017 身構える前に戦いを挑んで来た

 ザックさんの誤解も解けて、明日の打ち合わせをして終わった。


 なんでも馬車を出してくれるらしく、好きな場所に連れて行ってくれるという。



「そこまでしてもらっていいんでしょうかね」



 ベッドの上で快適ですわ。と、ごろごろしているクアッツルと、その横で髪をとかしているミリアさんに聞いてみた。



「当たり前ですわ。わたくしは辺境のエルフですし!」

「それがよくわからないんだけど……友達みたいなもの?」



 本当は奴隷契約みたい。と言いたいけど流石の僕でも言葉選んだ。



「辺境のエルフ。辺境の貴族との話は薄っすらと聞いた事あるが、クアッツルの一族だったとはな」

「ふふ。驚きました?」

「ああ」

「あのーお二人で納得してるみたいですけど僕にはさっぱり……」




 二人に白い目でみられる。



「仕方がない。説明してやろう……部下からの話でしかしらないが、数百年前に魔族と人間の対立はあったのは知っているな。

 そこでエルフは全滅しそうになっていた人間を助け手を取り魔族を退けた。と話があって。

 その時のエルフと共に戦った人間は――――」

「エルフに感謝し、お互いを認め合って生きていく事を決めたのですわ」



 クアッツルも僕に自慢気に説明してくれる。



「へぇ……」

「へぇってあなたですわね」

「手を取るというよりは部下みたいな」

「わたくし達エルフでもその話は上がってますが、人間のほうがわたくし達を友というよりは守護者とみてまして……仕方がない事ですけれど、辺境の森を守護をしてますのは人間なんですけれども」



 だから、ああいう態度なのか。



「ラック」

「は、はい?」

「クアッツルが凄いのであって私達は一般の人間だ」

「そうですよね。



 ほら、やっぱりそうだよね。

 ミリアさんもクアッツルも僕を見たまま



「ママは今のままで大丈夫ですわ。あなたも普なるように努力するのですわよ」

「そうだね」

「軽く聞き流してますわね……」

「そういう所も含めてラックだ。さて灯りを消すぞ」

「はい、ママ」



 聞き流してるつもりもないんだけど、そう見えたのならしょうがない。


 サーリアからもいつもその辺は怒られていたなぁ……。



 

 明かりが消えた事で部屋が暗くなる。


 このまま一緒に寝ても良いんだけど、別の部屋。もしくは外の廊下で寝たっていい。

 

 女性と同じ部屋で寝る事はもちろんできるけど。でも、サーリアから女性と一緒の場所で寝るのは極力辞めてよね。と言われたのを思い出したからだ。


 普通の女性は男性と一緒の部屋で寝たくないのよ。と言われてるからだ。



 


 当たり前な事なんだけど部屋は暗いので僕は手探りで外に行こうとすると、足を掴まれた。


 そのまま床に押したおされて背中に重みが加わる。



「お、重い……で……す。ミリアさん」



 耳元で小さい声の返事が返ってきた。



「ほう、よく私とわかったな」

「いい匂いがしたので…………」

「………………」



 なんだろう、ミリアさんが黙った。


 それよりも本当に重いし、背中に当たったらダメな柔らかさが伝わるし体温も気になる。


 背中の重みは消えたけど、その代わり足を掴まれたままだ。

 二人とも床に座る形になって、うっすらと影だけのミリアさんが確認できる感じだ。



「別に今更部屋を出ていかなくていい、一緒のベッドでも無いんだ。そっちの予備を使え」

「そうなんですけど……やっぱり不味いかなって思いまして」

「君、冒険者だろ?」

「はいっ!」



 大きなベッドのほうで影が増えた。



「ママもあなたもうるさいですわ! わたくしはもうね…………ぐー……」



 ベットに倒れ込む音が聞こえ、また吐息が聞こえ始めた。



「静かに、クアッツルが起きる」

「そ、そうですね」

「冒険者だったら雑魚寝ぐらいは当たり前にあるだろ……今さら変な気を使うな。あと一つ言っておこう、私は女だから。とか女のくせに。という言葉が嫌いだ」

「はぁ……」



 女性冒険者に多く聞く話だっけ。

 でも、そういう人ほど早く結婚して冒険者を辞めていく。



「あっでもいきおくれてますよね」

「…………何の話をしてる」

「いえ。何でもないです」

「とにかく、ラックもベッドを使うといい。………………その、寝れないなら添い寝してやろうか?」

「あっそれはいいです」



 別にそこまで子供ではない。

 いっ! たい。


 僕の足をギュっと力いれられてからミリアさんの手は外れた。


 


