029 出来の悪いドッキリだよ
グィンの顔が不機嫌になる。
正直ミリアさんが男だったらグィンは殴っていたかもしれない。
「ふぅ……綺麗な顔して手厳しいな。そういう風に言う人間もいるが、別に今回は墓を荒らしているわけじゃない」
ミリアさんが、物はいいようだな。と小さく言うと、僕を見てからグィンのほうへと向き直った。
「では、ラックを返してもらおう。私達は邪魔なようだからな、ラック……目的の物は。
ああ、ちゃんと両脇にあるな、この布で包んで欲しい。いまなら、あの天井の穴から迎えが来る」
「はいっ」
ミリアさんから手渡された布に卵型排泄物を二つ包んだ。
「っとっとっと、まってくれ。誰に頼まれたかしらないが、俺達が先に見つけたんだ」
「……だから?」
「あー冒険者のルールじゃ複数のお宝があった場合先に見つけたほうが先に売るってルールがある。
持っていくのは構わないが、依頼人に手渡すのは10日ほどまて」
面倒なルールなんだけど、一応あるんだ。
っても、別に冒険者ギルドの規則にもないし、冒険者達の中で使われているルール。
「これだから冒険者は……わかった」
「ふう、綺麗な顔のねーさん、わかって――」
「だから腐った冒険者は嫌いなんだ」
「…………どういう意味だ?」
あれ。
ミリアさんとグィンの間に不穏な空気が……。
「ラック、私達が10日もまったら依頼主はどうなる?」
どうなるって。
「え……た、たぶんギロチン?」
フォンギルドマスターは僕達がダンジョンに行っている間に買い手を探してくる。って言っていた。
ここで買い手が現れても、先にグィン達のお宝が市場に出ると、そっちを買うだろう。
で、僕らが10日後にそれを持っていくと、買い手がいるかどうか、いたとしても安く買われてしまう。
「そうだ。くだらない冒険者ルールのために人が死ぬんだ、断る」
「おい。ラック、どういう事だ」
すなおに領主の息子でザックさんが賊にまけて、王に渡すお金を盗まれた。と、言いたいけど。
これ言ったらダメだよね?
フォンギルドマスターからも、御内密に。と、お願いされているし。
「依頼主の友人の命がかかっていて……無いと、困るというか」
「冒険者のルールを破ってもか?」
「そ、そう……だね」
グィンは僕の肩に手を置いて来た。
「だったら先にいえ。俺達は後でいい」
あ、なんだ。
グィンは僕らにそういうと笑顔を見せる。
少し驚いた。というか、うん。少しじゃなく普通に驚いた。
てっきり、それも拒否してくるかと思ったからだ。
ミリアさんも、少し驚いた顔をして笑顔をみせる。
まっすぐにグィンのほうて手を差し出して握手を求め始めた。
「冒険者の中にも話が分かるのがいたか……よろしく頼むよ」
「ああ。じゃぁ、差額として金貨400枚ぐらいはラックの借金って事で、後で冒険者ギルドで借用書を書かせる」
「え?」
「は?」
グィンがミリアさんの手を握ろうとした所で、ミリアさんの手が引っ込む。
空を切ったグィンの手。グィンはその手を見つめてから僕とミリアさんを交互に見て来た。
「こっちも痛みを伴っているんだ。何でも自分優先ってのは困るんだけどなぁ……なぁ! ラック!!」
「えっ。いや……う――」
「ラック! 返事をするな!」
え、えっ。
僕を挟んでグィンとミリアさんに同時に命令された。
ど、どうすれば……。
うん、そのグィンの言う事もわかるといえばわかるし、でも、僕らが先にもっていかないと人の命に係わる。
借金は大変だけど、ここは僕が飲むしかないよね……。
でも、返事をしようとしたらミリアさんに止められた。
「あの、と、とりあえずここを出てからにしませんか……」
僕から見える位置で地底竜が伸びあがった。
大きな下半身をつかって立ち上がると、天井を見上げていた。
天井から吊るされたロープにクアッツルの姿が見えたのだ。
「「クアッツル!」」
