028 元仲間たちの洗礼を受け始める。

 さて、じゃぁ取る物は取らないと。

 幸い地底竜は僕らを見失って今は後ろ姿しか見えない。



「えっと、よくわからないけど邪魔してごめん…………じゃないや、グィン」

「なんだ?」

「そのウ……宝石の塊ってギルドマスターからの依頼?」

「うん? そんな依頼はしらないな」




 あ、そうなのか。

 きっと3人は純粋に冒険に来ていたのか。

 だったらあの足跡もグィン達の物に違いない。


 じゃぁ僕も当然だけど仕事をしないといけない。



 がんばれば、走ればなんとかなるかな。

 補助魔法は使いたくない。


 よし。



 全力で走った。


 走った。



 図体がでかいから近いように見えて凄い遠い。


 地底竜の排泄物を二個ほどわきに抱える。

 ええっと……とりあえずグィンのいる場所に帰ろう。


 それから考える。


 抱えて走って走って走った。



「ぜぇぜぇぜぇ」

「…………何をしてるだお前は?」

「凄いラック。私のためにこんなに」

「え?」



 僕の持ってる地底竜の排泄物はサーリアにとられた。



「ラック、俺達のためにそこまで……あの時は酷い事いってすまなかったな」

「えっ!? えっ! いや……」



 何か勘違いしてるのかな。


 ほしかったら取ってこい。といわれて、使うから取ったのだけど。

 グィンにも取られた。



 し、仕方がない。

 もう一回取りに行けばいいよね。



「えっと、ちょっと離れます」



 走った。


 転んだ。


 あぶな、地底竜が動き出した。こっちにばれない様に走った後に卵型排泄物を二個わきに抱える。


 そして素早くはないけど、必死で戻った。




 ぜぇぜぇぜぇ、心臓がくる、くるしい。



「ラック……そんなにとってきもて、私もうもてないわ」

「そうだな……俺達も脱出するのが先だ。おいていけ」



 グィンは僕が持ってきた二つを元のほうへと思いっきり投げた。


 卵型排泄物は地面に転がり二つにわれた。

 それが二つなので欠片が四つに散らばる。



「さて、あれであれば後続が拾いに来ても価値はさがるだろ。問題はどうやって脱出するかだな。こいつが落ちて来たロープまでツヴァイが飛ぶか、いや。ここはラックで囮になってもらって最後に回収を……」

「えっグィン?」

「ラック、今考えているからD級のお前は黙ってろ!」

「あ。うん。ごめん」



 別にサーリア達のためにとったわけじゃ……。

 僕の目でみえる卵型排泄物は後二つ。


 はぁ……取りに行くしかないよね。

 うーん、しょうがない。

 

