050 ナイ
僕はティーカップを返した。
これが絵本であれば、ラックくんはうっかりさんでしたね。と次のページにいっておしまい。となる所だろう。
でも実際は違くて魔族のおねーさんは、ティーカップを大事そうに布に包むと腰の袋へといれた。
袋が膨らむかとおもったら、カップの大きさを無視してペシャンコになっていく。
「ど、どうなってるんだろ」
「圧縮と思いますよ♪」
「へぇ……」
よくわからないけど、返事だけはしておこう。
で、これから僕らはどうすれば。
もちろん帰るんだけど、天井の穴は小さい。どこかに登る道を探さないといけないのが現実だ。
魔族のおねーさんは、私には関係ないから。と言う様にスタスタと歩きだす。とたんに僕らの周りで石の床が揺れると青白い発光した骨の魔物が現れた。
「骨!?」
「うわーラック様どれもこれも変な骨ですね」
呑気なリバーの声の言う通り、人型もあれば大きな四つん這いの骨もある。
目の部分に青白い炎がともると、その灯りで周りが余計にはっきり見えた。
その数は沢山。
「ラック様ざっと43体と飛んでいるのが19羽です」
「数えたの!?」
「暇でしたので」
まったくもって暇じゃない。
そのうちの数体が骨を鳴らすと僕らに襲い掛かってくる。
腰の剣を抜いて、その骨を吹き飛ばす。
こういう時、剣は戦いに向かない。ハンマーとかそういう武器が欲しいなぁ。
その骨は魔族のおねーさんにも襲い掛かっていき、魔族のおねーさんは立ち止まる。
腰の袋から身長よりも高いハンマーを出すと骨たちを一掃しはじめた。
「つよ……」
「凄いですね。骨さんのほうが引いてます」
バラバラになった骨は再び集まるとまた起き上がってくる。
でも、先ほどの様におねーさんには襲って来ない。
「だからと言って、僕に来ないで!」
「ラック様。後ろ! 次に右と頭上にも来てます♪」
「いっぺんに言われてもっ!」
後ろの骨を飛ばして右と頭上の骨も飛ばす。
直ぐに前から襲って来た。
青白い骨が僕の手を掴もうとして寒気が襲った。
あっこれ、たぶん触られたら駄目なきがする。
「た、たすけっ!」
「………………ん」
思わず叫ぶと、目の前にいた骨が視界から消えた。
視界に入ったのは大きなハンマー。
先ほどの魔族のおねーさんが、僕の周りの骨を粉砕してくれた。
「…………あ、ありがとうございます」
「…………ん……」
魔族のおねーさんは、小さく頷く。
すごい良い人だ。
僕が感動していると、リバーが魔族のおねーさんの体を触りまくる。
布の服の下からお腹を触り胸を触る。
僕からの位置では見えないけど、ズボンの部分をひっぱり、その中を覗きはじめた。
「リバーっ!?」
「ラック様、この魔族さん女性です! 良かったですね♪」
抵抗しない魔族のおねーさんは、少しだけ頬を赤くしてる。
………………じゃなくて!
「な、なにしてるの!? ああ。ご、ごめんなさい。リバーって言うんですけど、メイドで悪気はないんです」
たぶん。
「何といわれても、ラック様ハーレム計画です。ラック様だって男と交わりたくはないですよね? ザック様ってあまりにも女性に手を出さなくて男色って噂あったんですよ。
もしかしてラック様も……あっ! いいえラック様。リバー、ラック様が男色でも心からお仕えします、だから首には――」
情報量が多い。
一度に言われても僕は反応出来ないから待って。
「待って! まず整理しよう!」
魔族のおねーさんは、手をポンっと叩いた。
「………………ん……」
腰から袋を取り出すと口を開き逆さにする。
先ほどのティーカップ。ハンマー。パン。謎の大きなタイヤ。大きな時計。ワイン。紅茶のビン。どんぐり。鍋。長剣。壊れた盾。
生きたネズミ。金属製の鎧、下着に衣類…………どんどん荷物があふれ出てくる。
「ちがっ! ええっと。おねーさんの持ち物の話では無いです! 物ではなく説明といいますか、なんというか」
「ラック様、これ凄いですね」
リバーは、とても口に出せない棒の玩具を振り回している。
「と、とにかく、しまいましょう」
「まさかのスルーされました」
そりゃそうでしょうに。セクハラだよあれ。
今出した物を次々と小さい袋に入れる姿を見ると頭の理解が追い付かない。
「あの袋って初めてみるけど有名だったりする?」
「そうですね……収納魔法と思うんですけど、伝説級のアイテムと思いますよ」
「へぇ……」
「欲しいのであれば、作りますけど?」
………………え?
「…………カ……エル」
っと、魔族のおねーさんが小さく喋った。
リバーが凄い事を言っていた気がするけど、それは後回しにしよう。
「あ、あの!」
僕の声に魔族のおねーさんは立ち止まってくれた。
「ついていっていいですか?」
「ラック様、家までついていって何をするんですかっむふー♪」
「何もしないよ……上の階層まで戻りたいんです」
「………………いい……よ?」
魔族のおねーさんは、小さく頷くと歩き出す。
良かった、これで帰れる。
黙って歩く魔族のおねーさん。
当然僕らも黙って歩くわけだけど、息苦しいというか、余りにも無言で息がつまる。
そういえば僕はまだこの魔族の名前すら知らない。
「す、すみません、名前をうかがってもいいですか?」
「…………ナ……イ」
え、無いの!?
「そういえば先ほどのスケルトンもスケルトンの群れであって一体一体名前は聞いた事ないですねぇ♪」
「で、でも名前が無いのは不便だよ。僕だって毎回、魔族のおねーさん。って呼ぶのは長いというか」
「…………名前……ナイ……」
「そうですよね。読みやすい名前をつけたほうが……」
「……だ……から。ナイ」
「リバーこの場合名前ってつけていいのかな?」
「どうでしょね、捨て子の場合は教会や村長さんがつけたりしますけど……」
魔族のおねーさんが立ち止まる。
突然すぎてその背中に顔をぶつけてしまった。
突然に腰の袋に手を入れたかと思うと、僕に布を手渡してきた。
「え? くれるの?」
「チ……がう。ミテ」
広げると子供用のパンツだ。
「魔族のお誘いですよ。ラック様良かったですね」
「緊張するなぁって、そうじゃないでしょ」
「ラック様がノリツッコミ! ご成長がリバー嬉しいです」
渡された子供用のパンツを広げる。
見ては駄目だろうと思っても見ないわけにはいかなく内側もみると、腰紐部分に小さい文字が書かれていた。
人間が読める文字で『ナイ』と書かれているのが何とか読み取れる。
「ラック様、これって名前ですかね?」
「だよね……ええっと。ナイさん?」
「……なまえ。ナイ」
ナイさんは小さく頷くと、手の平をだしてくる。
僕はその手を握って握手すると、ナイさんは小さく口を開いた。
「パン……ツ。かえして……」
「で。ですよね! ご、ごめん!! き、汚くはしてないしすみませんでした!」
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