055 ラック。突然の娘が出来る

 リバーの別荘、その別荘にある客間で僕とナイが向かい合わせに座っている。

 ミリアさんは壁際に立っていて、リバーは僕とナイにお茶を差し出した。



「ええっと……ナイ?」

「…………ん?」



 相変わらず意思は通じるも反応が薄い。



「ラック様、ここは志望動機をききませんと、1日何時間働けるとか」

「いや、就職じゃないからね」



 ナイは黙って十本の指を前に出す。



「10時間行けるって事?」

「そ、う……」

「となりますと2時間で銀貨1枚として1日5銀貨ですね」

「いや、だから仲間うちでそういう事はしないって、それに多少僕にも貯えがあるし」



 さすがラック様です。と拍手してくれるのが照れくさい。



「ナイ。ええっと人間の街に行くんだけど……角がちょっと邪魔というか目立つんだ。その隠すのに協力してもらえるかな」

「つの……?」



 ナイの頭には左右に拳二つ分ぐらいの角が生えている。

 ミリアさんの言う通りに羊型の亜人。として誤魔化すにしてもちょっとだけ厳しい。羊の角ってまるまるし。



「そう、ツノ! 不本意ではあるけどその隠すのに帽子……はむりか。ターバンなら」

「ラック様、アフロのカツラがあります!」



 リバーはアフロカットという黒いカツラを持ってきてはナイにかぶせる。

 カツラの後ろから赤い地毛が垂れ下がっていて変だ。それ以前にアフロから角は隠れて無く余計に目立つ。



「雷様ですね♪」

「雷様が何かわからないけど、角が取れれば一番いいんだよね……」



 自分でも無理な事言っているのはわかっているつもりだ。



「と……る……?」

「いや、取れたらなってえええええええええ!」



 ナイが手で角をぐるぐると回すとそのまま右の角を取った、そのまま左の角を取ると僕を見る。



「取りました。お父様と同じ匂いを持つ人」

「ええ……ああ……うん。うん?」



 今までの子供っぽい顔じゃなくて、いや怒られる。

 今までの知的の無いような顔……ああ、これもだめだ。

 とにかく、ナイの今の顔はどこかの敏腕秘書みたいなきりっとした表情になった。



「と、取れるの?」

「はい。取れと、お願いされなかったので」



 取った角をリバーが横から盗っていく。



「あっ……リバー先輩……返して」

「ふえ! 先輩ってリ、リバーの事ですが」

「はい」



 リバーは盗った角とナイを見比べて角をそのままナイへと返す。凄い嬉しそうで、リバーが先輩なんです♪ と踊っている。



「続きいいかな?」

「どうぞ」

「ええっと……」



 何かを言おうとしたらミリアさんが僕の前に抜いた剣をだしてナイと僕の距離を少し遠ざける。

 ミリアさんの抜いた剣には僕の驚く顔が映っていた。



「ミリアさん!?」

「魔族はしょせん魔族か……騙していたわけか?」

「騙すなどは……強きミリアママ」

「………………ママじゃないし」



 ミリアママ……ミリアさんが剣を降ろしてイジイジと壁紙をほじりだした。

 中々に手ごわい相手かもしれない。




「話がしたい」

「してます」



 即返事をされた。



「う、うん。ええっと……そうだね」



 何から聞いたほうがいいのか。ええっと角が無くなれば街に一緒に行ける。その点に関しては凄い嬉しいんだけど、他にも聞いた方が良い事が沢山ある。



「ナイさん、なんで突然喋れるようになったんですかー♪」



 リバーが座っているナイの腰に手を回して抱きつき始めた。



「リバー先輩、お答えします。ナイの魔族の力はこの角が本体です、つけている間の知能はおよそ10才前後ぐらいまで落ちるのです。

 あの環境ではこれが無いと生きていけませんから、いまの力はお父様と同じ匂いのする彼方にすら力はかなわないでしょう」



 なるほど、え。じゃぁ……。



「何でついて来たの?」

「はい、お父様と同じ匂いがする人間をほっとけなかったので……あのままではダンジョンの中で腐っていたでしょうし……帰ろうと思ったのですが魔法陣が起動しませんし。ご飯も美味しかったのでつい……」

「普段は魔法陣のスイッチ切ってますし……」



 スイッチ式なんだ。

 まぁ向こうから魔物が入ってきたら困るもんね。



「う、うん。別に焦って帰る必要はない……かな。いいよね? ミリアさんにリバー」



 ミリアさんを見ると、ため息をついて僕を見てくる。



「私は何も言えないな。ラックがいいなら責任だけ持てばいいんじゃないか?」

「はいはい、リバーも問題ないです。可愛い後輩ですから!」



 じゃぁいいか。



「あーでも、流石に毎回堅苦しい呼び方は面倒かな」

「そうなのですか? 魔族では二つ名を省略しないようにと……わかりました。パパ、ミリア先輩、リバー先輩で」

「いやいや!」

「まぁそれがいいだろう」

「リバーも文句ないですー」



 ミリアさんが話は終わった。といわんばかりに部屋から出ていく。

 リバーも昼食の準備しますね。と今日から先輩です♪ と鼻歌を歌って出ていった。

 パパの意見は完全スルーされた。



「そ、そのよろしくお願いします」

「はい、パパ」



 いけない遊びをしている気分だ。

 ナイはまた角をつけ始める、両方つけると知的な顔から、知的要素が少し無くなる。



「…………ん……ぱぱ……ありがと」

「いや、うん。こちらこそ。

 でも、どこかで住みたい場所や帰りたい時は伝えてくれれば努力はする。後はまぁ……僕が言うのもなんだけど人間が魔族を見ると、その……」

「…………ん。知ってる」

「大丈夫そうだね。じゃぁ出発は明日って事で、あとは軽く入浴でもして備えてくれれば」



 僕が立ち上がろうとすると、僕の服が引っ張られた。



「ナイ?」

「パパ……おふろ、いっしょ……に……」



 なっ!

 慌てて周りを見る、ミリアさんもリバーもいない。

 ドッキリではない? え。いや……僕がナイとお風呂に? よく見なくてもナイは綺麗だ。


 背も高くスタイルもいい。ちょっと角が生えているのを除けば人間と変わらないぐらいだ。


 え、でも僕はパパ扱いだよね? まてよ、逆にパパだから一緒に入るのかな? 子供を持った事はないけど、子供と一緒にお風呂は普通……うん普通だ。


 よく考えればミリアさんだって家族じゃないのに混浴だからって一緒に入った事もあるし、女性の一人や二人一緒に入っても問題ないよね。


 うん。


 たぶんない。


 

「わかった! ナイ一緒にお風呂に入ろう!」

「流石にそれはだめだろ……いや、恋人なら私も深くはいわないが……」

「ラック様結構せめますね」

「えっ!?」



 周りを見るとミリアさんとリバーが部屋の中にいた。



「い、いつから! 隠れるだなんて……あれ部屋が少し暗い?」

「ナイは既に入浴中だ。ラックが固まったからと、私とリバーに相談しにきてな……」

「ラック様、女性と入りたいならリバーと一緒に入りましょう。ミリア様もご一緒に」

「なんで、そこで私が一緒に入らないといけない!」



 本気で拒否られた。

 少し泣きそう。というか、色々恥ずかしい。



「まぁなんだラックも男だ。色々あるのはわかるが……もう少しそのな」

「いいじゃありませんか、ねーラック様」

「モウボクヲヒトリニシテオイテ」



 片言でやっというのが限界だよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る