015 辺境貴族と補助魔法士

 馬車は温泉場所に置いて徒歩で森の中を移動する。

 後で吹き飛ばされたクアッツルの父が受け取るように手配しますわ! と心強い言葉を貰った。



 昼間は比較的安全な森で、とはいえ油断をしないように歩く。


 歩く事数時間、僕の前には大きな滝の先端が目に移った。



「あんな大きな滝もあるんだ……」

「ええ、普通の人間風情にはみえませんですけれども……待ちなさいいいい!」



 クアッツルに何故か怒鳴られて、僕とミリアさんは立ち止まる。



「ママ。あっちに何が見えますか?」

「何って何もないな」

「あなたはどうなんです!?」

「どうって、だから僕には滝が見えるけど……ミリアさん僕の指先のほうです」



 気っと見当違いの所を見ているに違いない。

 あんなに大きくみえるんだもん。



「………………見えないな」

「眼も悪いのでしょうか……老眼ではなっぐふっ! い、痛いです。ミリアさん」

「よろけた肘があたった。すまないな」



 完全に棒読みのセリフで謝られた。



「あなたもこりませんわね……じゃなくて、ママが見えなくて当然ですわ。普通の人間には見えないようにしてるんですから」

「え。でも見えるよ?」

「だから、困っているんですわ! ぺッ!」



 すぐ唾を吐く……。


 背中に衝撃が走った。



「いっ!」



 横からミリアさんが僕の背中を叩いて来たのだ。

 八つ当たりは辞めて欲しい。



「よかったな」

「はい?」

「はい。じゃない。ラックは特別な人間だよ、周りから役に立たないって言われていたんだろ。良かったじゃないか」

「あ、ありがとうござ…………」

「どうした?」

「いえ。その普通の人が見えない滝が役に立つのかなーって」



 ミリアさんが黙って背負っているリュックをしょいなおした。

 クアッツルも突然に、さていきましょう。と、言って歩き出した。



 酷い。



 違うんだろうけどイジメを受けているような気分だ。



「そんなに気を落とすな」

「そうします」

「話がまとまった所であなた。この道を全力で走って下さいまし」



 クアッツルが止まるので、僕もミリアさんも止まる。

 そして走れと言われた道は特に変わりはない。



「ええっと僕?」

「あなた以外がいるのであれば幻覚でしょうね」

「ミリアさんが――」

「あなたが走って下さいまし」

「はい……」



 嫌な予感がするけど、全力で走れ。と言われたので後ろに下がり全力で走る。

 ミリアさんの『通常時は走っても遅いんだな……』と悲しい声を聴くとともにクアッツルの横を通り過ぎて見えない壁にぶつかった。



「いっ!」



 起き上がり見えない壁を触る。


 手で壁を触ると、空中に見えないガラスがあるような感じで、叩いても手が痛くなる。



「良かったですわ。結界まで通られたらどうしようかと思いましたわ。流石は薄汚い人間です、ちゃんと結界は昨日して喜ばしいですわ」



 毒舌だ。



「ごらんの通りエルフのわたくしは通れますわ」



 クアッツルは見えない壁の所を行ったり来たりしている。

 その度に、クアッツルの体が消えたり出たりと忙しい。




「結界の強度はわかった。さて、私達はどうやって通るんだ……クアッツル?」

「あっはい。わたくしと手を繋いでくださいませ。わたくしが許可した者だけが通れますわ! ママはわたくしと、あなたは…………わたしとも繋ぎたくないですわね。とはいえママと繋がれるのはもっと嫌ですし……」

「私は別に構わない。ラック、手を出せ」

「え、は、はい」



 僕が手をだすとミリアさんが手をつないでくれる。

 指と指が絡みあう恋人繋ぎ。というやつだ!



