057 監視! 監視! 監視! されてるような気がするのは間違いなんだろうか?
どうしてこうなっているんだろう。
王都までの馬車の旅。
それなのに、僕だけ特別に豪華な扉付きの馬車に入れられて、左右は騎士団が護衛している。
そしてその真向かいに座るのはスタン第二王子だ。
喉が渇く。
思わず喉に手をあげると、スタン王子が御者のほうへ小さく声をかけているのが見えた。
やっば!
すぐに馬車の動きが止まると、扉が開く。
筋骨たくましい赤い鎧をつけた男性が、僕にストローのついた果物を差し出してくる。
しかも無言だよ。
「あ、ありがとうございます……」
扉が勢いよく閉められた。
「馬車の中は喉が渇くからね、好きなだけ飲むといい。おや、先ほどのお菓子もまだ残っているようだ。
味が受け付けなかったのなら、捨てて新しいのを取り寄せよう」
「だ、大丈夫です! 美味しいです! 美味しいですから!!」
中間にあるテーブルには美味しそうなお菓子があるけど、緊張で味なんてわからない。
でも食べる。
「はっはっは。そんなにお腹が減っていたのか……これは失礼した。次の宿場で何か取り寄せよう」
「ほんっとに大丈夫ですから!」
「そうかい? 君何だろ? 辺境の竜を倒した人間って」
スタン第二王子は短剣を磨きながら僕に問いかけて来た。
あまりにも自然に言うので思わず返事をしそうになる。
思わず前を向くと、にこりとも笑っていない。
事前に他の仲間と相談した結果、やっぱり竜の爪を取ったのは内緒にしておいたほうが良いだろう。という事に口合わせをしている。
ここで僕が喋ったら他の仲間にも迷惑がかかるのだ。
「あーー! ええっとどこかの冒険者が出土したって奴ですよね? 全然知りません!」
「そうかい? 不自然な冒険者ランクの上昇、グリファン家から出てくる冒険者、金銭面で苦しいはずのグリファン家から突如出て来た爪。うーん……総合的に見ても君達なんだけどなぁ……」
「ぜんっぜん違います!!」
もう一度強調する。
今すぐにでも馬車を飛び出して走り出したい。
スタン第二王子が真顔から笑みに切り替わる。
怖い。
「あの!」
「なんだい?」
「僕は冤罪が解けると聞いて……」
「ふむ……いや。竜の爪。それを取った冒険者を探していて、何が何でもあってみたい。って連絡を冒険者ギルドに入れただけなんだけどね? 何かの手違いで、全く関係ないという君が捕まり、脱走した所までしか話は聞いて無いかな」
やばい。
何か墓穴を掘ったような気がする。
「まったくもってその通りです! で、でもその、それであればこんなに沢山の人に出迎えてもらうのは変というか」
「ああ。それの事か、補助魔法士という特殊で貴重なクラスを迎え入れるんだ、さっきも言ったような気がするけど本当は第七部隊の数人とくるはずだったんだけどねぇ……」
こまったものだよ。と笑ってくるけど。
何となく笑えない。
何度も思うけど僕は一般人の冒険者。第二王子と一緒の馬車で笑顔で談笑できるような人間じゃない。
変な話。
気が変わったから死刑にするよ。と笑顔で言われたら、そうできる人と一緒なんだよ? 何でこんな時にミリアさんは別の馬車なんだ。
恨む。
恨むよ!
