023 冒険者ギルドに軟禁される

 馬車が止まると、ミリアさんとクアッツルが馬車から降りていく。



「ラック様おりないんですか? 辺境で見る物も何も無いですが街ですよ」

「ああ、そうだね。降りようか」



 あっ……。



「どうかなされましたか? ラック様」

「い、いや」



 手を握られたからだ。

 リバーが小さく暖かい手で僕の手を引っ張ると馬車からおちた。



「うあああああああ」



 まずリバーが高級馬車の箱型の荷台から落ちて、手を引っ張られている僕もそのまま落ちる。


 リバーは背中を打ち付けて地面に転び、手を握っている僕がその上に四つん這いになった。



「きゃラック様だいだんです♪」



 もう少しでリバーとキスしそうになる。



よかったな」

「そうですわね



 まるで他人のような接し方をしてくる二人に涙がでそうになる。



「ふ、二人とも酷いよね……」

「そんな顔をするな、悪ふざけが過ぎたようだ。すまない」

「ママ! そ、そうですわね。わたくしもやりすぎましたわ……ごめんなさいです」



 二人が謝ってくれたので僕もあわてて謝った。



「こっちもごめん」

「ラック様ー起こしてくださいー」



 すでに僕は立ち上がっているけどリバーは両手を前に出して空を見ている。

 起きれるだろうに……。



「ほら」

「わぁ、ラック様ありがとうございます。よいしょっと」



 僕の手を使って起き上がると、御者のおじさんが、じゃぁここにいるので、泊りの時だけ連絡を。とだけいうと馬車を動かしに行った。


 これで本当に周りには僕らだけしかいない。



「ラック様どこにいきたいですか?」

「どこって……冒険者ギルドかな。ミリアさんやクアッツルは?」

「そうだな、私も手紙を出したい」

「私は人間の街をすみずみまで見たいですわ!」

「一人鼻息あらいエルフがいるけど大丈夫かな」



 リバーに確認すると、くるっと一回転する。

 メイドのスカートがふわっとなって、その中の絶対領域が見えそうで見えない。



 背後でミリアさんが咳き込むと僕も背筋をビシっと直した。



「さぁいきましょう」

「……そうだな」

「やっぱり、むっ……まぁいいでしょう」



 リバーの案内で街を回る。

 辺境の街といっても宿も数件。飲食店も数十店、冒険者ギルドもあり人口もそこそこ多いと説明してくれた。


 この街で一番いいのは暮らしやすさ、とも教えてくれる。



 もちろん税収はあるけど比較的安く、街の治安もいい。

 で、なぜ大都市にならないのは近くに辺境の森があるからだそうな。


 魔人を封じたダンジョンが地下に眠っている森といわれており、実際に強い魔物がいる。

 一昔前は討伐隊や腕自慢の冒険者も何人も入っていて帰ってこなかった。とかなんとか。



「こ、怖い場所だったんですね」

「温泉の周りはそこまで強い魔物も見た事がない」

「そうですわ、あの辺は強い魔物はいませんわね」



 はぐれスライムは強いほうじゃないのかな。


 例外に思いたい。



「と、いうわけでラック様。冒険者ギルドではここですっ!」



 連れてこられた場所は酒場だ。

 これは別に驚く事ではなく、冒険者ギルドと酒場が一緒にやっている所は多い。


 冒険者は情報が命。では情報はどこで集めるか、そう酒場だ! ってのが最初にあったらしく、比較的近い場所や一緒になっている所も多い。


 値段も安く、冒険者からも人気の店だ。



 中の様子がみえる扉をあけてギルドへとはいった。正面にカウンター。右側にボードがあり、左側が酒場のほうだ。



 まっすぐにカウンターへ行くと、ワイルドな髭の男性が僕達を見る。



「要件は?」



 僕は冒険者カードを提示する。

 命の次に大事な物で、魔石を使った特別なカード、僕の氏名やランクなどがかかれている。


 ランクはD。

 うん、いつ見ても初心者レベルのランクだ。




「グルラの街に郵便を送りたいです」



 ワイルドな男性は僕とカードを何度も交互に見る。クアッツルが「ふふ、あなたのカード偽物なんじゃないですの?」と、からかってくる。



 一応は違う。



「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!」



 ワイルドな男性は僕を見ておい。を連発する。が多くて何回言ったのかわからない。



「11回もおい、とはうるさいですわね」

「まさかの数えていた!?」

冒険者のラック……嘘じゃないよな」



 え?



