060 小僧、強すぎるじゃねえか。
僕はよくわからないけど、試合ではこういう事がよくあるらしく、ミリアさんがポーションを持ってきてくれた。
「……りがとう……ます」
「無理に喋るな。と、いうかラック。補助魔法は使ってないのか? 補助魔法も無しで戦うとはよっぽど死にたいらしいな、ゾルドンの得意はその両手剣。相手の間合いすら入らせない――」
うわ。ミリアさんがお説教モードに移動した。こうなると中々話が終わらない。
僕だって忘れていただけだし、その代償がこの痛みなんだけど。ミリアさんは判ってくれてない。
「――聞いているのか?」
「……いた……みで……」
「さっさとポーションを飲め。ジャックのほうは私は手合わせをした事は無いが、小剣をさらに小さくしたナイフが得意でな。その先には――――」
僕はポーションを飲んだ。
のど越しは痛く、血の味もしたけど体の痛みはかなり治まっていた。
後は補助魔法なんだけど……。
ミリアさんの熱弁が止まらない。
「あ、あのっ!」
「なんだ? 弱点を教えて欲しいのか? 済まないがそれは流石に教えられない。試合はあくまで公平に行うべきだからな。で、だ――」
公平も何も、2対1の時点で公平差もないよね? じゃなくて。
早くフィールドから出て行ってほしんだけど……。
ピピー!
ピッピッピー!!
笛の音が聞こえた。
僕の事をかわいそうに見てくれた審判だ。
「衛生係は速やかに移動してください」
事務的な声が響くと、ミリアさんは、小さい声でもう少しいいだろうに。と文句を言う。
「ラック。勝て!」
「………………善処します。所で、僕が思うに勝つ事だけがすべてじゃないとおもうんですけど」
「…………いいから、勝て! そもそもラックには向上心が無さ過ぎる――」
ミリアさんのお説教がはじまると、笛がもう一度なった。
言い足り無さそうなミリアさんがフィールドから出ていく。
やっと離れてくれた。
オールマナアップ。胸の部分を触って同じ補助魔法を何度か呟く。
体の芯が熱く心臓も早く動いているのがわかる。
少しだけ周りの動きがゆっくりに見えて来た。
真ん中に戻ると、先ほど僕を弱い。といっていたゾルドンさんが目を見開き笑い出した。
「小僧……隠し玉をもっていたようだなっ! 面白い、スタン第二王子が目をかけるだけある」
「…………卑怯者があああ!」
そ、そんな怒らなくても。
ジャックさんの代わり様に驚いたのか、審判役の若い兵士さんがすぐにスタートを切って離れた。
ゾルドンさんのほうをみると、先ほどと違って襲って来ない。その代わりにジャックさんが迫って来た。
早いけど、かわせる。
ジャックさんは二つの短剣を逆手に持つと僕を斬り付けようしてきた。短剣の先に液体がみえた。
多分。やばい。
ミリアさんがさっき何か短剣の先になんちゃらかんちゃら言っていたような、毒かもしれない。
ジャックさんの両腕を掴む。
思ったよりも力が強いけど、何とか抑え込めるぐらいだ。
後は……。
僕はひたすら回る。
「は、はなせええガキ目えええ!」
「離しません!」
子供のおもちゃでコマっていう物がある。
僕はそれをイメージしてひたすら回るのだ。
周りの景色が変わっていく、ジャックさんと見つめある感じになって、ジャックさんの体が浮き上がる。
「うああああああああ」
「あっ離します」
僕が手を離すと、ジャックさんが物凄いスピードで場外のほうへ飛んでいく。
フィールドの周りにいた兵士がその飛んでいるジャックさんの前に飛び出した。
「え?」
ぶつかった兵士は、フィールド外で他の兵士に支えられている。
一方ぶつかったほうのジャックさんはフィールドに戻って来たけど、体がピクピクして動いていない。
『――場外に簡単には出しませんよ、審判はあなたが外に出ようとすると中に戻すようにしてますからね』
ジャックさんの先ほどの言葉が思い出した。
もしかしてこれ?
場外勝負が無いって事なのかな。
「よそ見とはぁ余裕だなああ!」
っ!
現実にもどされる。
目の前に赤い塊が見えると、次にゾルドンさんの笑みが見えた。
「冗談だよねっ!」
思いっきり剣が抜かれており、その刃先が僕のほうへ向いているからだ。
まともに食らったら死ぬ。
反射的に剣をぬいており、十字に構えてその巨大な剣を受け止めた。
重い重い重い重い!
重い!!
力を抜いたら吹っ飛ばされそうだ。
グィンだって手加減してくれるっていうのに、これじゃ……あっそうか。
力を抜いてワザとに吹っ飛ばされた。
後ろに飛ぶと、ゾルドンさんが笑いながら突進してくる。
嘘でしょ!?
着地した瞬間に吹き飛ばされるよ。
胸に手をあてて、補助魔法を唱える。
「マナオールアップ!!」
視界が一瞬赤くなる。
息が苦しい。
手足の動きが思ったよりも遅く感じる。
でも。
突進してくるゾルドンさんの動きがゆっくりだ。着地した所で僕は剣から手を放した。
すぐに腰を落とす。
迫ってくるゾルドンさんのお腹目掛けて渾身のパンチをあてる。
体中がバラバラになるんじゃ。というぐらいに衝撃が襲ってきて踏ん張っても足がめり込む。
でも僕は倒れない様にすると、周りの音が戻ってくる。
「てめええ……小僧。強すぎるじゃねえか」
ゾルドンさんの声が聞こえると顔から血を吐き出した。その血が僕の顔にとびかかる。
僕も口から血を吐き出した。
補助魔法の副作用がきた……痛い。痛い。
ゾルドンさんは両手剣から手を離した。
これで僕の勝ちになるだろう……。
「殴り合いじゃあああああ!」
「………………え?」
僕の視界が一瞬できりかわった。右を向いていて、リバーとナイが応援してる姿が見えた。
次に左に顔が強制的にむかされた。なぐられたのだ。
スタン第二王子がガッツボーズをしているのが見えた。なんで?
「小僧おおお、殴り返してこいいいい! 漢の体力勝負だあああ!」
正直ダウンしたいけど。
さすがにここまで言われて付き合わないのも悪い気がする。
一番の理由は恨まれたくないし。
「アームマナアップ!」
叫ぶと、ゾルドンさんの動きが一瞬とまった。僕はその顔を目掛けてなぐる。
直ぐにお腹に衝撃がきた。
構わず左腕で殴る。
ゾルドンさんも僕を殴って来た。
数回殴りあいしていると、突然に世界が斬れた感じがした。
僕一人を置いて全部消えるような感覚だ。
「小僧おおおおおお! ジャックお前ええ!」
「よ、よそ見してるほうが……あれ、なんなんですがこの空気。勝ったんですよ……?」
僕の腰には青白い刃の短剣が刺さっている。
全ての力が抜けていきそうな間隔で手で触ると手も石のようになる。
痛みも何もかも吸われていく。
「ラック君!」
声とともにスタン第二王子が僕の横に来ていた、手には黒い手袋をしていて、僕が抜けなかった短剣を引き抜いていく。
あっさり抜けると、それを地面へと投げ捨てた。
「その短剣には全員触るな! 命令だ!」
「スタン第二王子……なぜ、そのような顔を……このジャックは勝ったんですよ。第二王子がくれたこの短剣でっ!」
「それは……」
笑っていなく言いよどむスタン第二王子、それと泣きそうな顔のジャックさんの顔が見えるも、僕の意識はもう保ってられなかった。
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