018 今からでも入れる保険あるんですか!?
普段なら絶対食べれないような高そうな朝食を食べた後、僕は中庭で臨時に置かれた椅子の上でぼーっと座っている。
なんでこうなったのだろう。と……。
眼鏡をかけて見える風景の少し先には練習用の剣を振って具合を確かめているザックさんがいて、僕の横ではミリアさんが、練習用の剣を振っている。
ミリアさんが戦うわけではなく、僕のために剣を探してくれてるのだ。
戦いを申し込まれた後、必死で断ったのだけど、使用人さんや執事さんも起きだして、さらにはミリアさんとクアッツルも、僕らの騒ぎを聞きつけ中庭にやって来た。
ザックさんは最近誰かに負けたらしく、自分を見つめなおすのに誰かと戦いたいらしい。
それは別にいいんだけど、なんで僕!?
話を聞くと、クアッツルと一緒に来たせいでクアッツルの従者。違うと伝えても、強さはあるのだろ? と納得してくれなかった。
さらに、執事のお爺さんが涙を出しながら訴えて来ては断りにくいし、なぜかミリアさんやクアッツルも、いいんじゃありません事。と、背中を押してきた。
で、僕はこうして空を見ている。
いい天気だなぁ。
「これは軽くて使いやすい剣だな。ラックにも振れるだろう。振ってみろ」
「はぁ……っ! はいっ!」
自分でも気の抜けた返事だな。って思ったらミリアさんがにらんで来たので返事はしっかりと返す。
受け取って振ってみたけど確かに普通の剣よりは軽いけど、やっぱり重い。
「少し重いです」
「そ、そうか……であればもう果物ナイフぐらいしか、少しまってろ聞いてくる」
「すみません」
杖を付きながらミリアさんは執事さんに聞きに行った。
横で目を輝かせてるクアッツルが僕の話相手になってきた。
「本当に、本当にお酒は飲まないんですの?」
クアッツルの手には高そうなワインが1本ほど握られているし。
「朝食の時から二人で勧めていたよね……飲まないよ。練習とはいえ試合だし。僕が弱いからってもお酒を飲んでは失礼だし、そもそも飲むと眠くなるからね。寝てしまえば試合は無いかもしれないけど……」
それでは相手に失礼だ。
僕が負けて、ザックさんの自信を取り戻す、そんなシナリオが確定してる試合であれ、それは失礼だ。
僕が弱いのはいい、いや本当は強くなりたいけど……問題は負けると判っていても、善戦をしないといけない。というプレッシャーで嫌なのだ。
試合が始まって剣が吹き飛ばされました。
はい負けました。
これではザックさんの自信は復帰する所が、手を抜いた! と怒るだろうし。
ザックさんが怒るとクアッツルも連鎖で怒られるかもしれないし、エルフ側が人間を馬鹿にした。と怒ったら大変だ。
「エルフの従者じゃないのに……」
「まだ言ってますの? あなたはこの私の従者と間違われたのですから、ぶざまな負けは許しませんわよ。ぺっ!」
「…………他人の敷地で唾を吐かないほうが良いよ」
「言う様になりましたわね。最初は何も言わなかったくせに」
くせに。と言われても。
ミリアさんが杖を使いひょこひょこと戻ってくる。
「すまない、これ以上軽い練習用の剣はないそうだ。執事さんの提案なんだが、真剣なら……なんでも唯一残った? 家宝の魔法剣ならあるそうだが、そっちはどうだ。と」
「ええっと、真剣でやったら下手したら」
「もちろん死ぬな」
全力で首を振る。
練習でさえ人が死ぬ。というのに真剣でやりたくはない。
「せめてヒーラーを用意してくれませんか……」
「ハイポーションがある」
「あるんだ」
これで怪我をさせたくない。したくない。といって棄権する事も無理になった。
「ふぅ……ラック、いい加減腹をくくれ。その……強い男は私は好きだぞ」
「じゃぁ僕の事は嫌い。という事ですよね」
弱いのだから仕方がない。
綺麗な女性にいきなり嫌い。と言われると、酒場で隣に座った女性からいきなり嫌いだから。と言われるぐらいにへこみそうだ。
「身体的の事を言っているんじゃない。心だ心。いや身体的も強いのは好きではあるが」
心……肉体的じゃないんだ。
「あの良い事言ってるような感じですけど、戦うの僕ですし。
明らかに実力差ありますよね……二人とも反対してくれなく賛成するし」
「…………まったく。君は何だったら満足するんだ?」
なぜ僕は怒られているんだろう……。
「わかった。そこまで試合をしたく無いならば私が出よう」
「えっ!」
「ママ!?」
逆切れだ!
