048 ラック様。やるならいまですよ♪ 彼女は僕にささやいた。

 美味しい夕食後はお風呂で汚れを落とし一日目が終わった。


 リバーが好きに使ってください。と、部屋を案内されたんだけど。豪華すぎる、キングサイズのベッドが置いてあり、ホテルだったら一泊金貨数十枚はいるかもしれないような部屋だ。




「リバー?」

「はい、なんでしょう♪」

「僕は外で寝るよ、汚したら悪いし」

「いいえ! ラック様はリバーのご主人様です。ラック様が外で寝るのであればリバーも一緒に外で」

「いやいやいや、リバーの家だよね?」

「別荘です♪」




 僕にとってはどっちでもいい。



「リバーは家の中。僕は外」

「駄目です。ラック様が中です」

「僕は外でいいって」

「中です!」

「いや、外!」

「中に♪」



 …………あれ? これって部屋割りの話だよね。



「ごほんっ」

「ミ、ミリアさんいつのまに」

「さっきからいた。リバー綺麗な部屋をありがとう。先に休む」

「あれ? ミリアさん?」

「どうしたラック」



 僕はミリアさんの顔色をみる。少し悪い気がした。

 そっと手をにぎると、ミリアさんもその手を弾くような事はしてこない。



「マナオールアップ」



 自分の魔力をミリアさんの体の中に送るイメージを強める。



「んっ……な、何だ突然に!」

「あ、いえ……顔色悪いので僕はヒーラーじゃないし効果はないかもですけど」

「そ、そうかありがとう」



 ミリアさんは杖を付いて廊下に出ていく。少し心配だ。



「ミリア様とご一緒に寝ますか? 鍵はこれです」



 リバーは僕に鍵を握らせてくる。

 慌てて返した。

 普通に考えてダメでしょ……相手の許可も無いのに部屋に行ったら。



「それではラック様おやすみなさいませ」

「ん。おやすみ」



 リバーが部屋の扉をしめていった。

 あっ……まぁいいか。

 結局部屋で寝る事だよねこれ。


 キングサイズのベッドを確かめる、ふわっふわだ。貴族のザックさんの所で使ったベッドよりもふかふかなきがする。


 手が沈み、手を置いた場所が汚れた。

 慌ててタオルでこすると、汚れが広がっただけになる。



「よし、使うのは辞めよう」



 別に汚れたから嫌ではなく、これ以上汚したくないから。ベッドのわきで体を横にして腕枕で寝る。

 これだけでもじゅうたんがひいてあり、安宿よりも気持ち良く寝れる。




「ク様……ラック様!」

「え? リバー?」



 リバーの声がして眼をあけるとメイド服のリバーの顔が近い。

 慌てて頭をあげるとリバーの頭とぶつかり強力な痛みで目が覚める。



「ご、ごめん!」

「いたたたたた……大変ですラック様!」



 おでこを押さえたリバーが僕に訴えかける。僕は体にかかっていた毛布を……あれ? いつにまにベッドに寝ていたんだ。


 いや、それよりも僕は全裸だ。


 慌てて毛布を体に巻き付ける。



「夢遊病……」

「深刻な顔をしてラック様?」

「たいへんだリバー。僕は病気かもしれない……寝ている間に服を脱いでベッドの上に……」



 そうか。

 それだったら納得がいく。

 僕がお酒を飲むといつもこうだったんだ。

 あれもこの病気の一つに違いない。

 昨日はワイン飲まなかったのに……。



「あっ。それでしたらリバーが脱がせてベッドに置きました」

「あっなんだ、病気じゃなかったか」

「はい! 安心してください手は付けてません」



 …………何が?

 慌てて毛布の下を覗くとパンツすら履いてない。


 み、みられた!?