「あの、もう一つ……」
「なんだい?」
「僕に何か用なんでしょうか?」
「流石はA級冒険者だ、話が早い……いや。今はまだ言わないでおこう、悪いようにはしないから安心して欲しい。欲しい物はあるかい? 何でも取り寄せよう」
頷きたいけど頷けない。
なんだったら逃げたい。
「あれ。もしかして、こちらと一緒なのが嫌なのかい?」
「ぜんっぜん大丈夫です」
スタン第二王子は、すぐに笑顔になった。
その笑顔が作り物に見えてかなり怖い。その……僕も同じなんだけど人間そう永遠には笑えない。
笑うふりは出来ても笑い続ける事は不可能なんだよ。
でも、スタン第二王子はほぼずーっと笑顔だ。それがとても怖く見えてくる。
移動中の馬車がノックされる。
「なんだい?」
銀色の鎧をきた細身の男性が馬車の中をぐるりと見渡す。
僕を一度にらむと、スタン第二王子に敬礼をした。
ミリアさんの話では第六部隊の隊長らしいけど、名前は聞きそびれた。
「少々問題事がおきまして……」
「君がそんな顔をするだなんて珍しいな。王でも死んだかい?」
「なっ…………」
隊長らしき人が絶句する。
並走している馬の足音だけが僕の耳に入ってくる。
「冗談だよ。さて……何か込み入った話のようだ。寂しいが僕はちょっと離れて話を聞いてこよう。
もう少ししたら宿場につくはずだ、この辺はサラマンダーの煮卵が美味しいという話でね、ぜひ堪能してくれたまえ」
何もしゃべらない銀色の鎧を着た隊長の後ろに、簡単に飛び乗った。凄いな……走っている馬車から走っている馬へと飛び乗れるだなんて……。
馬車の扉が閉められると凄いほっとした。
緊張の糸が切れたようで疲労感がすごい、最近では魔法を連続で使ってもこれほどの疲れはないだろうに。
「あーー……マナアップって疲労にも聞くのかな……試しておけばよかったな……」
眠い。
もしかしたらこのお菓子に催眠薬でも入っていたのでは? と言うぐらいに眠い。
「寝ちゃだめだ……無礼だし……」
こういう時は何かを考えよう。
なんでも欲しい物をくれるって、僕に出来る事は補助魔法ぐらいだし、肩こりや腰痛でも直して欲しいのかなぁ。
それで言えば、あまり大きな要求は出来ない。
土地が欲しいなぁ。
あと家。
思わず自分でも笑ってしまう。
補助魔法かけただけで、土地や家なんてもらえるわけがない。
もう少しランクを下げると欲しいものはなんだろう。
恋人……。
うん、欲しいけど貰う物じゃないよね? 人だし。
べっつに、女性が欲しいってわけじゃないんだけど……僕の周りに綺麗な人や可愛い子が沢山いるんだけど癒しがない。
一緒に寝てくれるような同世代の女性の方が好きだし。
思わず守ってあげたくなるような感じの。
うん。
僕の周りにはいない。
激しく悲しくなった。
そういえば、王都についたらサーリアが手紙出してくれっていっていたっけ? なんだろう。
もしかして生活が苦しいのかな……グィンの事だから結構稼ぐと思うんだけど。
少しぐらいなら僕も助けられる。
革袋にはまだ白金貨もあるし、結局辺境の家はどうなったのかわからない。
自分の家を買うよりはサーリアを助けた方がいいし。
僕はいらないけど、そのお礼が体だったらどうしよう。
サーリアにはグィンがいるのに、融資したらラック、お礼よ。っていや流石にサーリアはそんな事しない! しないに決まっている! もし来た所で……ああ、妄想の中でサーリアがそっぽを向いた。
ちがうよ。
そんな事考えないし。
「――誤解だって!」
「ラック様? 1階しかみえませんけど?」
「え? あれ? リバー……?」
「はいリバーです。ぐっすり寝ていらしたのですが宿場に着きましたので、あの建物はどう見ても一階ですけど……わっかりました。リバー、ラック様は5階以上の建物しか望まない! と伝えてきます♪」
「まったまったまった!」
「はい、リバー待ちます!」
なんだろう。
言うか言わないべきか、いや、やっぱりいおう。
「リバー最近何か悪意無い?」
「そんな……ラック様には何も無いです……しょぼーん」
「ち、違うんだ。あの、泣かないでね」
「じゃぁぎゅっとしてください――――」
「まぁそれぐらいなら」
とりあえず起こしに来てくれたリバーをぎゅっと抱きしめる。
馬車の扉が開く。
「ラックさん、まだ寝ているのかな? 紹介が遅れたね、第七部隊の副隊長ユーリーと…………」
「うっわ。ゆーちゃん! みてみて! 抱きついてる。抱きついてるよ! 子作りってもごごごご!?」
「我々は何も見なかった。暫く誰も来ない様に手配しておくから、その用が終わったら宿に来てください」
馬車の扉が閉まった。
僕の人生も一緒に閉まりたい。
「リバー……脱がなくていいから……」
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