058 とても怖い提案です

 馬車から出ると宿場の入り口だった。

 比較的大きな宿場で、いろんな兵士が僕らを見ては何かをささやいている。


 やだなー変な目で見られるこの感じ。


 少し先にスタン第二王子が、ええっと宰相だっけかな? お爺さんと色々話し込んでいる。

 僕を見かけると大きく手をあげて来た。


 これは走っていったほうが良いよね? 隣のリバーの顔を見る。



「呼んでるようですね?」

「ちょっと急ごう」

「王子を待たせるラック様素敵です♪」



 待たせたらだめだからね? 周りの視線がちょっと怖いし。

 小走りに行くと、息が切れた。

 その背中をリバーがぴょんぴょうとさすってくれる。



「あははは、可愛いメイドさんだね。所で……」

「ぜえはぁ、お、お待たせしました」



 なんだろう。



「秘め事はもういいのかい? 案外早いんだね」

「秘め事……?」

「先ほどユーリー副隊長から、君が馬車の中でよからぬ事をしてるから、迎えに行かないで下さい。って言われてね」

「ち。違いますから!」



  スタン第二王子はそうかい? というと、笑顔で笑いかける。その横で銀色の鎧を着た人と、赤い鎧を着た人が笑っていないのが逆に怖い。


 後ろでリバーがシュッシュッシュとファイティングポーズをしだす。やめて……。



「君の所の可愛いメイドさんは僕を恐れないのかい?」

「リバーはラック様のメイドで、誰であろうと命令を受けるのはラック様ですので」

「ふむふむ。ではラック君がこちらに従え? と言ったらどうするんだい?」

「別にどうにもしませんよ? お姉ちゃんからも新の主人を見つけたら絶対に仕える事。って言われてますし。それにラック様はリバーを捨てないって言ってくれましたので」



 はっきりと褒められると照れる。

 うん。捨てないよ。

 リバーが何を思っているかはわからないが、僕はザック様と違って人は人って考えちゃう。

 だから物みたいに上げたり貰ったり、壊したりって言うのが想像できない一般庶民だ。



「ありがとう、とても良い意見を聞けたよ。ゾルドンにジャック、これがラック君だよ」



 赤の鎧を着た男性と、銀色の鎧を着た男性が渋い顔をして、頷きも否定もしない。



「第二部隊ゾルドンだ!」

「第六部隊のジャックと申します」

「ど、どうもラックです」



 僕が握手のために手を差し出すと、二人とも握手をしてくれない。

 暫く手を出していたらリバーが握手をしてくれた。

 恥ずかしい。



「はっはっは。で……どうもこの二人が君を迎えに来たのに文句を言ってきてね」

「騎士団がいるのにこのような女好きな男を城によぶとは納得がいかねえって言っているんだ」

「そうですよスタン第二王子。文句は言っていません、このような細身の人間が強いなど信じられない。と言っているのです。

 聞けば補助魔法士。というクラスはとの事、一度本当に強いが試したい。といっているんですよ」



 スタン第二王子は、僕を見て困ったねぇ。と笑いかけてくる。


 困っているのは僕の方だ。



「聞けば、この補助魔法士は竜をも倒す強さ。と聞いています」

「だったらだ! この俺達と簡単な力比べをしてくれればいいだけって事だな」



 二人は僕を囲むように並んでにらんでくる。



「こまったねぇ。



 スタン第二王子が僕を見て笑顔で問いかけてきた。



「そ、そうなんです!」

「では、お前は弱いのか?」



 赤色の鎧の人が威圧してくる。



「はい、よわ――」

「ふん。ラック様が本気をだせばけっちょんけっちょんですよ? 命拾いしましたね♪」

「リバー!?」



 僕は慌ててリバーの口をふさぐが赤色の鎧を着た……。



「ええっと……ゾッコンさん」

「ゾルドンだ!」

「ご、ごめんなさい!」



 第二王子の横にいた銀色の鎧を着たジャックさんが小さく笑っている。



「自分の名前は憶えてもらっていますかな?」

「ジャックさんですよね?」

「そうです。ミリア元隊長にも話を伺った所、本気になればミリア元隊長すら勝てないだろう。と話は聞いています。そんな事は無いと思っているのですが……手合わせを」

「小僧! 先に俺と戦え!」



 ええ。

 ど、どうしよう。



「あの……その……戦いはしたくないんですけど」

「くっくっくこの二人に詰められて断れる。中々に勇気があるね。こちらとしても結果が見えている試合は興味ないんだけどねぇ」




 スタン第二王子は笑いながらも試合はしたくない。と言ってくれている。

 そりゃそうだよ。僕が負けるだけの試合なんだし、痛い思いはしたくない。



「おい、スタン王子よう、そりゃねえぜ」

「スタン第二王子!」

「ゾルドン。第二をつけてくれよ? ジャックも不服かぁ……でもラック君は試合はしたく無いんだろ? 強制は



 僕は全力で首を縦に振る。


 右となりで切れのいいパンチやキックをするのは辞めて。

 あと下着が見えそうで、そっちの方に野次馬が若干より始めてるから。

 それを先ほどの第七部隊の副隊長のユーリーさんが散らしているのが見えた。


 何か色々ごめん。



「わかった」



 スタン第二王子が、やっとわかってくれたようだ。



「やる気を出させよう。ラック君、君が試合をしないと君の親友であるザック・グリファンの弟を処刑しよう」

「え?」

「スタン! 第二王子」

「スタン第二王子……その話は?」



 僕としても突然の話で追いつかない。

 隣で演舞をしていたリバーの動きが止まった。あっそうかリバーはザックさんの弟を知っているのか。



「リバー、ザックさんの弟って?」



 小声で聞いてみる。

 リバーにしては口を開けては閉じ、中々言い出さないでいた。




「おや? その様子では知らなかったのか。まぁそれも面白いか……簡単にいうとグリファン家の末っ子がちょっとした悪事をしてね。別件であれ居場所を把握してるんだ。

 一応こちらで手を打ってもみ消しているが……どうだろう? を助けたいともおもわないかい?」




 彼ら?

 複数人いるって事なのかな。



「まぁラック君が断っても気に病む事は無い。悪い事をした人間が裁かれるだけだからね。でもグリファン家……おっと」

「脅しで……す……か?」

「とんでもない」



 スタン第二王子は笑っているけど、それまで僕に戦えと言って来た二人も、ちょっとバツが悪そうな顔で無言になった。



 うん。これは脅しじゃない。

 やると決めたらやる人だ……。



「あの戦うだけでいいんですよね?」

「もちろん。よかったなゾルドンにジャック、ラック君は申し出を受け入れてくれたよ」



 笑顔のスタン第二王子と何とも言えない顔の二人が僕を見ていた。

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