 顔を戻すとリバーはいつものメイド服で笑顔だ。



「リバーがんばりました」

「あ……そうなんだ」



 何をがんばったかは聞かない方が良さそうだ。相手は子供だし、裸を見られてもねぇ……それに僕の裸だったらミリアさんもみてるわけで。




 ……じゃなくて。



「えっとリバー大変って」

「はい! ミリア様が死にました」

「ふーん…………え? ええ!?」



 僕は慌ててベッドから抜け出す。

 ミリアさんの部屋は確か二つとなりだ。

 廊下に出て転びそうになりながらもドアノブに手をかけて部屋を開けた。


 花の匂いがいい香りの部屋で部屋のすみにあるベッドを見た。

 ミリアさんが寝かされていて何も着ていない。


 なぜか全裸だ。


 周りの小さいテーブルには小瓶が並べられており……いや、今はそんな事はどうでもいい。


 全裸で寝かされているミリアさんの前に走ってその手を取る。



「冷たい…………」



 氷の様に冷たくなっており、大きな胸も今は動いてるようには見えない。



「いや、動いている?」



 僕はその胸の部分に耳をあてる。

 大きな胸が邪魔して顔に冷たいスライムを押しあてられてるみたいだ。


 ゆっくりであるけど、心臓は動いている。




「よ。よかった…………」

「適切な治療が無ければ、一生このままです♪」

「リバー!?」



 振り向くとリバーが来ていた。

 ってか、改めて自分の恰好を確認した。

 全裸でぶらぶらだ。


 一方ミリアさんも全裸で山と……うん。そっちは見ない様にしよう。



「ごめん、とりあえず着るものを」

「どうぞ♪」



 リバーは僕に小さいナイフを手渡してくれた。



「ボケはいいから……」

「うう、リバー怒られました。ミリア様が使っていた毛布しかないです」

「そ、それでいいよ」



 ミリアさんの匂いが染み込んだ毛布をガウンのように羽織る。

 絶対に変な気を起こしたら不味い場面だ。


 そう思っているのに。そう思えば思うほど変な気になりそうなのは人間だから。

 変態じゃない。



「と、とにかく。何か他に着るもの。僕の着ていたのはどこに」

「洗濯中です♪ 使用人が使っていた服なら余っていますが……」

「それでいいから持ってきて」

「はいっではお待ちを♪」



 リバーは部屋から出ていった。

 振り返るとミリアさんが死体のように動かない。


 もう一度手を握る。

 死後硬直はなく柔らかい。



「ミリアさーん。聞こえてますか?」



 反応はない。

 目の部分を無理やり指で開くと銀色の目が天井を見ている。


 なるべく見ない様にして足も触るけど冷たいのに変わりはない。



「レギンスマナアップ。うっ…………」



 僕の魔力一瞬で吸い取られた感じがする。目まいと共にミリアさんに倒れこむ。



「ラック様は無抵抗なのが好きなのですね♪」

「はっ!? リバーいつの間に」

「服をお持ちしました」

「ち、違うからね。リバーミ、リアさんの体の中に魔力が無いんだ、血液の流れも悪い感じがする、ポーションとかあるかな。それと一番近く大きな街に移動させたい」

「エリクサーは既に飲ませてあります♪」

「そう。じゃぁ……え?」



 エリクサー!?


 名前だけは聞いた事がある伝説急の回復アイテムだ。



「見た所、ラック様の魔力が膨大すぎてミリア様の魔力が押し負けた。その場合における膨張と神経に負担がかかり、自己本能による硬直、魔力パルスのAからVの間におこる螺旋の旧八条に亀裂が入り――――」

「まったまったまった」

「はい♪」




 怖い。

 今はよくわからない事を言っているリバーが怖い。



「とりあえず、治る?」

「高魔族の血があれば……」



 渡された服を着ながら色々と考える。

 リバーは僕を見るだけで命令を待っている状態だ。


 残念ながら魔族、それも高魔族の知り合いなんていない。クアッツルなら知り合いがいるかもしれないけど今はこの場所にいない。


 何て役に立たないエルフなんだ。



「リバーは……」

「はいなんでしょう」

「その血のある場所知っているんだよね?」

「はい。取りに行くんですか?」

「………………冒険者だからね」



 これといった返事が見つからずに僕そう伝えた。

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