030 ラックの本当の強さ
「じゃぁA級冒険者のラック様よ!
胸ぐらを掴まれたまま僕はグィンに怒鳴られた。
それを言ったらグィンもA級だよね。
「ちっ! いつもいつも、何言われても困った顔のまま反論しねえくせにA級だ? ふざけんなっ!」
グィンは腰の剣を抜くと突然僕に斬りかかって来た。
もう一本僕の前に剣先が見えた。
剣と剣がぶつかる音が聞こえ僕の目の前には十字になった剣がある、一本はグィンでもう一本はミリアさんだ。
「悪いが、ラックはこれでも仲間なんだ、そう簡単に斬られても困る」
「もちろん、冗談だ、俺も本気で斬るつもりはない」
グィンは剣を収めると、近くの岩へと腰を掛けた。
手を組んで僕をにらみながらブツブツ言っている。
サーリアがやや疲れた声で僕に小さく喋り掛けてきた。
「ラック……あなたのせいよ」
「ええ、いや……なんで?」
「何でも何もあなたが上から落ちてこなければグィンだってちゃんと作戦を立てて、私も今頃は地上にいたのに。…………グィン、気休めとおもってもヒールをかけるわ」
サーリアにも文句を言われて僕は落ち込む。
いくらある程度吹っ切れた。といっても好きな人、好きだった人に言われるとちょっとこたえる……。
しりもちをついたままの僕の前にミリアさんの手が差し出された。
「ありがとうございます」
「ん。気にするな、ただ……いや気にするな」
「はい」
なんだろう、ミリアさんの眉間にしわがよる。
「返事は、いいんだよな……黙っていればそこそこな顔なのに残念だ」
「何がです?」
「いや、何でもない。さて向こうも少しは落ち着いただろう、ラック君の力を借りたい」
「はぁ、僕でよければ……」
ミリアさんは数歩先に座っているグィンの前に立った。
「まだ用があるのか? 俺の作戦は二手に分かれて追い付かれたほうが爆薬を投げる。
そして逃げるだ」
グィンは腰の剣を触って話を続ける。
「皮は堅い、図体はでかいのに、動きは素早い。幸い左右に散れば片方は逃げ切れる。
俺の魔力は既に空だ、サーリアとツヴァイ。それとミリアさんだったな。その3人で動き。残った俺とラックが別方向だ、魔力は無くても走れはするからな」
グィンは顔を下から上にあげて、吐き捨てるように作戦を伝えてくる。
割といい作戦。というか、そうなるよね。
「いい作戦だな。では私とラックが後ろを守る。3人は先に行ってくれ、その代わりお宝は先に出させてほしい」
「…………正気か?」
「えっ! 何で僕も!?」
僕が驚きの声をあげると、グィンはそうだな。と言って岩から立った。
「案を飲もう。その代わり、ラックとミリアさんが、竜に追いつかれ死んだら俺達が先に財宝を売る。これで文句は無いか?」
「ない」
十分ある! 僕らの作戦会議の横で地底竜は首を動かして尻尾を地面に叩きつけているのだ。
振動や雄たけびが凄い響いてる。
そんな魔物の前にミリアさんはともかく、僕が前にでても役に立たない。
「じゃぁ、ラック話は聞いていたな? 先に私達がでる」
「え、いや……ミリアさん先にどうぞ」
「…………一緒じゃないと私は死ぬだけになる。いくぞ」
「うああああああああああああふふううああ」
ミリアさんに手を引っ張られて岩陰から転がり出た。
ミリアさんは器用に片足で地面を蹴ると、僕の手を掴んたまま、地底竜の顔の前に出た。
腕が取れる! 取れてないけど取れる!
後ろを振り返ると、ツヴァイとサーリアがグィンへ肩をかして歩いて……いや走っている。
そんな状態でも、宝物を担ぐ二人を見てちょっと安心した。
「ラック。前を向かないと死ぬぞ」
「え? ええええええええええ」
ミリアさんの声で前を見ると、地底竜が口を大きく開け何かを溜めている。
喉の奥から砂塵の嵐が飛んでくると、ミリアさんに引っ張られて、それをぎりぎりでかわす。
「し、しぬ!」
「死なない! ラック、いい加減覚悟を決めたほうがいい」
「覚悟って何ですか! 死ぬ覚悟ですか! 恋人……と思った人にも振られて、温泉で傷を癒したら、なぜか洞窟の穴に落とされた覚悟ですか!」
はぁはぁはぁはぁ。
「……さっきの事か、穴に落としたのは、中々進まないラックが悪い」
「そ、そうなんでしょうか」
「そうだ、私も3回も聞いてくるとは思わなかったぞ……」
怖くて。
「私が言ったのは、実力はあるのにそれを有効に使わないラックの事。ラックあぶないっ!」
ミリアさんは突然僕を突き飛ばす。
その動きがスローモーションに見えてミリアさんが砂塵の嵐に巻き込まれ視界から消えた。
先ほどまで僕がいた場所だ。
かろうじて砂塵から見えている手を急いで引っ張る。
重い……。
僕の腕力じゃ無理だ。
小さく、そして素早く魔法を唱える。
「
次に足を触る。
「
まだ重い。
「
ミリアさんの手が僕の手を握ってくる。
力いっぱいひっぱると、顔や腕、足なども傷が酷いミリアさんが僕に倒れ掛かってくる。
「ひ、酷い傷だ……すぐに、あっサーリア!」
後ろを振り返ると出入り口部分にいるサーリアやグィン達が見えた。
「それよりなんで僕を助けようと……」
「っ……よけ……ようと……足が思うように……ね」
「ミリアさん黙っていてください、傷が酷いです、すぐに回復を……」
ミリアさんを抱きかかえると、出入り口部分まで走る。
地底竜の足の横、顔の下を通って一気に走りぬけた。
3人の場所までだとりつく。
「よかった……まだ上にいってなくて」
「ラック……よね?」
「トッペルゲンカーではなさそうでござるな」
「………………」
3人が僕を見て話しかけて来るけど、そんな時間はない。
「サーリアごめん、ミリアさんにヒールをかけてくれるかな。ええっと……」
お金いるんだっけ。
腰に付けていた革袋をサーリアに全部手渡した。
「な、なにっ?」
「金貨20枚はあるとおもう、これをヒール代にして」
「ど、どこいくのよ」
「どこって、少し足止めしてくる!」
僕は一気に前に走る。
地底竜は僕を見て前足をあげた。
「うあああああああああああああああああああああああ!」
僕は気合をいれて地底竜の足先を掴む。
狙いは爪だ。
巨大なツルハシのような爪で、思いっきり引っ張った。
爪を取れば痛みで僕らを追って来ないと思うから。
嫌な音とともに爪がはがれると、地底竜は砂塵をあちこちにはきまくる。
この間に僕は急いで出口まで走った。
サーリア達が登っていった長い坂道を上り上層へでる。
「ラック様ーこっちですー♪」
「え、あれ。リバー?」
「はい! リバーです。皆さん外までにげるみたいです」
僕はリバーの案内で洞窟の外へでると、クアッツルや怪我の治ったミリアさん。
そして元仲間の3人が僕を待っていてくれた。
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