僕とミリアさんの声が被ると、クアッツルは急いでロープを上り始めた。
その天井の竪穴に地底竜は顔を突っ込み雄たけびを上げた。
ダンジョン全体が振動すると、僕らは近くの岩や壁に手で倒れない様に踏ん張る。
地底竜が天井の穴から顔をだすと、忌々しそうに首を振ったのだ。口の周りから血が付いており壁や地面に地底竜の血が吹き飛んだ。
「だ、大丈夫ですよね」
「あれでもクアッツルは精霊使いだ。地底竜の顔を見る限り大丈夫だろう……とはいえ、作戦が一つ消えたな」
「そうですよね、天井の穴からは脱出できませんよね」
大きな尻尾を揺らして壁や地面をたたきまわっている。
「あの地底竜、イライラしてるのかも」
「おいラック!」
グィンが僕に叫ぶ。
近いから叫ばなくても聞こえるんだけど。
「今のは……エルフか?」
「ああ、うん。温泉場で知り合った子」
「ちっ向こうが俺を知ってるとは思えないが……」
ぶつぶつ言っているけど、なんだろ。
ばさばさと翼の音が聞こえて来た。
ツヴァイがサーリアを抱きかかえて僕らの元に飛んで来たのだ。
「グィン殿。何をしてるでござる。作戦を言うでござるよ、ご婦人。お初にお目にかかる。鳥人族のツヴァイでござる」
「…………私はヒーラーのサーリア。よろしくねおばさん」
うああああああ。
ツヴァイは昔から口数が少なくて誤解されやすいけど、サーリアは思いっきりこれ不機嫌だ。
な、なんで?
グィンと話していたから? こ、恋人だからなのかな。
「亜人のツヴァイさんか、剣の腕が凄いと聞く、よろしく頼むよ。そして、ふーん。貴女がサーリアさんか、想像以上に――」
「美人で嫉妬した?」
「……いや、幼稚で安心したよ」
岩陰の向こうで地底竜が吼えているのに、ここだけ静かだ。
「ったくサーリアっ!」
「あの、ミリアさんっ!」
僕とグィンはお互いに女性二人の距離を離した。
先ほどまで不機嫌だったグィンの顔も少し疲れた顔をしているのが面白い。
「地底竜の背を滑り降りた力量は中々の手練れとお見受けいたす。拙者たちはあの坂を下りて来たのはいいが、帰れないでござるよ。飛ぼうにも砂塵でうまく飛べないのだ。何とかなりそうでござるか?」
ミリアさんは出入り口を見て考えはじめた。
「ツヴァイさん、手持ちの武器は?」
「小型の爆薬が3個でござる」
「ちょっとツヴァイ! こんなおばさんに何頼ってるのよ!」
「お、おちつけサーリア」
ミリアさんは、サーリアをちらっと見た後で無言で腕を組み始める。
「口……いやだめかも。岩を食べるような竜が口の中が弱いはずがない」
「そうだな。俺もそれはそう考えている」
あれ。ツヴァイとサーリアが一瞬グィンを見た気がするけどなんだろう?
「おばさん。何か他に言い考えないわけ? ラックの仲間なんでしょ? 使えないのはラックと一緒よね」
「サ、サーリア!」
「何よ?」
「そ。そのミリアさんは強いし、頼りがいあるよ」
サーリアの眉間にしわが寄って来た。
黙っていれば可愛いのに。
と、いうか僕ら以外でこの表情を出すのは珍しい。
「何をいうラックのほうが実力は上だ」
「冗談だろ?」
グィンが真顔で言うので、僕も普通に否定する。
「ミリアさんの冗談だよ」
「だろうな、じゃなきゃD級のままだからな」
ど、どうしよう。
もうD級じゃないんだけど、何か言い出せない。
「グィンさん、ラックならA級だ」
「は? ちっ! 嘘つけ確認する」
「うわああっ」
グィンは僕の胸ぐらをつかむと、首にかけているチェーンを引っ張り出す。
反動で尻餅をついた。
チェーンが絡まって首が締まりそうで痛い。
冒険者カードをぐっと引っ張られると僕のカードを確認しだした。
「嘘だろ……いや、出来の悪いドッキリか?」
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