 すでに僕の足と腕は動かしたくないぐらいに疲れている。



 一回だけ。


 一回だけだから。



アームマナアップ腕魔力アップアームマナアップ腕魔力アップ



 足と腕に力がみなぎってくる。

 3回目となると、流石になれて来た。


 元の場所へと戻ると、グィンとサーリア。そしてツヴァイも合流してどう逃げるか。を話し合っていた。



「あら。ラック……もういらないって言ったよね? なんなのかしら? ?」

「えっいやこれは僕が欲しくて……」



 サーリアが僕を見ては怒りだす。

 別にサーリアに渡す奴じゃないんだけど……。



「サーリア怒るな」

「だって……」

「ラック、そう何個も地上にもっていくと価値が下がる、金にがめつい冒険者は嫌われるぞ」

「そうでござるよラック殿。身の丈が一番でござる、D級はD級らしくするのが一番でござるよ」



 サーリアが僕の持って来た最後の卵型排泄物を取ろうとするので、さっと横に移動させた。



「…………」

「…………」

「なんで、よけるのよ?」

「いや、なんで。と言われても……」



 サーリアの不機嫌な声が聞こえると、グィンが大きくため息をつく。



「まだやってるのか。ラックいいか、俺の言う事を聞いて無かったのか?」

「き、聞いていたよ。あの、僕はどうしてもこれが必要で。別にウロコとかでもいいんだけど……無理そうだし」

「逃げるのが先だ。置いていけ」



 グィンがしっかりとした言葉で僕に言うので、思わず頷きそうになった。



「ご、ごめん。でも、あの……今の僕はグィン達のパーティーじゃ……ない……し……」

「そんなのは俺だって知ってる! この俺が、折角会えたD級のお前と、ここを出るのに言っているのがわからないのか?」



 その割には僕を囮とか言っていた気がする。


 いや、囮は別に良いんだ。

 パーティーでそれぐらいしか役に立たなかったし。



 グィンの言っていた出口はどこだろ。あっあった。


 地底竜の顔の先に大きな穴がみえて登り坂がみえた。

 うーん、あっちまで走ってもみつかるよね。


 となると、やっぱりツヴァイに天井の穴から……って、あれ。




「ミリアさん!」



 思わず大声が出た。

 地底竜が僕の声に反応して、隠れている場所を見られた。



「馬鹿野郎! 声がでかい。ツヴァイ、サーリアを連れて離れろ。ラックお前はこっちだ!」



 地底竜は僕ら目掛けて大きな口を開くと砂塵のブレスを吐き出してきた。

 ツヴァイはサーリアを掴んで何とか飛んで離れて。


 僕はグィンに胸倉をつかまれて大きく走る。

 その間に爆発が起きた。と、いう事はツヴァイが目隠しのために爆弾を投げだのだろう。




「はぁはぁはぁ……」

「ふぅ、危なかった」

「おいっ!」

「うああっ、な、なに!?」



 グィンに胸ぐらをもう一度掴まれて、顔が凄い近い。



「あの天井からこっち見てる女はだれだ? ちょっと歳行ってそうにみえるが、いい女だな……後でこっそり紹介しろ。ああいう女は俺みたいに強い女に飢えているんだ」

「そ、そう? いやあのミリアさんっていって僕の……」



 なんだろ?

 パーティーではない。

 知り合い。は知り合いなんだけど、紹介できるほど知り合いではない。


 顔なじみでもないし、知人にしてもそうだ。



「僕の? 彼女だっていうんじゃないだろうな? ラックのくせに」

「えっ! いや、全然違うよ。温泉場で知り合った人」

「ああ、近くにあったな……いや、まて、何でそんな場所で知り合った女がお前の名前を大声でいって天井にいるんだ?」



 なんでだろう。



「あっそうか」

「なにがだ」

「一時的にパーティー組んでる。うん、そうだった」

「そのパーティーがお前を穴に落としたのか。あれか……死んだ事を確認するためにロープでおりて来た。中々の冷酷な奴だな」

「いや、ちが――」

「まじかよ……」




 グィンが珍しく間抜けな声を出すので見ている方を、つまりミリアさんをみると、長いロープから手を放し、地底竜の背中を滑って降りて来た。


 地面に受け身を取ると、足をかばいながら素早く僕のいる岩陰までまで跳躍してきたのだ。



「よかった……無事だったか……」

「あ、はい」

「途中でロープが軽くなって上は大変だったし、私も心配した」



 グィンが僕の前に一歩出始めた。



「俺の名はグィン。で、こいつの元パーティーのリーダーだ、見た所腕はたつようだけど、俺達はここを脱出したい、あのロープは上に通じているのか?」

「ラックの元パーティー……?」



 ミリアさんが辺りを見回して、サーリアとツヴァイを確認したのだろう、視線がグィンへと戻った。



「冒険者登録はしてない。ミリアだ」

「あっミリアさん、グィン達は別に依頼は受けてないそうです」

「そうか、じゃぁただのだな」

「あん?」



 。とは冒険者を馬鹿にする言葉の一つでよく言われるやつだ。

 ダンジョンに入って遺跡や宝を勝手に取る冒険者に対してよく使われる言葉で、特にグィンはそういう言葉は大っ嫌いだった。

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