059 弱い弱すぎるぞ小僧!
いつかの日みたく、僕は外で木製の椅子に座らせられている。
隣にはリバーとナイ。
ミリアさんを探すとスタン第二王子と遠くで話していて近くにはいない。
で、僕らを囲むように兵士達がいる。
度々、ハーレムかよ。とか、きっと夜のほうが凄いに違いない。など聞こえてくる。
まったくもってそれはない。
「パパ。パパが嫌だったらナイが出る? 人間に何て負けない」
「流石にそれは……それに人間は、僕がいうものなんだけどナイにはあまり戦ってほしくないかな。もちろんお願いだし、危険がせまったら戦って欲しいけど。今は僕がターゲットだからね」
「ラック様お優しいです♪ では代わりにリバーが、別荘から持って来たこの爆弾を使えば」
「使わないで……」
リバーは、使わないんですか? といって筒状の物をスカートの中に隠した。
一体どこに入っているんだ。
「一応は僕が戦うよ。…………それよりもリバー」
「はいなんでしょう?」
「ザックさんの弟さんって知ってるの?」
「えっまっまぁ……知らないわけじゃないですねぇ。といってもお姉ちゃんのほうが詳しいです! ど、どうしてですか?」
「いや、ザックさんの弟ってどんな人かなぁって仲良くなれたらいいなって思って」
あれ?
変な事言ったつもりは無いんだけど、リバーが何も喋らなくなった。
「おやさしい」
「そ、そうかな?」
横を向いていたら僕に影がかかった。
前を向くと銀色の鎧が眩しい、顔をみたらジャックさんだ。
「さてさて、殿下のお気に入りの化けの皮を剥がさせてもらいましょう」
「えっ。あっはい……そうですね」
「…………」
黙ってにらんでくる。
思わず変に返事をしたけど、この人がなんでこんなに怒っているのかわからない。
それと、さっきと態度が違うんだけど、さっきはまだもう少し丁寧だった。
化けの皮もなにも別に僕は着てるわけじゃないし。
最初から力なんて無いよ。って言っているのにもかかわらず、連れて行かれそうなんだよ。
ミリアさんでさえあの強さだよ。
怪我をしてない隊長クラスの人に最初から勝てないって思っているし、でも出ないと見た事もないザックさんの弟さんが殺されるって聞いて出るだけだし。
「たちなさい」
「はいっ痛っ!」
「おや、どうなされました……椅子の足の下に挟みましたか。まぬけですな」
「す、すみません」
ジャックさんは僕に軽蔑っぽい目を向けると先に歩き出す。
「ラック様! あの男。ラック様の足をコツンって挟んだんですよ! エリクサー飲みましょう! エリクサー!」
「そ、そうなの? そういえば足先があたったような……痛い。痛いよリバー」
「パパ口を開けてください押さえます」
「違う。違うから……」
痛いのはリバーがエリクサーのビンを押し付けて来てるのが痛いのであって足はもう別に痛くない。
後、エリクサーは冒険者ギルドでも取引が限定されているアイテム、ミリアさんが寝込んだ時も思ったけど、リバー。君はいったいどこからそれを……。
「はっはっは。楽しそうだね」
「スタンさん……スタン第二王子!」
思わず素で軽く話しかけてしまった。
スタン第二王子は僕を見て、目をぱちくりしはじめた。
「ふ。やっぱり君は面白い。色々国のほうで立て込んできてね。ボルクなんて既に国に帰った。
悪いがさくっといかせてもらうよ? ルールは死んだら負け。さていこうか」
単純なルールだ。
うん、死んだら負け。
「ちょ! 王子!」
スタン第二王子は声が聞こえているのに僕に背を向けて歩き出す。
「スタン第二王子!」
「ああ、なんだこちらを呼んでいたのか、てっきり、ここにいないルーカル兄さんを呼んでいるのかと……で、なんだい?」
そんなわけはないし、後まっすぐにみられると、何もかも飲まれそうで言いたい言葉が消えていく。
頭を振って前に一歩歩く。
「死んだらって……僕は死ぬつもりはないですけど、殺すつもりも無いです。あの……もう少し簡単に試合を」
終わるルールが欲しいです。
「いやかい? 簡単なルールでゾルドンもジャックも承諾したんだけどねぇ。それに、君を見つけて来たミリアも、ラックがそれでいいならそれで。と」
ミリアさん……。
あっでも、という事は。
「僕は嫌です」
きっとミリアさんは僕の事を思って口を出さなかったに違いない。ちらっとみると、ミリアさんの唇がちょっとだけ吊り上がった。笑ってるようだ。