いや、突っ込む前にさすがにそれは男としても、人間としても駄目なきがする。
ザックさんと執事さんの所に行くミリアさんの手を掴んだ。
パシッと跳ねのけられた。
いやいやいやいや。
「ミリアさん!」
振り向いてくれないし。
杖使って歩いてるのに早い。
僕は急いで走ってミリアさんの背後から抱き着いた。
ミリアさんの体がビクっとなって、近くにいたザックさんと執事さんが僕達を見ている。
何とか笑顔で答えたいけど、ミリアさんが必死で暴れる。
僕の両手は組んでいる状態で、少しは耐久あるんだろうけど、ミリアさんの力が強すぎて僕の力では跳ねのけられそう。
ああ! もう!
「
小声で補助魔法を唱えた。ミリアさんには聞こえたかもしれないけど、ザックさんや執事さんには届いてないと思う。
腕の中でミリアさんの体の動きが止まった。
ザックさんとの距離が近く、包帯から見える目が厳しい感じで僕らを見てきている。
「よくわからないが、何をしてるんだ? 用でもあるのか?」
「ちょ、ちょっとした作戦会議ですのでお騒がせしました」
ミリアさんを両腕で抑えたまま僕は後ろ向きに歩く。
ミリアさんも後ろに引っ張られるときは抵抗を収めてくれた。
最初の椅子まで戻って来た所で僕は椅子に座ると、ミリアさんも僕の上に座る。
ミリアさんの体重が僕に押しかかって来た。
「ふう……」
「ふぅ……じゃありません事よ。いい加減ママを離さないと、二人の今の恰好はかなりおかしいですわよ……」
「あっ! ご、ごめん」
力入れすぎて指が中々離れない。それでも苦労しながら指をゆっくりとあけた。
ミリアさんが黙って立つと、僕のほうへと振り返った。
うう、絶対怒ってるよね。
「なんだ、酔わなくても強化魔法は自身にかけれるんだな」
その顔は変に笑っている。
怒っているよりはいいけど……不気味で怖い。
「え? 酔う? かけたのは今日でまだ……二回目ですけど……」
ミリアさんは突然真顔になって、ん忘れてくれ。と僕に言ってくる。
何を!? ってか僕は酔ったらかけてた!?
「心配して損しまわしたわ。さぁわたくしの従者よ! 相手をコテンパンにしてあげてください」
「いや、従者じゃないし無理だからね」
やだなー……強化魔法のかけすぎでミリアさんが壊れたんだよ? あれを見た後に自分に掛けろって言われても。
師匠も自分自身に掛ける事はいいとも駄目とも言ってなかったし。基本他人にかけるんだよね?
自分の魔力を自分に戻してどうするんだろう。でも、力がみなぎったのは本当だった。
執事さんが必死で早歩きで歩いて来た。
「はぁはぁはぁ……ラック様。ご準備のほうは出来ましたでしょうか……」
「ああ。うん。じゃない! はい。準備のほうは大丈夫と思います」
「では。審判のほうはせんえつながら爺とミリア様よろしいでしょうか?」
ミリアさんは頷き、わかった。と答えた。
執事さんが戻ると、僕の肩にミリアさんの手が置かれる。
「そのなんだ、色々怒って済まなかったな」
「いえ、僕もちょっと我がままがあったみたいです」
決まった事なんだしやるしかない。
怪我をしているミリアさんを戦わせるわけにはいかないし……。
「普通に考えればあなたは巻き込……」
「クアッツル?」
「いいえ、何でもございませんわ」
椅子から立ち上がる時にそっと足を触って小さい声でマナレギンスアップと補助魔法を唱える。腕は既にかけた、もうやるだけやる。
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