056 その男、行動力の塊であり。
朝早くからリバーの別荘を出事になった。
欠伸をかみ殺して、青空をみた。
日の光が眩しい……昨夜は一人で入浴した。当然と言えば当然なんだけど、皆からの目が温かく、思わず逃げ出しそうになってしまったのは胸の中に閉まっておくよ。
僕だって男だよ! こう女性ばっかりの場所にいると生活がちょっとしにくい時だってあるし……。
眼鏡をかけなおし荷物の確認。
僕の持ち物は白金貨、金貨、銀貨が入った革袋に腰の両方に剣。本音を言えば捨てたいぐらいに重いけど、流石に捨てたら不味いと思ってすててはいない。
売る事も出来ないし……剣は1本でいいよ……。
「これぐらいかな……」
「リバー様忘れ物はないですか?」
「僕は無いと思う、ミリアさんやナイは?」
僕の問いに二人とも首を振る。
「では、封印しまーす♪」
開けた時と同じようにリバーはナイフで手の平を斬る。痛々しくて思わず目を背けると、すぐにポーションを飲んで残ったのを傷にかけている。
「お待たせしました行きましょう」
「そうだね……降りようか」
「パパについていきます」
禿山を淡々と下る。ミリアさんが先頭で僕がその横。
リバーとナイは少し後ろだ。
なんでもミリアさんの旧友が待っているらしく僕らはその馬車に乗るだけで、王都いきだ。
そもそも何の手違いで僕が捕まるようになったのか、ザックさん達が事を大きくしてるようなきもしないでもない。
潔白なんだから、素直に王都にいけばよかった……。
馬車の旅か、なんて楽な旅なんだろう……って。
なんだろ……僕は足を止めた。
隣にいたミリアさんも足を止める。
突然止まった者だから背中にリバーがぶつかった。
「あっごめん」
「ぶえ、大丈夫です、リバーは先輩なのでラック様も気にせずに」
「リバー先輩。血が出てますよ、これを使ってください。それよりパパどうしたんです?」
「いやぁ……あれ」
少し先の下山予定地に馬車が止まっている。
うん。その馬車が一台だけならまだいいんだ。
8台ほど馬車が止まっていて、周りには色がついた鎧を着た兵士が沢山。
もうこれから戦争でもはじめるの? ってぐらいにいる。
「ミリア様凄いですね。あれ全部友人ですか?」
「なわけないだろう……赤色の鎧は第二部隊だな。となりの銀色は第六部隊だ。あっちの端にいる統一性もない兵士達が第七部隊だ…………」
「はぁ……で、あれ……? 誰か馬で走ってきますけど」
金髪の人間が黒い馬に乗って走ってくる。その後ろから老人が追いかけているように見えた。
「なっ……ラック頭を下げろ」
「え? なんで」
「スタン第二王子だ!」
第二王子と言われても僕にはピンとこないが、偉い人なのは流石にわかる。
「リバー、ナイ顔を伏せていた方がいいかも……すっごい嫌な予感がする」
「ラック様は基本何もしたくない人ですもんね」
うん。
そうこう言っているうちに馬が僕らの近くにくる。慌てて膝をついて頭を下げた。
「どうどうどう! よし。止まったね……あれ? 皆頭を下げてアリでも探しているのかな? ミリア元団長。君は僕に忠誠を使うような人間じゃないよね。頭をあげてくれたまえ」
馬から降りた音が聞こえると、隣のミリアさんが顔をあげたのを横目で確認した。
「剣は王に仕えず国に仕える。国とは民であり王ではない。ですが、民を導くのはまた王であると思いますので」
「そうかい? では僕にではなくルーカル兄さんを支えてくれ。他の者も顔を見せて欲しい、話が出来ないからね」
僕は顔をあげると、スタン第二王子が僕らの顔をじっとみている。
瞬きもせずにだ。
怖いよ。
「っと、怖がらせるつもりは無いんだ。ええっと……君が補助魔法士のラック君かな?」
「え。はい……」
何で僕の名前を。
「なるほど、君が補助魔法師サンジェリの弟子か……師ににてるね」
「人違いと思います」
「おや?」
僕と師匠は約束こそしてないが、あれでいて何となく通じ合うものがあった。
その結果、師は僕の名前を出さないし。
僕は師の名前を出さない。
約束などはしてないが自然とそういう感じになっている。
「なるほど、いや。確かにそうだ。はっはっはっは。サンジェリの弟子はいつの間にか死んでる。と書類上はなっていたんだっけ。
事を急かすとこういう失敗もある。忘れてくれたまえ」
改めて、と。スタン第二王子は僕に手を差し出してくる。
握手の構えだ。
「補助魔法士ラック、我が部隊へようこそ」
「え?」
「おや? その驚きは……」
部隊って? なんで? 話が見えない。
兵士になるつもりは無いし、部隊に入るつもりもない。
スタン第二王子の手を取る前に後ろから走って来たお爺さんが息を切らせながら僕達の側に来た。
「はぁはぁはぁ! アイ……アイスシーッルッド!」
僕とスタン第二王子の間に大きく薄い氷の壁が出来た。
「ひーひーふーひーひーふー! スタン様。いえぼっちゃん! 危険が危ないです。何かーーーっ! あったらどう、げふっげほするつもりですが」
「何かあったとしてもルーカル兄さんがいるよ」
「だまらっしゃい! この爺の口がっふ! ふあがふが」
お爺さんの口から入れ歯が落ちた。
唾液のついた入れ歯は細かい砂や土まみれになった。
「ふほーはー! ふほーはー!!! ふおーーーーたあああああ!!」
お爺さんが何度が叫ぶと手の先から水がもうチョロチョロとでて入れ歯の汚れを洗い流していく。
綺麗になった入れ歯を口に戻して、僕らに叫んで来た。
「ミリアあああ! スタン第二王子にいいい不詳なああああものをおおお、ちかずううけええるとはああ!」
叫んでいて少し、いやかなりうるさい。
ミリアさんを見るとミリアさんの表情が消えてる。
あ。これ黙ってやり過ごす気だ。
「ラック様。あのおじいちゃんは何で叫んでいるんでしょうか? リバーよくわからないですけど、近づいて来たのは向こうですよね? ラック様が悪いわけじゃないですよね?」
うあああ。
それはそうなんだけど、それを今ここで確認したら……。
スタン第二王子は、目をぱちくりした後にお腹を押さえてる。
「はっはっは確かに。そこのかわいらしいメイドさんの言う通りだ」
「だまらっしゃいい! この小娘風情が! ぼっちゃん! 何を笑っておられる。このボルクが魔法で閉じ込めている間にはや――」
閉じ込めてるってこの薄い氷の壁だよね?
割ろうと思えば割れそうだ。
話がややっこしくなりそうだから割らないけど。
「パパ。この壁割りますか? 角をつければ簡単に……」
「………………本当に申しわけないけど、今は我慢して」
「はい。パパがそういうのなら」
この状態でナイが角を出して魔族だよーって見せたらもっと大変な事になるのは目に見えている。
氷の壁の向こう。
すなわちスタン第二王子の周りに馬で駆け付けた兵士が数人増えだした。
筋骨たくましい赤色の鎧をつけた中年の男性と、細見ながら銀色の鎧をつけた男性。
あと、青い髪を三つ編みにした女性もいて、赤い髪の子供と一緒に馬から降りだした。
子持ち? 最近の軍って女性の子持ちでもなれるのか……まぁミリアさんも女性だし気にする事もないのかな。
スタン第二王子の影で、子持ちの女性が両手を合わせてミリアさんの無言で謝っていた。
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