 僕はD級だ。



「あの、D級ですけど」

「っ! やっぱり間違いねえ。ギルドマスターを呼んでくる。まってろ! いやお待ちになってください! フユラ。マユラ。ありったけの酒と飯をもってA級冒険者達を逃がすな!」



 ワイルドな男性は、カウンターを乗り越えて僕達の横を通り過ぎる。

 そのまま外に走っていった。



「な、なんだろう」

「さすがラック様です♪」

「リバー……さん。何かしってる?」

「さん、なんてもったいない。リバーは家畜以下の専属メイドなんですから、リバーメス豚とでも呼んでくださいまし」



 呼べるわけがない。


 軽食を食べていた人達が顔を見あってヒソヒソと話し出した。



 突然にドン! という音とともに目の前に酒瓶がおかれた。


 前を向くと肌にぴったりとついた服を着てる女性が二人。


 年齢は若く、赤と青の髪と、それぞれの同じ色の瞳で僕をググっとみていた。


 どちらも腰の部分までスリットが入っていて下着のラインが見えている。



 思わずミリアさんを見ると、横にいるクアッツルほうが、東にある国のチャーニードレス。といったようなきましますわ。と、教えてくれた。



「フユラデス」

「マユラアル」



 名前をいわれたので挨拶しないわけにもいかない。



「ええっと、ラックです」

「…………ミリアだ」

「クアッツルですわ」

「名乗る価値もないメス豚もごごごごご、ラック様。リバーーの口を突然おさえて何を……はうう! わかりましたリバーです」



 僕がリバーを上から見るとちゃんと名前を言ってくれた。



「まぁまぁ座るデス」

「そうそう座るアル」



 双子? 二人の女性に奥の席へ連れていかれて、ミリアさんやクアッツルとリバーもついてくる。


 回転するテーブルの前に座らせられると料理がどんどん運ばれてきた。



「食べるデス」

「食べるアル」



 あまりお腹は減っていない。


 グーギュルルルルル。と音が聞こえ、音が出た場所をみるとリバーのお腹だ。

 よだれを垂らして料理を見ているが、手はひざの上で必死にひざを押さえては料理を見ている。



「フユラさんにマユラさんであってましたよね。ええっと僕達お金ないんですけど……」

「ラック、私は持っているし、建て替えれるぞ」

「ママが出す事ありませんわ、わたくしもおじい様から人間が喜ぶ宝石を持っています」



 無いのは僕だけか…………。



「気にするな少年デス」

「そう気にするなアル」

「「全部無料!」デス」アル」



 ギュルルルルルルルル! ともう魔物の叫び声ににたお腹の音がリバーから聞こえてくる。



「リバー」

「だ、大丈夫ですラック様。リバーはお腹減ってません!」



 減ってるよねそれ!?

 その言葉を聞いてクアッツルが泣き出した。



「ラックさすがに……何かあれば私が出そう」

「いいえママ。わたくしが出しますわ! このままではこの子が餓死してしまいますわ」



 本当、貧乏な僕でごめん。



「リバー……食べていいよ。お金はどうにかするから」

「ラッキュ様! ほ、本当ですかっ」



 もう名前も言えてないし。

 静かに頷くと、リバーは凄い勢いで料理をだべ出した。



「僕達も食べようか」

「そうだな、毒は入って無さそうだ」



 え?



 ミリアさんがリバーの食べっぷりを見てから静かに言うの聞いて、ちょっとだけミリアさんを恐ろしく思った。

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