052 死神は最後に微笑む

 剣が貫通してるナイは僕を見て首をかしげる。

 その傷から緑色の血が垂れて地面へと落ちはじめた。



「グィン! な、なんで! ナイを殺すんだ!?」



 ナイは膝をつき始めている。



「なんでって……魔族の血がほしくてな。もっとも本当に欲しいのは魔王の血って言っていたが、別にかわらんだろう……しな」

「そういう事でござる。この魔族には申し訳ないが死んでもらうでござるよ」

「グィン、何もいきなり……」




 ナイは刺さっている剣を押し込み始めた。



「辞めときな、俺の新しい魔剣だ。そう簡単に……」



 ナイの背中から剣が柄の部分がポロリと落ちる。胸から飛び出た剣のほうもゴトンと落ちた。


 僕らが黙っていると、ナイは壊れた剣を拾い上げグィンへと差し出した。



「…………ん……かえす……」



 壊れた剣を見つめたグィンはツヴァイへとからの手を差し出した。



「…………ツヴァイ。剣を貸せ」

「断るでござる。それがしの剣まで壊されると戻れないでござるよ」

「……そうか」

「けん…………いらない?」

「ちっ! いらねえ」



 僕はナイの手を引っ張る。グィンから離して、リバーのほうへと移動させた。

 そんな僕をにらんでは悪態をつき始める。



「血が欲しいなら頼もうよ……」

「ほう。俺に指図か」

「ちがう! その……」

「どこの世界に血が欲しい血をくれ。といったらくれる魔族がいるんだ? それに魔族は倒すべき。と言われてるだろ」



 確かに魔族は友好的になった。といえど、差別が凄い。国によってはいまだに戦っている所もあるし、倒すべきと即駆逐する場所もある。




「そ、それでも……」

「それでも? なっ!」



 ブチ。

 と、音がして振り返る。

 背後にいたナイが自身の小指を引き抜いて血をドクドクとティーカップへと流し込む。

 緑色の液体が並々になると歩き、グィンの前に差し出した。




「ち。わける……」

「ここにいるのかよ………………サーリア、小瓶持ってるか?」

「えっ? あっはい。持ってるわ」



 サーリアが小瓶を出すと、ティーカップから血を移し始めた。



 ナイは凄い誇らしげにやり遂げた顔をしている。でも、空気は不穏だ。

 僕の横ではリバーがファイティングポーズを取って、シュッシュと何もない空間を殴っている。



 煽らないで……。



「グィンその。よ、よかったね」

「本気で言っているのか?」

「も、もちろん本気だよ。よくわからないけど血が必要だったんでしょ」

「そうだな……所で、この墓は魔王の墓か?」



 グィンが剣が刺さった石をポンポンと叩き始める。



 ナイは腕を組んだ後に首を振る。



「違うのか……」

「魔王だったら?」

「掘り起こす。骨でも持っていけば依頼主も満足するかもしれないからな」



 ナイは首を振っては、小さく。ダメ……と言っている。

 うん。やっぱ駄目だよ。



「それは駄目だよ」

「…………ラック。俺達は冒険者だぞ、このダンジョンも前に潜ったダンジョンも、依頼があれば墓も暴く。お前だって宝箱や腐った死体から物を取るだろ」

「いや、そうなんだけど」

「それを正義面して、魔物の墓は暴くな? というのは、お前は冒険者か?」



 それを言われるとつらい。

 そういう職業だけどさ……別にそれだけじゃないし。



「まぁいい、もう会う事もない。二度と会いたくない」

「だめよ。ラックは一緒に帰るんだから」



 グィンが怒ると、サーリアが僕の手を握って引っ張ってくる。



「本気か?」

「本気よ?」



 グィンとサーリアで会話しているけど、僕はサーリアと帰るつもりは無い。



「いや。僕も忙しいし」

「だそうだ。おつよいラック様は忙しいらしい、サーリアお前もここに残ったどうだ? ラックの事だ。優しくしてくれるだろうよ」

「それは嫌よ」



 あ、それは嫌なんだ。

 腰に手をあて、はっきりと物をいうサーリアの言葉に肩を落とすも、懐かしくて小さい笑いが出る。



「ラックは元仲間で、私の恋人はグィンよ。そこは間違えないでくれる?」

「そ、そうか。悪かったな」

「グィン殿の負けでござるな」

「ちっ……サーリアにまでもまけるのか……」



 舌打ちはしているけど、グィンの反応の見る限り少し嬉しそう。



「まったく……ラック。はっきりと言っておく。俺は冒険者だし強さが欲しい。そのためにはお前如きに構ってられない。そのためには墓も荒らすし魔族も殺す、それでも邪魔をしてくるならお前も斬る」