「仕方がない……少し緩くなるが死んだら負け。というのは変わらず場外制をつけよう。それであればいいだろ? 相手をフィールドから出せばいいんだ。どっちにしろ君は死なないだろうし……」
どういう意味だろう、僕だって剣で斬られたら死ぬよ。
でもまぁそれなら、最悪僕が外にでればいい。
頷くとスタン第二王子はゾルドンさんとジャックさんのほうへ歩いていく。
すぐに他の兵士が僕達が戦うフィールド。地面に剣をさして四角い線を引いていった。
広さは端から端までは約50歩ほど、中々の広さだ。それを囲むように兵士が12人、審判役だ。
中央に呼ばれ立つと逃げ出したいなぁ。という気持ちが大きくなってくる。
ゾルドンさんとジャックさんが立っていて若い兵士がお互いに握手を。と言って来た。
僕が手を差し出すと、ゾルドンさんは握手をしてくれたゴツゴツの手で僕の手が潰れそう。
「小僧お前が本当に強いのか楽しみだぁ」
「あの、手が痛いです」
「ふん」
手を放してくれてジャックさんへと差し出す。
差し出す。
あの、差し出しました。
でもジャックさんは握手をしてくれない。
「ジャック……お前、小僧が握手の手を出してるぞ」
「ゾルドン。握手は相手を称えてする騎士同士の練習試合の決まり。得たいの知れない相手にするような気まりはないです」
「ま、まぁそうだがよぅ」
若い兵士の顔を見ると、やっぱり困ってる。
だよね。
僕は静かに頷くと、若い兵士も申し訳なさそうに頷いてくれた。
「で、では試合を開始します。自分がフィールドから離れたらです。お互いに離れてください」
僕は真ん中から後ろに下がる。
えっと、どっちから試合をするんだろう……連続でするだろうから、なるべく二試合目の終わりで負けたい。
…………違う! そもそもそれが僕のだめな所だ。勝てる保証なんて無いんだし、剣をぶつけ合ってフィールドから出よう。
先ほどの若い兵士さんがフィールドから出る。でも、20歩ほど先には二人が武器を構えて立っていた。
「え、いや! 二人!?」
驚くとゾルドンさんの巨漢が目の前にいて、胸に衝撃が来た。全身あちこちぶつけて青空を見上げる。
げふ!
ごあっ…………!
「弱い……」
口の中に血や土の味がして倒れている僕の前にジャックさんが立っているのが、ようやく理解できた。
そのまま僕を踏みつけてくる。
「ぐああっ! あ、あしを」
「退けて欲しいのですか? にしても弱い……なぜスタン様がこのようなゴミを……場外に簡単には出しませんよ、審判はあなたが外に出ようとすると中に戻すようにしてますからね。っと筋肉馬鹿が来たようで」
ジャックさんが足を退けると、やっと息が出来た。
次にゾルドンさんが僕の前に立つ。
ジャックさんは中央に戻っていった。
「小僧……弱すぎるぞ」
「す、すみません……げふ」
「ち。本来は追撃する所なんだが……ちっくしょう。折角強い奴と……いや」
ゾルドンさんが小声になった。
手には大きな両手剣を持っているのを今気づいた。あれの背で吹き飛ばされたのかもしれない。
「この俺が小僧、お前をもう数回吹き飛ばす。そのまま場外へとばしてやる、どうもジャックの奴は小僧に敵意をむき出しすぎる。大方、スタンと親し気なお前が嫌いなんだろうな」
ゾルドンさんもフィールドの真ん中に戻ってくれた。
ポーションぐらいもってるんだろ? といって休憩をさせてくれたのだ。
先ほどの試合前の熱狂した空気が薄れているのがわかる。
「ラック様あああああ! 金貨かけてるんですから! 勝ってくださいい! あとラック様が負けるとリバーとナイはスタン第二王子様にピーピーやピーをくわえたり。ピーをされるんですうう!」
「パパ、ナイは兵士さんの相手をします」
リバーのまぬけで、とんでもない声援に思わず吹き出す。
いつの間にか作った応援旗で僕を応援しているからだ。
慌ててスタン第二王子を探すと、椅子から落ちて尻餅をついており、全力で首を横に振っている。
いや、そうだよね。
リバーが僕に勝たせるための声援だ。
でも、スタン第二王子は立ち上がって周りのざわめきを手で制した。そして僕を見てくる。
なんとかしろと。
緊張が解けた。
うん、さすがにちょっとは善戦したいかな……それに、補助魔法かけてないから吹っ飛んだんだし。わかったよ……。
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