 凄い理不尽を受けた気がする。



「じゃぁさっさと寝ろ」



 言うだけ言うとミリアさんの影はそのまま離れていきクアッツルの寝ているベッドへと入っていく。



 仕方がない。


 ミリアさんがいいならいいか……。

 僕も一つ予備にあったベッドの上に静かに入って目をとした。


 昨日までの堅いベッドと違ってふかふかすぎて中々に寝れなかったけど、気づいたら部屋の中が少し赤い色だ。



 日の光だ。



 大きなベッドを見ると、ミリアさんの大きな胸の間にクアッツルが顔を挟んでいる。

 しかも両腕は、思った通りの動きをしているし。

 

 クアッツルにやりたい放題されてりるミリアさんは苦しそうに唸っている。


 起きてはいないようで、二人ともやっぱり寝ている。



「あっ駄目だこれ」



 何がダメというのは、これ以上見ていたら変質者になりそうだから。


 ついでにトイレも行きたいし部屋をゆっくりと出る。


 静寂というのか廊下には赤いカーペットが引かれており誰もいない屋敷の中をトイレを探して歩く。



 トイレに行きたい。



 トイレっぽい部屋を開けても倉庫だったり鍵がかかったりとトイレが無い。



 窓から見える中庭には包帯だらけの男性がどこかに向かうのが見えた。



「お、おば……けじゃないか。ザックさんだよねあれ。包帯だらけだし」



 『クアッツルが凄いのであって私達は一般の人間だ』ミリアさんの言葉が思い出される。が、本当にトイレに行きたい。


 中庭の茂みでするわけにも行かないし、人に聞こうにも誰ともすれ違わないからだ。

 急いで下り階段をさがして中庭に出る。



 包帯だらけのザックさんは僕を見て、剣を構えたがすぐに解いてくれた。



「ざ、ザックさん、いやザック様トイレです」

「トイレ…………くっクックックック、意味は伝わった。…………回れ右して左手の扉だ。

 俺はここで待っている、済ませたら来てくれ」

「え? あっはい。ではっ」



 もう全力だ。


 もれる。


 冒険者ラック、貴族の家でおしっこを漏らす。そんな噂が、真実だとしても広まりたくはない。


 すっきりした後にザックさんの言葉をもいだした。



「あれ、話ってなんだろ……あっ口の聞き方がなってないとかで斬られる。いや多分ないよね。じゃぁなんだろ……ああっミリアさんを紹介してくれ? それだったらありそうだ」



 手を洗い中庭に戻ると、ザックさんは杖を付いたまま僕を待っていた。

 小走りで前につくと包帯の隙間から僕を見て来た。



「あの、ミリアさんは見た目の割に年行ってそうですけどいいんですか?」

「…………何の話だ」

「え。ミリアさんと付き合いたいからとかの話じゃ……それで好物や好きな物教えてくれって話かと」

「違う。それと、好物も好きな物も一緒だろう。足を負傷してるみたいだが、間違いが無ければ一閃のミリアだ。彼女に求婚したいとは思わない」



 え。一閃のミリア? か、かっこいい二つ名だ。あれ? ミリアさんって有名な冒険者なのかな。でも僕は聞いた事はない。



「聞いてるか?」

「あっいいえ」

「ふっ、面白いな流石エルフの従者だ」

「ええっと……それも違うんですけど……」

「謙遜するな」



 けん、けんそん……? 難しい言葉で意味がわからない。



「エルフの従者と見込んで頼みがある。俺と戦え!」

「えっええ!?」

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