「ミ、ミリアさん!? ゆ、ゆびが」

「ああ、これか。はぐれるといけないからな」



 子ども扱いだった。

 一応もう20才なんだけどなぁ。



「流石にそこまで子供では……」

「私がはぐれたら困るのだ」

「あ、そっちですか……」



 ミリアさんの耳が赤い。


 クアッツルに連れられて結界を抜け、滝の裏へと入った。



「なんだろう、凄く気分いいきがします」

「そうだろうか、私は息苦しいな」

「古代エルフが作った道なので不透明な部分が多いのですわ……ごめんなさいママ」

「いや、怒っているわけではない」

「もうすぐ出口ですわよ」



 洞窟内側を歩いていて外の光が洞窟内へと差し込んでいる。

 外は眩しくて光しか見えない。



「と、いうか外が見えない?」

「ええ、みえませんわよ。では結界をでまわすわ」



 三人で洞窟内から出た。

 まぶしくて目を開けてられなかったけど、目を開けるとメイドさんが座っており、そのメイドさんが呼んでいただろう本を落とした。


 小さい木造の小屋で、僕達は鉄格子の内側にいるのがわかった。

 それを監視するかのようにメイドさんが座っているのだ。



「どどどどどど! はっエルフ。エルフ様がなぜ!」

「あら……おか……あの人の言う通りでしたわね。エルフのクアッツルですわ。この人間が街に行きたい。というので通らせてもらえまして」

「怪しい者ではない、ミリアだ」



 二人とも自己紹介してるけど、どこここ……ってか何で人がいるんだろ。


 秘密の抜け道ではなかったのかな。



「ええっと、冒険者のラックです」

「お待ちを、すぐに領主様。いえザック様を呼んできます!!」



 メイドさんは慌てて外に出ていった。

 僕達3人は見た目が牢屋の中へ取り残された。



「クアッツル……ここどこ!?」

「どこってあなたが来たいと言っていた街ですわ!」

「街というより牢屋だけど。端には大きなワラが積んであるし」

「私も下水とかそういう場所に繋がる物と……いや、怒っているわけじゃない。本当に助かっているよ」



 ミリアさんに言われて絶望のどん底みたいな顔のクアッツルは、やっぱりミリアさんによって慰められる。


 僕もこれ以上は何も言えなくなった。



 先ほどのメイドが走ってくる。

 次に老人と杖を付きながら顔に包帯を巻いた片腕しかない人を連れて来た。



 こわっ。



 だれっ。



「本当にエルフ…………ソシエ、爺お前たちは急いで歓迎の準備を」



 顔に包帯だらけの男がお爺さんとメイドさんに命令すると二人はまた小屋から出ていった。



「面白いファッションですわね」

「俺の事か……失礼。賊に襲われて治療している最中だ。エルフ様。お名前をお教えできるだろうか?」

「礼儀正しい人間は好きですわ! いつも来るエルフの身内。と言ったほうがいいのかしら。クアッツルと申しますわ。

 突然のこの者たちが街に来たい。といいますので」





 街に行きたい。とは言ったけど、


 偉そうな人と会いたい。とは言っていない……。




「友人のミリアだ」

「えっと、同じく友人? のラックです」

「わたくしの隣のいるのがママで、こっちが街に来たい。と言っていた家畜以下の人間ですわ」



 友人ですらなかった。



「…………中々に変な組み合わ、いや失礼。

 改めて俺の名前は知っていると思うが、辺境貴族のザック・グリファン。

 ザックと呼んでくれて構わない。

 領主であるアルト・グリファンは仕事のため留守にしている。

 会合以外でエルフが来るのは初めてであるが……そのゆっくりとしていってくれ、間もなく晩餐会の準備も整うだろう、俺が案内をする」




 鍵のかかっていなかった牢の扉を片膝をついて開けてくれた。

 着いて来いと言わんばかりにザック様、呼び捨てにしろって言われていたけど、じゃぁサックさん? 先に歩いて進んでしまった。



 ミリアさんが後に続き、その後ろをきょろきょろとしたクアッツルが付いていくので、僕も急いで最後尾に入る。




 おかしい。



 手紙を出したいだけなのに……。

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