021 エルフの少女は思う『これは洗脳されてますわね』
ミリアさんは小さく千切ったパンを細い指を使って僕の口の中にいれてくれる。
その指を触れない様にして緊張しながら口の中に含んだ。
口の中に入ったパンをもぐもぐと食べる。
飲み込んだ後は、クアッツルが水が流し込んでくれて……流し込まれて…………。
「ぶっはっ!」
「汚いですわね。もう少し上品に食べれません事?」
「し、死ぬ。死ぬから! 飲み物口に入れすぎ!」
「あなたも男なんですから、口に入れた物ぐらい全部飲みなさい」
無理だから。
「しかも、コップじゃなくて水差しだよねそれ」
ジョウロぐらい大きい水差しを僕の口に入れるんだ。おぼれるに決まってる。
「そう怒るな。ラック、君はよくやった。痛みは無いんだろ?」
白く細長いテーブルの向こうから、包帯を取ったザックさん聞いて来た。
やけどの跡は残っているけど、最初にあった時より少し表情が緩んだ気がする。
「は、はい。クアッツルがくれた。動物のウン……丸薬のおかけです。首から下が感覚が無い感じです」
「あなた今、食事中というのに変な事言おうとしませんでしたか?」
僕は全力で首を横に、振れない!
薬が効いているんだった。
「言おうとしてないよ、玩具にされてる気分だよ」
「動物の……まで聞こえましたけど、気のせいでしたのかしらね」
クアッツルが首をひねると、ミリアさんのはずんだ声が聞こえて来た。
「とにかくラックが私にした事と同じだからな。手厚い介抱はしておこう」
「ありがとうございます?」
そもそもしたくも無い試合をさせられて、かけたくもない補助魔法を自分に掛けるきっかけを作ったのは、ミリアさんとクアッツルのせいなんだけど、とりあえずお礼は伝えておいた。
「さぁ口を開けろ。残すと悪いし沢山食べろ」
「は、はい。むごごごごくるっ! 苦しい!」
「クアッツル! 水だ」
「わかってますわママ!」
「おぼぼぼばばっばばば」
全然わかってない!
「エルフの騎士……いやラックよ美人二人に介抱され
ザックさんが羨ましがっているけど、地獄だよ。
「さて、俺は食べ終わり早めの昼食は終わったわけだが……その様子じゃ街に行くのは無理そうだな。部屋は好きに使うといい。
街に用があるので先に失礼する。
何があれば爺にでも聞いてくれ」
ザックさんが席を立つのでお礼を言わないと。
「おばばばいばいす」
「…………ふっ」
小さく笑うザックさんは部屋から出ていった。
僕に食事を食べさせ終えた二人は部屋まで連れて行ってくれる。
ミリアさんにかかれば僕なんて軽い物らしく、簡単に背負って簡単に運ばれる。
男として負けた気がする。
気じゃなくて負けてるか……あははっはははは。
「ん。ラックどうした? 小さく笑って。漏らしたのか?」
「漏らしてません! クアッツル鼻を摘ままなくても大丈夫だから……いえ、僕が男として弱いなぁ。と思いまして」
「…………ラック、君は強いよ。その事で話があるんだが、廊下でするような話ではないな、部屋にいこう」
なんだろ。
微笑んでいる顔に見えるから悪い事では無いとは思うけど。
廊下を過ぎて部屋に入ると、ミリアさんは僕を椅子にすわ…………。
視界に足しか映らなくなった。
椅子から落ちたのだ。
「あなた、椅子ぐらいまともにすわ……れませんでしたわね」
「す、すまん! ラック!」
「痛みはないんで……」
まるで人形のようにベッドの上、それも壁に背中を預けるように僕は置かれた。
うん。これなら倒れても大丈夫だ、倒れたくないけど。
「まずは、改めて勝利に乾杯だ。酒も料理も無いがせめて私からの言葉を贈らせてほしい」
「そうですわね。ではわたくしからも褒めて使わせましょう。従者ではないにしろ、わたくしのメンツを守ったのです」
「別に二人のためでは…………でも、ありがとう」
照れくさい。
冒険者になって、僕が戦闘で褒められたのは凄い久しぶりだ。
「で。だ。ラック、騎士団に入る気はないか?」
「無いです」
「…………」
「…………」
僕もミリアさんも無言になった。
「驚くほどの即答でしたわね」
「そ、そうだぞ! ラックの実力なら騎士団の…………優秀な隊員になれる!」
「話が唐突過ぎますし、あの騎士団って結局、その殺したり殺されたりですよね?」
僕の言葉にミリアさんの顔が不機嫌な顔になる。
これでも僕は言葉を選んだよ! だって騎士団って国が誇る軍隊だよ。
「そう思っているのか?」
「上から命令されれば山賊退治や魔物退治、帰りたいと思っても帰れなく、もし帰ったら逃亡の罪があるんですよね……」
「確かに無いとは言えない。その、本来は国や王に忠誠を誓うのが騎士の習わしなんだが……私は皆を、国というより市民だな。それを守りたいから騎士団に入った」
「凄いですね」
「ママ素敵…………」
ミリアさんは髪を少しかいて照れている。
「じゃぁ次はラックの番だな」
「何をっ!?」
思わず聞き返した。
「冒険者になった理由や、ラックは何をしたい」
「え。いやー………………そうですね…………えーっと…………」
「早く言いなさいな、わたくしも気になりますわ。こんなうじうじした人間がよく冒険者になれましたわね」
無いんだ。
本当に特に理由がないし、別にA級冒険者になりたいわけでもない。
世界を旅したいとかも、人並みにはあるけど。別に大きい理由にはない。
「えーっとですね、特に何も無いです」
「無い事はないだろ……」
「そうですわ」
「昔はどうだったんだ?」
「昔ですか、ええっとサーリアが村から出たいって言っていて、一人では許可を得られなく。
たまたま親がいなく幼馴染の僕が暇してまして、じゃぁラックと一緒ならいいよね。って事で一緒に村からでて冒険者登録をして……。
冒険者ギルドで先輩冒険者に連れて行かれそうになった所を師匠達が助けてくれてサーリアを鍛えるついでに、僕も鍛えてもらって……。
将来はサーリアと結婚して村に戻るんだろうなって…………」
自分でも何を言っているのかわからなくなる。
「結局は元カノ……いえ、彼女だと思った人の言う通りに生きていたんですの?」
「そうなるんですかね?」
「わたくしに聞かれましても……何とお可哀そうな……」
別にかわいそう。と、言われるほどでもないような。
「あ。これからは、ミリアさんと一緒に辺境で暮らしたいです」
宿屋の従業員も良いけど、あの街には知り合いが多すぎるし、事ある事にサーリアを思い出しそうだから。
あと、宿の主人は凄く良い人なんだけどちょっと怖いのもある。
力仕事得意じゃないしなぁ、力仕事するたびに補助魔法かけるわけにもいかないし。
その点辺境なら畑もあるし温泉は入り放題。
食と住がある。
問題はお金なんだけど、温泉に入りに来た人に補助魔法をかけてちょっとお小遣いを貰えないかなぁ。
「ななっなな! わ、私とか!?」
「はい、ミリアさんも暫くは辺境にいるんですよね。足にも魔力ながしますし」
「そ、そうだな……」
「ママ? お顔がお赤いですわよ。きっとこの方の発言は意味も無いと思いますが」
「クアッツル……わ、わかってるさ」
何の話だろう? 意味が無いわけじゃないんだけど、変な事いったかなぁ。
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