022 未開通のメイドなんですよ♪
ベッドの上で目が覚めて体を動かす。
うん、どこも痛くない。
これでやっと街に行ける。
酷く長かった……あの試合後、僕の体は夜遅くには何とか動けるようになっていて、自力でトイレも行けるようになっていた。
本当にあぶなかった。
ミリアさんと、クアッツルがオムツを手配していて、誰かはかせるかジャンケンしていたのは酷く恐ろしい悪魔に見えた。
勝った方がはかせるのか、負けた方がはかせるのかは、怖くて聞けなかったし。
丁度、街から帰って来たザックさんに小声で相談した所。
『男にはかせてもらうよりはいいだろう。それとも俺を誘ってるのか?』と怖い一言を貰ったので、違います。と、だけ答えておいた。
あと半日遅かったら……次の日も動けるけど体は痛いままなので屋敷に泊まらせてもらって、結局屋敷に来て4日ぐらいたってしまったのだ。
これだったらエルフの秘密道を通った意味もあまりなかった気がするけど……口を開けてねているクアッツルの寝顔を見て黙っておこう決める。
僕から見える大きなベッドにはクアッツルしかねていなく、ミリアさんは既に部屋にはいない。
心配するような事でもないので大きな欠伸を師ながら身支度を整えた。
眼鏡かけて髪を整えるぐらい。しかないけど。
部屋の扉が静かに開くと杖を持ったミリアさんが歩いてくる。
「ん。起きたか……おはよう」
「おはようございます。足の調子は……」
「すごぶる良い。いつもの痛みよりは少ない」
それでも痛いんだ。
今の僕ではミリアさんの体から見える魔力が見えないしなぁ、見るためだけに重ね掛けも無理だ。
「呪い……」
「ん?」
「いえ、その足は呪いなんですかねぇ」
「かもしれないな、以前にも伝えたかもしれないがちょっとした極秘任務でな、青い骨の魔物に捕まれた」
うーん。そんな極秘任務受けるような騎士団にはますます入りたくない。
僕は……あっ!
「ミリアさん!」
「な。なんだ?」
「目標あります」
僕がミリアさんに目標を伝えるのは『せめてラックだけの目標を、君がしたい未来を考えてみろ』と言われたからである。
「ほう…………長生きしたい。など言う、誰でも思う事であれば張り倒すぞ」
「………………」
「で、目標はどうした」
「あっクアッツルおはよう」
僕は首を動かしてまだ寝ているクアッツルに声をかけた。
まだ寝ているらしく、僕の声で耳が動き始めた。
「もう朝ですの? おはようございますわママ……とさえない顔ですねぇあなたは」
「はぁ、この男は……まぁしかたがないか、おはようクアッツル」
「また何か失言しましたのですわ?」
また。とはおかしい。
それじゃ毎回してるような言い方で失言は殆どないはずだ。
「さて、早めにザック様に挨拶をして街に行こう。あまり善意に甘えても悪いからな」
「はいママ」
「そうですね」
最後の最後まで豪華な朝食をご馳走になり別れを告げる時が来た。
馬車にはすでにクアッツルとミリアさんが乗っていて、僕の目の前にはザックさんと、長い金髪を後ろで縛っている可愛いメイドさんがお見送りに来てくれた。
「補助魔法士……いや補助魔法師といったか?」
微妙に言い方が違うから、たぶん。師と士の違いの事。
「え、あっはい。師匠の師よりは戦士のしのほうで、基礎が出来るぐらいの意味合いなんですけどね」
「俺からいえる事は胸を張れ、この隻腕のザックに勝ったのだ」
「でも、剣士に対して魔法を使ったのは……」
ザックさんは首を横に振った。
「俺の精進が足りなかっただけだ。お掛けで目が覚めた。身分は違えと、お前とは友だ。また訪ねて来い」
「え、えええええ! い、いいんですかっ!?」
「もちろんだ。帰る時はまた爺にでも伝えてくれ、俺は少し家を出る」
僕とザックさんは握手をした。
中々離してくれなかったけど、満足したらしく、僕は背中を見せて馬車に乗った。
最後に可愛く背の小さいメイドさんが馬車に乗って御者の人が馬車を走らせた。
「ラック様! 街に着いたらどこに行きましょう? やっぱりホテルですか?」
「……」
「……」
「……」
明るい声が今の馬車の中では全くの場違いだ。
「ミリア様、ラック様が冷たいです。クアッツル様も行きたい場所があればラック様におたずねくださいね」
「……」
「……」
「……」
ミリアさんとクアッツルの白い視線が僕に突き刺さる。
どうにかしろ。と。
「ええっと……誰?」
「えええええ! 忘れたんですかラック様!」
「食事を運んでいたりした一番小さいメイドさん?」
会話などはないが、僕達が滞在中に何度か見た事ある子供っぽいメイドさんなのは間違いない。
「はい! あたしリバーといいます。先月14才になったばっかりのこっちは未開通のメイドでございます。エルフの道の見張りをしているメイドの妹メイドなんですよ!」
ええっ…………貴族風の冗談なのかな。
笑えないし突っ込みしづらい。
そういえば僕達を見て驚いたメイドさんがいたっけ、その子の妹なんだって、そうじゃなくてっ!
