069 あたしは間違った事言ってないよな? と自問するドラさん

 なんとか作ってくれる。という事で話がまとまった。

 まとまったのはいいけど、ドラさんは直ぐに動こうとしない。



「ええっと……作ってくれるんですよね?」

「ん? 作るさ。師匠より超えた魔剣! …………の偽物を……」



 でも椅子に座ったままだ。



「あの! で、出来れば早く作ってほしいなぁ……って」

「んあ? だから作るっていってるんだろっ! ああ……そうか。あんたらは素人だったな、アレ師匠の剣は魔剣と言われているけど神剣と変わらない。そんな武具を作るのに、今からカンカンと叩いて、はい出来ました。そんな簡単に作れる物じゃないよ」

「なるほど……あの。別にその見破られなければいいわけで」



 僕の返事に、ドラさんは片腕で髪をかきむしる。



「あたしは口下手なんだ……あーもう……まってな」



 ドラさんが席を立つと奥へと消えていく、階段を上る音も聞こえて来た。



「リバー、僕はドラさんを怒らせたかな? それだったら謝りたいけど」

「大丈夫と思いますよ。本気で怒っているなら殴ると思いますし」

「それなら、良くはないけどいいのかなぁ……」



 階段を降りる音が聞こえると、二つの槍を持って来た。

 どちらも同じ槍に見える。



「持ってみろ」

「はぁ……」



 僕はそっくりな槍を持ち比べてみる。

 重さが違う……、あと色もそっくりなんだけど片方が少し暗い色をしているのがわかる。



「同じ材料、同じ時間、同じ道具、同じ手順で、あたしと師匠が作った奴だ。似てるけど違うだろ?」

「そうですね……こっちのほうが軽く、こちらが重い。それと刃の部分がくすんでいるようにも見えます」

「すごいな……重さぐらいは素人にもわかるけど、そこまで。でもあんたが持っても分かるんだ。師匠の短剣を毎日眺めてる奴なら適当に作ったら即ばれるだろうよ」



 それは困る。

 後でばれるのはいいとして、交換して直ぐばれると犯人も僕らとわかってしまう。

 できれば交換して気づかないのが一番いいのだ。



「お返しします」

「これでわかったと思う、すぐに動かないのは身を清める日とかもあるからね。その間に材料をそろえて来て」

「はい、また後日きま……え? 材料って」

「………………これだから貴族様は。あたしら鍛冶師を魔法使いか何かに見るのはいいけど、こっちも材料が無いと作れる物も作れないよ」



 そりゃそうなのはわかる。

 よく冒険者だから薬草ぐらい持っているのは常識だしただで寄こせって言ってくる人もいるけど、それと同じだ。



「ドラさん!」

「何?」

「材料は一つもありません!」



 ドラさんが黙って僕を見つめると、横のリバーが『お茶とお茶菓子も出ないんですね。しょぼーん』と呟く声が逆にはっきりと聞こえる。



「お前、人に贋作を作ってくれってとんでもない依頼をしたうえに材料がない。とかよく言えるな……後、茶菓子なんてものは……師匠が保存していた奴がある待ってろ」



 ドラさんは棚から缶を取り出すとフタを開けてクッキーをだしてくれる。お茶の代わりに水を出してくれた。



「全部食べてくれ、あたしは甘い物より辛い物が好きなんだよ。

 で、何の話だったっけ、ああ材料だよ材料。

 前のは全部使って短剣1本しか作れなかったんだ、こっちには残ってないよ」



 あーえー……どうしよう。

 材料を持ってこい。と言われてもアテはない。

 今からでもこの話できるかなぁ……。


 となると、ジャックさんの短剣を壊す事が出来ないし土下座して譲ってもら……うん。無理だよね。

 力づくで奪う事も無理と思うし。


 このままではグィンが死んじゃうしサーリアが怒る。

 約束した以上なんとかはしたいけど、いっその事お墓を用意した方が早いかもしれない。冗談なんだけどサーリア怒るだろうなぁ。



「おーい。黒髪のどすけべ」

「えっ。僕の事?」

「それ以外に誰がいるんだよ……メイドから名前は聞いたが、あんたからは直接は聞いて無いからな」