 うん。

 グィンらしい、いつも真っすぐで力強い。



「僕は優柔不断でいつも迷ったり怒られたりするけど……今ここでナイを斬る。というのはやっぱ見過ごせない……」



 僕の腰には二本の剣。

 すでに補助魔法は数回かけている、なぜかは知らないけどまだ痛みはないし、重ね掛けすれば引き分けぐらいにはもっていけるかも。


 その間にナイにリバーと共に逃げてもらおう。



「…………俺の剣が無いから、ここは俺が引こう」

「えっ!? 戦わない……?」

「戦いたいのか?」




 僕は慌てて首を振る。

 戦わなくていいなら戦いたくはない。



「そういう所がラック、お前の甘さだ。ツヴァイ道案内を頼む。サーリア、お前は残ってもいい」



 ツヴァイが羽を広げ廊下へと戻っていく、その後をグィンが歩き出した。

 サーリアは一瞬こっちを見た後にため息を出し始める。



「ラックには支える人が沢山いても、グィンには一人なのよ。ごめんね」

「え。いや……うん……初めて」

「初めて?」

「謝ってもらったきがする」

「絶対にもっとあるわよ! 王都に来たらギルドに連絡頂戴。絶対よ!」

「え。あ、うん」



 言うだけ言うとサーリアも走って消えていく。

 後、僕には何人も慰めてくれる人がいるような感じにいわれたけど、いないからね。


 まずミリアさんは年上で恋人などではない、一瞬僕の事に気があるのかな? って思ったけど最近では全くそんな事はなさそうだ。なんだろう、僕はいた事ないけど皆のママ的存在。



 次にクアッツル。

 自称ミリアさんの子供で、ここ最近は離れているので、今はいない。

 どちらかというと妹的存在。



 最後にリバー。

 これはもう……僕の貞操を狙う親戚の姪みたいな。親戚もいないんだけどさ。



 僕だって、恋人は……あれ……突然視界が落ちた。気づけば膝が落ちていたからだ。



「っとっと、ラック様。これを飲んでください。魔力の使い過ぎじゃないんですかねぇ♪」

「くさっ!」



 ドブくさい匂いのする液体の小瓶を渡された。飲みたくはない。



「なにこれ」

「疲労回復します♪」

「……飲まないとダメ?」

「はい、魔力も疲労も回復します♪」

「し、信じるよ?」




 リバーを信じて僕はそれを一気に飲んだ。天井が回る。



「ラック様。どぶろぐって知ってますか?」

「…………どくろぐ……やっぱり毒。いやでも、なんで毒を」

「毒じゃないんですよ? お米を発酵させたお酒の事ですね。家にあるエリクサーと蒸留酒、後は飲みやすいように色々な香辛料をいれました」

「ましたって……目が回る。リバー離れて……僕はお酒が入るといつも失敗するんだ……」



 天井が回るし、とても気持ちがいい。

 今だったら何でもできそうだ。



「僕だって大きな胸を揉みたい!」

「うわーさすがラック様欲望がただもれです」

「恋人だって欲しい! いくら強くなっても寂しいし! もう、

「ラック様、リバーは完全にうえるかむですよ!」



 リバーのメイド服を掴む。

 小さくかわいらしい顔で僕を見ては小さくほほ笑んでくれる。



「リ、リバー……」

「でも残念です。ラック様はお酒が苦手という事で、心臓が止まる薬も入れて起きました」

「えっ!?」



 僕の胸が苦しい。

 えっ酔いも一気に覚めて来た。

 喉が渇き目もあつい、体が倒れほほ笑むリバーと、顔の部分を手で隠しているノイの姿最後に見えた。

 

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