「クア……は役に立たないよね。ミリアさん……説明わかるかな?」
「女の私に説明させるのか?」
クアッツルが高級馬車の窓を開けると外に唾を吐く。
「失礼、ママ私からもこの下品な事をいうメイドの言葉の意味があれば知りたいですわ」
「わかった。貴族のメイドや執事、殆どがメイドによるが美人やかわいい子が多いのはなぜかわかるか?」
「ラック様! あたしが可愛いって事ですよね!」
お願いだから黙っていて。
僕は首を横に振る。
「単純にやる気がでるとかですか?」
「ザック様がそうだ。とう証拠はないと先に覚えておいてくれ」
「はい」
ミリアさんの口を開きかけて、閉じた後に喋りだした。
「一部、ごく一部の貴族は使用人と夜の行為をするのは当たり前なのだ。
メイドや執事はいずれ屋敷をでる、そして所帯をもったりすると、屋敷の主人の力が増えるわけだ」
えぐい!
軽く説明してくれたけど、結局は貴族がメイドさんと肉体関係を持って、その人を部下や知らない人のお嫁にだす。
そうすると、大きなグルーブが出来て……って事は。
「もしかして、大きくなった貴族の所には」
「ああ、自らの子をメイドや執事に応募する親、本人が多い。まさに、当主は選び放題。というわけだ」
えぐい! 二回目の感想も同じ感想で終わる。
「そうなんです、希少価値なんですよ!」
「だ、そうだ。良かったなラック。貴族が自身の手を付けてない女を相手に送り出すのは信頼の証とされている」
「あなた良かったですわね」
何も良くはない。
この狭い馬車の中の空気が震えるぐらいに寒い。
「そ、そのリバーちゃん……いやリバーはどうして馬車に」
「それはもちろん、ラック様のメイドだからですよ! この馬車の中で一番の若さでかわいさすよ? どうです。もう襲いたくなりました!?」
ならない!
ミリアさんと、クアッツルの表情がもうなぜか僕に冷たい視線を飛ばしてくる。
「よかったな、若いメイドで」
「そうですわね、かわいらしい女の子です事」
「そ、それは置いておいて、何で君が馬車にのって僕を様とつけて。僕はザックさんに君を譲られる理由ないんだけど」
まったくもって身に覚えがない。
「えー覚えてないんですかー? だってラック様がザック様に勝ちましたので、娼館のチケットはいらない。と言ったじゃないですか」
「う。うん」
本当は欲しかったけど、ザックさんが執事さんに手配して改めてチケットを貰おうとした時に、ミリアさんとクアッツルが丁度湯あみから戻って来たからだ。
おもわず、ザックさんに大丈夫になりました! と言ったのを覚えてる。
とても嫌な予感がする。
「ですから、商品としてリバーがラック様の専属メイド、朝の朝食から深夜の幸までリバーが決まりました」
うん。やっぱり身に覚えありました。
「ぎょ、御者の人に止まってもらってすぐに引きかえ――」
「えーなんでですかー!?」
なんでって、そりゃ返品を。
「ラック、貴族から貰った物いや人を返すのか? 私には関係ないからな出来るのはラックを死罪にならない様に頼むぐらいはする」
「そうですわね……一度馬車まで連れ込んだのを返すってのはですわよね」
連れ込んでもいない!
考えがまとまらないまま、街につきそうだ。
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