはセシリアに連れられて城に……」
「えっでもナイって魔もごおごもご!」
ミリアさんは僕の口を物理的にふさいだ。
「声が大きい。王都に魔族、しかも高魔族がいるとわかったら混乱のパニックになる。
もっともナイにいたってはセシリアと波長があったというか半分以上食べ物で釣った感じ……角無しの時は知能もあるしね。
というか……ラックが治療中の時に第七部隊の半数はナイが人間じゃないってのに気づいているし、今は亜人で通してる」
「はぁ……でもよかった」
「リバーもラックもいなくなり寂しがっていた」
そこで言葉を切られると僕が悪いみたいだ。
僕は悪くないはずで、あの場合どうしようもないし。
「でも誘拐されましたし」
「そうだな」
「そうだなって……怒ってます?」
「ぜんぜん」
怒っている時の声だ。
こういう時は静かに怒りが消えるのを待つしかない。
「まぁまぁミリア様。そう怒られてはラック様のラック様まで縮んでしまいます」
「………………いや、ラックのはそうそう縮まないんんじゃ……っ! そ、そういう話ではないな。
誘拐されるなら、誘拐されますって一言言ってから誘拐されてほしい。セシリアと一緒に城にいるから会うといいよ」
「たしかに……これは失言でした♪」
無茶苦茶な。
誘拐されるのが許可制は無理だよ。
あと、僕の僕ってリバーにもミリアさんにも見せた事が無い。
…………いやあった。
最初に温泉に入った時に僕の僕自身は見られた事があった。
でもリバーにはないよ!
そんな前の事をはっきり言うとか……――。
「――ミリアさんって思ったよりスケベなんですね」
「………………左腕だったら切り落としても生活できるだろうな」
ミリアさんの真面目なトーンに僕は腕を組んで少し逃げる。
「冗談だ。話が一切進まない、なんでラックは王都に? 私の手紙も読んでいる様子はないし、あそこは職人エリアだ。
武器を新調するなら、私の馴染みの職人が数人いるから口を聞こうか?」
ミリアさんのありがたい提案と共に料理も運ばれてきた。
乾燥した麺をお湯で戻し、ミルクとチーズ、肉の細切りなどで合えたパスタ。
トマトベースのスープや。野菜スティックなども、いわゆるオシャレ料理という奴だ。
それを食べながら僕はミリアさんに軽く頭を下げる。
「ナイの事ありがとうございます」
ナイは勝手について来たとはいえ最後までちゃんと面倒を見きれてなかった自分が恥ずかしい。
「本当はラックが謝る必要もない……か、彼女は勝手について来たんだし」
「まぁそれでも僕も帰れとか言えないですし、僕に興味があって来てくれたわけですし、ええっとですね、僕がいま王都にいるのは――」
並べられた料理が綺麗に無くなるころに僕の話は終わった。
ミリアさんの口数が少ない。
「もしかして、美味しくなかったですか? そのドリアっていうんでしたっけ。チーズの下にご飯が入っている料理。
僕も昔食べたんですけど、シチューにご飯をいれたよう感じで、口の中にシチューと粒粒の触感が広がって味は美味しいと思ったんですけど――」
「私の大好物だ!」
ミリアさんが声を大きくだして怒る。
「はい。ごめんなさい……いやあの、突然黙るので」
「――ラックの状況を考えていた。第八部隊の設立や遊撃隊の隊長、アスカルラの特務とか色々な役職を考えていたのに……魔食いの魔剣。その材料……となるとやっかいだな」
さらっと飛んでもない事を言っているけど、全部僕に未許可だよ。絶対にそんな役職にならないよ!?
リバーが耳元で僕にささやく。
「ラック様、どの役職ももてますよ? 同じ年齢ぐらいのお胸が大きい子がラックさま~ってラック様を毎晩取り合い。ラック様は寝ているだけでもいいのです」
「本当……?」
「ええ……本当です」
うわーうわーうわーうわー。
ちょっとだけ興味はある。
別に女性が嫌いとかではないし……苦手な部分は少しあるけど。
「ゴホン。本題にもどすぞ」
「あっはい……お願いします。材料は検討もつかないので錬金術師とかなら知っているのかな。明日には一応そっち方面を回ってみようかと」
ミリアさんが深いため息をだす。
「材料が取れる場所は知ってるし、そのアイテムも知っている」
「ほ、本当ですかっ! あっでも。危険そうなので街で買いますよ。白金貨10枚あればさすがに買えますよね?」
ミリアさんが考え込んだ。
ぶつぶつと、売っているものなのか? とか、確かにアイテムとしてありそうだし。とか呟いてる。
「これだけ大きな街なんですし」
「そうか………………そうだといいな。材料は魔食いの骨だ。正式名称までは知らない。青白い骨で触ると生命力を取られる。見つからなければ西地区の孤児院に私はいるから相談に来て。後、これお昼代」
さ。っとテーブルに金貨を置くとミリアさんは帰っていく。
男前である。
僕としては、男として友人としてミリアさんの分も出すつもりでいたのに。
「さすがミリアママ。ママっぷりが凄いですね」
「凄いほめ言葉……とりあえず今日はもう疲れたから休もう、ここの二階は宿らしいし。グィンの事を思うと休んでもいられないけど……流石に疲れたよ」
「わっかりました。リバー部屋を取ってきます」
リバーが席から離れるので、その手を掴む。
「おや? ラック様」
「個室2つにしてね」
「………………まぁいいでしょう。ラック様も男の人です、メイドに見られたくない事も、夜の日課とかありますもんね」
「そんな日課はない! あっ深い意味は全くないから」
とことこと宿の主人のほうに走っていくリバーを見送る。
そういえば町は違うけど僕が泊まっていた宿のおじさんは元気かなぁ。感情にひたる前にリバーがあっさりと戻ってくる。
リバーに悪いけど僕はもう疲れ切って倒れたい。
「と、言うわけなんだけど先に寝かせてもらうよ?」
「わっかりました、リバーは……」
「出来れば大人しくしていて……でも、僕はリバーに命令できるような立場でもないし……」
「ラック様一応命令できる立場ですよ?」
真顔でいわれてしまった。
仕組みはわかってる、僕専属のメイドだっていうわけだし、僕が望めば体でもなんでも許すのがリバーの立場。
「そうなんだけど……自由に過ごして危ない事に首を突っ込まないで」
「むふふ。リバー大事にされてますねぇー」
冗談じゃないんだけど。
「おや、わかってますよラック様。リバー自由行動させて頂きます♪」
絶対わかってないだろうな。と注意する暇もなくリバーは酒場から出ていった。
僕は日が落ちる前というのに宿に泊まりベッドに倒れ込んだ。
ベッドは少し臭いけど我慢はできる。
本当に疲れたんだよ…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます