026 ナチュラルに古傷をえぐってくる人達

 僕達はいま地底竜のいるダンジョンにクアッツルの道案内の元、朝から山道を歩いている。 



 なぜ朝かというと夕方に出発してもどうしようもない。

 と、言う事で昨日は冒険者ギルドのおすすめで近くの宿に泊まった。



 もちろん宿代は有料。



 僕達はお願いを聞いているはずなのに、どんどん出費が増えていく。

 当然、僕は最低限しか、正確に言えばミリアさんから報酬でもらった金貨4枚しかない。

 そのうち3枚を返済にあてるつもりだったので実質1枚だ。


 リバーにいたっては、お金は持ってなかった。

 どうしようもないので今回もミリアさんに借金だ。



 しかも。



 ミリアさんから『ラックが私からお金を借りている所を頻繁にみせては、リバーの印象も悪いだろう。まとめて貸すから、ラックがリバーの分も出せ』と金貨20枚分を一気に貸してくれた。



 男気すぎる、女性だから女気?



 それをしらないリバーは『ラック様は実はお金持ちだったんですね!』って感動されるし、事情をしってるクアッツルは『本気で動けばすぐに大英雄よりお金持ちですわよね』とか、からかってくるし、やりにくいっていったらやりにくい。



「……ック。ラック!」

「は、はい!?」

「ふう、やっと気づいたか、結構な山道でブツブツと笑いながら歩く姿は怖かったぞ……」



 気をつけよう。



「荷物が重くてちょっと逃避を」



 重いのは本当で、ポーションが15個。ロープ。大きな布。携帯食。予備の武器。

 それぞれを小分けにして皆で背負ってる。


 皆には軽いかもしれないけど、僕には重い。



「ラック様。重ければこのリバーにお任せです♪ 背負います」

「いや、大丈夫だよ」




 たぶん。



 20歳になった僕が14歳の子に荷物を持たせるとか、流石に出来ないし。




「そ、そんなリバーは役に立たない……」

「立ってるよ」

「でもラック様。たってませんよ」



 リバーは僕の股間を見ては返事をしてきた。

 直ぐ近くでミリアさんの咳払いが聞こえて来た。



「す、すみません」

「私が注意する立場でもないし、気分が明るくなるのは良いとは思うがな……それよりクアッツル。最近この道は誰か通ったか?」

「さすがママ気づきました。エルフの巡回で半月に一度は…………おかしいですわね」



 クアッツルが地面に顔を近づけ始めた。

 僕も地面に顔を近づけてみるが、やっぱり地面だ。


 いや、よく見ると……。



「足跡ですわね。この辺は冒険者をなるべく入れない様に。と言っていますのけれど……仕方がありませんね。死体を見つけたら後で報告しておきましょう」



 死体……。


 え、そんなやばい場所。


 いやそうだよね、A級クラスの冒険者が来るって事はそうか。

 どうしよう、少し怖くなってきた。


 帰りたい。

 おそらく、今僕が帰りたい。と、いえば3人とも帰る。って言ってくれそうな気がする。



 その場合はザックさんがギロチンだ。

 顔の火傷痕があるザックさんが、先に行くぞ。とギロチンにかけられる姿が想像できた。



 慌てて首をふる。




「で、でも今回のクエストって死ぬわけじゃ……」

「どんな任務でも……いやクエストだったか? 死ぬときは死ぬ。戦闘をするわけじゃないから危険度は少し減っているだろう」

「ですよね」

「ふふ、ご安心をママとリバー絶対にしなせませんわっ」



 そこに僕も入れて欲しい。



「わたくしはこう見えても、地底竜の寝床に行くぐらいの裏道はわかってますし」

「安心しろラック今回はフン集めだからな、戦闘にはならないだろう」



 うん。

 ミリアさんのいうとおり、僕達は地底竜のフン。すなわちうんこを取りに行く。

 フンといっても汚いのは人間とかの奴であって、話によると地底竜の主食はさまざなな鉱石。



 その鉱石が消化しきれずに他の物と一緒に吐き出される。とクアッツルは教えてくれた。

 当たりはずれがあるけど、子供ぐらいの大きさで、市場価格は凄い高い。とこっちはミリアさんが教えてくれた。



「偽物も多いと聞く。だからそれを買った貴族はあえて割らないでオブジェにするのもいるらしいな」

「へぇ、お金持ちのする事はよくわかりませんね……」

「まぁ少し問題はあるんですけどね」

「どんな?」



 なんだろ……。



「排泄物が卵型になっておりまして、馬鹿な地底竜は自分の卵と間違えますの」

「馬鹿なんですね」

「馬鹿なんですわ」




 ダンジョンの入り口が見えて来た。

 

 思わず唾をのみ喉を鳴らした。

 人が通れるぐらいの亀裂から濃い空気がもれだしてる。

 ダンジョンゆえの魔力というやつだ。



「ラック様。空気が重い気がします」

「そうだよね。リバーは……」



 「大丈夫です、ラック様に捨てられないようにがんばります!」



 待ってもらおう。と思ったけど無理か。



「あなた、そもそもリバーをここに置いて、野生動物や魔物が来たら誰が守るんですの?」

「あーそうだよね」

「ラック、きちんと守ってあげてくれ」

「はい」



 返事はしたけど、僕じゃ守れないようなきがするんだけどなぁ。




「やはりこの数日で人が来てますわね」



 クアッツルが亀裂に入る前に地面をもう一度確認した。

 今度は僕でもはっきりとわかった。数人の足跡があるからだ。



「あっもしかしてフォンさんが、別の人達にもお願いをしていたとか……」

「ありえますわね」

「まったく、であれば早めに合流したほうがいいだろう。なに、違ったらその時に話し合えばいい」



 整備された入口へと入った。

 ダンジョンといっても、何度も人の手が加わっているため、低層部分は松明があったり階段などもできていたりと進みやすい。



 中にはいって中から出口を確認する。

 外の光が強くトンネル効果? という奴だっけかな、中からは外の景色は見えない。


 壁はごつごつしていて触っても崩れる事はなさそうだ。

 足元も特に滑るような感じではないから走っても大丈夫。

 後は横幅……この広さなら横に4人同時ぐらいは大丈夫なんだけど、出口は一人しかでれないかなぁ。


 無いと思うけど壁を叩いて強度をチェックする。うん崩れる心配もない。




 一通り簡単に調べて前を向くと、他の3人が僕を凝視していた。



 怖い。


 何っ!?



「えっと……?」

「驚きましたわ。ちゃんと仕事してますわね、冒険者って話は嘘かとおもってましたわ」

「そうだな、普段からあれぐらい真面目な顔だったら女にもてるだろうに」

「ラック様もてないんですかっ!? お強いのに」



 ええっと……。

 相変わらずクアッツルの冗談のキレが凄い。ランタンに火をつけながら返事をする。



「僕自身がいうのもなんだけど、強くはないいし弱いからね。退路はしっかり見ておきたいんだ。あと、リバー……僕はモテてないよ」

「ラック様はモテたくは無いんですかっ?」




 リバーにランタンを手渡して曖昧な笑顔で通す。



「うーん……今はいいかな」



 もてたいか? と言われると本当によくわからない。

 他人から嫌われるよりはすかれてはいたいけど、ずーっとサーリアといたから他の女性からもてたい。って気持ちがあまりない。


 その点グィンはもててたなぁ……朝帰り多かったし。




「リバー、その辺にしとけ。これ以上ラックの古傷をえぐるもんじゃない。

 ラックには振られた女がいて、もてるもてないなどは考えて無かったんだよ」

「えええええ! そうなんですかラック様!」




 ミリアさんの言葉がえぐって来てるように思えるのは気のせいかな。




「奥の手をださなければ強くもないし、金も興味ない、元カノ以外の女も興味ない、元カノにいいように採取されて、なよっとしていてウジウジしている。しかも度胸も……いや、度胸は少しはあったな…………



 追撃でえぐるような言葉に思わずうなだれ。


 えっ!?


 もったいない。って何。



「ミリアさんっ!?」

「どうした?」



 杖は付いて振り返るミリアさんの姿に見とれてしまった。



「言いたい事があるなら、言った方がいいですわよ。あと用がないのであれば先に進みますわ、どうも嫌な予感がしますのよね」

「ラック様。後ろはまかせてください!♪」

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