「うあああ。ご、ごめんなさい。ラックです」

「ん。挨拶はちゃんとしたほうがいいよ。ラックちゃん」



 横に座ってクッキーを飲み込んだリバーが椅子から降りる。

 シュッシュッシュとファイティングポーズを決めだした。



「口の聞き方に注意した方がいいですよ♪ ラック様はA級冒険者なんですから」

「………………嘘でしょ?」

「リバー! は、はい嘘です。そんな実力もないです。本来はD級でカードのほうが間違いでA級と書いてるだけなんです」

「ラック様それじゃザック様がザコザコに負けたヨワヨワって事でいいんですよね?」



 え、いやそれは……。



「リバーそれはそのちがくて……偶然勝っただけで」

「悪いけど、グチグチあんたの言い訳を聞きたいんじゃなくて、こっちは仕事はするよって言ってるの、紹介状も貰ったし。

 材料だけもってきて、後…………あたしももう鍛冶師を辞めようと思っていたのは事実だし。

 材料が持ってこれない、やっぱり辞めたいけど言い出せない。ってなら1ヶ月はここにいるから。

 その間に持ってこなかったらこの話は無し。……よ。

 いつまでも女性の一人暮らしの部屋に貴族様……いや冒険者? ともかくいていい事じゃないから帰って」



 それもそうですね。とリバーが僕の手を引っ張って工房から出た。手を引かれたまま道にでる。

 通行人の何人かは僕らを見ては横を通って、背後ではガチャと鍵の閉まる音が聞こえた。



「えーっと……どうしよう」

「ラック様のお好きなように。とリバーは思います」



 思います。って言われても材料が何なのかもしらない。



「ラック?」

「えっはい」



 名前を呼ばれて振り返るとミリアさんが立っていた。



「ミリアさん!?」

「いつの間に来たんだ? 連絡ぐらいくれればいいのに、いや私はラックの事を素晴らしい友人と思っていたが、ラックにとっては私はどうでもいい存在だったのだな……連れ去れた場所に手紙を送ったが返事も無かったし。会いたくない人物に出会った顔だ。忘れてくれ、私も忘れる」



 一方的に言うとミリアさんは去っていこうとする。

 僕は慌てて追いかけてその手を引っ張った。



「まって。待ってください! 多分誤解があると思うんです。手紙まだ見てませんし」

「今さら言い訳しなくても大丈夫だ」

「だから待ってくださいってっ!」



 ミリアさんの力が強いので、腰にしがみ付くしかなくなる。

 堅い腹筋を腕で押さえて、それでもミリアさんは歩こうとする。



「ラ、ラックまて! 離してっ」

「離しません!」

「わ、わかったから。その私でも公共の場では羞恥心ってのがあってだな」

「僕だってあります!」



 ミリアさんが僕の腕を剥がそうとするので、思いっきり引っ張った。



「ラック様、ミリアさんはTバックです!」

「え、本当!?」



 思わず力が抜け前を見る。

 ズボンが半分ほど脱がされて、大きなおしりとTバックのが見えた。もう殆どゼロ距離だ。


 ミリアさんの動きが止まった。



「ミリアさんって凄いの履いているんですね……」

「………………足は完治はしてないがな」

「うあああああああ」



 僕の体がミリアさんの腕一本で持ち上げられた。

 視線が高くなり足も浮いた状態で怖い。

 それよりも怖いのは、ミリアさんが笑顔な事だ。



「上半身はこの通り元気なのよ。ラック補助魔法をかけておけ。全力でお前を投げ飛ばす」

「ふえ! うああああああ」



 ミリアさんが僕をぐいんぐいんと回転させていく視界が回るしこの状態で補助魔法も何もない! ってか1回分しかかけれないのに無事でいられそうにない!




「ミリア様。ラック様はいま魔法使えませんよ?」

「な……に……?」



 回転を止めてくれて僕は地面に尻餅をつく。

 周りが回っていて僕も回っている、止まっているんだけど回っているのだ。

 

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