049 何所までも付いてくる青い稲妻

 リバーに魔族特有の緑色の血が入ったカップを手渡してみた。

 だって僕には魔族の血の良しあしなんてわからないから。

 じゃぁリバーはわかるの? と細かい事は考えない様にする。


 リバーの表情はとても真剣で、その血を少し手の平に垂らすと舐め始めた。



「り、リバー!?」

「上質です……」

「そうなの……?」

「はい。舌がビリビリして、ラック様のお姿が5割ましにいい男にみえます」



 少し照れる。

 でも、元が0なんだから5割ましても0なんだよね。

 僕のテレをよそに、リバーは緑色の血を小瓶に移し替えた。

 残ったカップを僕に手渡してくれてポーチへと入れた。これで任務は終わり。



「流石に言いすぎだから……でもこれで治るなら急いで戻ろう」

「所でラック様後ろ――」

「急いで戻ろう!」



 僕はもう一度リバーに力強く言う。

 僕が見えている地面には影がある、これは当然だろう。


 僕とリバーの影のほかに、もう一つ影が出来ている。

 細身の影で人型だ。

 でも人じゃない。だって頭の部分に角が見えるから。僕の影の近くにあって、距離的に言えば真後ろだ。


 

 フレンドリーな魔族の人と思ったけど、違ったらしい。こうして無言で僕らに攻撃を仕掛けてこようとしてるのだ。


 戦ったら勝ち目は無い。

 だって僕には指を千切って戻すような事は出来ないし、それを平然とする強さもない。



「ラック様振り返らないんですか? 手招きして呼んでますよ?」



 振り返ったら見てはいけないのも見てしまう。こういうのは、振り返らなければ大丈夫。だって、今だって影だけあって危害はないから。




「な、何の事かな。リバー急いで戻るよ、駆け足で!」

「わっかりました、ではリバー駆け足で戻ります♪」




 くるっと一回転するとリバー走り出す。




 いくつかの角を曲がりってあれ?

 僕つけた目印と違う方へリバーは歩きだした。


 近道?

 もしかして迷ってる?



「リバー?」

「っと、はい、わかりました。ご使用ですね」



 リバーは突然止まると、メイド服のスカートを抜き出す。



「待ったまった! なんで脱ぐの!?」

「ダンジョンで突然の触手プレイじゃない……?」

「違う! いや、怒ってるわけじゃなくて……そのええっと……」



 僕がはっきり言わないのには影がまだついてきてるから。

 リバーがもしかしたら、この影を引き離すのに道を変えてるかもしれない。その考えもあってハッキリと遠回りしてる? と聞けないからだ。


 

「なるほどなるほど、ラック様はリバーが道をお忘れではないか? と思っているんですね」

「えっ!? うん。まぁそうかな」

「真後ろにいる無口の魔族様はどう思われますか? むぐぐぐぐぐ!?」



 リバーは突然、僕の後ろにいるはずの影に問いかけた。慌ててリバーの口を押える。

 慌てたリバーであったけど、すぐに抵抗をやめはじめた。

 



 小さい声で、「ラック様はこういうのが好きなんですね」 

 よくわからないけど、たぶん、そうじゃない。




 影が大きくなったきがする。

 ニュっと僕の視界に腕が現れる。

 細い指で人間と変わらないような肌の色。



 僕の顔を覗き込むように、右から綺麗な顔が視界へと入る。目が合った。



「うああああああああああ! レギンスマナアップ! レギンスマナアップ! レギンスマナアップ!」

「むっむはむ!?」




 リバーを抱きかかえて、走る。

 死にたい、と思った事は何度もあるけど、やっぱり死にたくない。


 それに、今僕が死んだらリバーもミリアさんも死ぬし。


 急いで走る。

 ちらっと後ろを見ると、綺麗な魔族の人? は床を蹴っては僕の後を追いかけてくる。



 冗談でしょ。

 ミリアさんじゃないんだから……ああも簡単に接近してくるのは反則だよ。



「ラック様♪」

「リバー今は黙ってっ!」

「わっかりました♪ 罠があるんですけど黙ります」

「えっ!?」



 前を向いた瞬間に壁一面に巨大な針が出て来た。

 ダンジョンにあるトラップだ。



「ちょっと!」



 巨大な針と針の間に足を入れて串刺しを免れる。あと一歩の距離で僕の体は穴だらけだ。


 た、たすかった……と、安堵した瞬間に床が抜ける。


 自由落下。

 落とし穴。

 言葉なんてどうでもよくて僕の体は一気に落ちる。


 つい最近も落とされたばっかりなのに、下を見るとかなり深い。

 上を見上げると僕を追いかけて来た魔族のおねーさんの顔がどんどん小さくなっていくのが見えた。



「よいしょ。よいしょ」

「リ、リバー暴れないで! 落とすし、落ちるから!」

「でも、ラック様。リバーなのでこの高さから落ちると死ぬんですよ」



 ですから。と、リバーは言うとスカートの中から大きな布を広げだした。

 僕の体が一気に浮き上がる。

 



「うあああああああリバーああああああ」



 反動でリバーの体から手が離れてしまった。

 僕の悲鳴とともに、僕の腰部分にリバーの足が絡みつく。




「大丈夫ですよラック様、リバーの足を持ってくださいね♪」



 …………。

 ……………………叫んだ僕が恥ずかしい。

 腰を背後からぎゅっと抑えてくれるリバーの足を掴むと、リバーの足はまっすぐになる。


 上を見上げると、ピンクのパンツが見えた。

 いや、そうなるよね。


 じゃなくて慌ててリバーの違う場所を見る。

 背中から大きな布をひろげしっかりとその結び目を握っている姿が見えた。



「ぱらしゅーどんって言うんですよね」

「偉そうな名前だね……」

「ですよねー人間は空を飛べないのによく考えますよね」

「よくは知らないけど、空を飛ぶ道具で気球とかあるらしいよ……」

「さすがラック様物知りです」



 僕が気球を知っているのはツヴァイの受け売りだし、リバーのほうが物知りだよ。



 落ちる速度は減速して、床が見えて来た。

 丸い球のような天井に床は石畳みにみえる。



「とっとととっとととと」



足をついて数歩連続で歩き受け身をとった。

その上にリバーがうつ伏せで倒れ込む。



「生きてる……」

「ラック様楽しかったですね」



 リバーの顔がめちゃくちゃに近い。

 小さい顔が凄い可愛く見える、実際にリバーは可愛い。

 そんなリバーが僕の命令一つで動くとか、逆に困る。



「ラック様の心臓ドキドキしてますね」

「そ、そうかな」



 これだけ密着されたらそうだろうね……。

 思わずリバーを抱きしめてしまった。



「ラック様?」



 リバーの顔が、ちかいちかいちかいちかい。

 風を切る音が聞こえて、その音も段々と近くなる。


 でも、そんな音も気にならなくなってきて……。


 背中に突然の揺れが感じた。 

 大きな音とともに地震が僕らをおそ……違う!



 先ほどの魔族のおねーさんが、僕の目の前に落ちて来た。

 足は、がに股で石畳みの床で腰を落としている。石畳みの床に足がめり込んでその破片が僕らに飛び散ってきた。


 ゆっくりと顔をあげた目から青い閃光が稲妻のようにみえはじめる。

 殺される……。



 僕はリバーを後ろにして急いで立ち上がる。



「ど、どうして追いかけてくるんです!? そこまでして、や、やっぱり僕らを殺すんですか!!」



 魔族のおねーさんは僕らと距離をとって手を差し出した。



「…………して……」

「オールマナアップ!!」




 腰の剣に手をかける。

 魔族のおねーさんは口を開いた。



「カップ……返して……」

「…………………………ごめんなさい」



 ポーチにしまったカップをそっと返した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る